3.4人であみだぶつ! 『ごくらく★生徒会』結成!

「おっはようございますっ!」

「おはようございます」

「おはよう〜!」

 わいわいとにぎわう、校門前。

 私は元気いっぱい、笑顔いっぱいに、次々とやってくる生徒たちにあいさつする。

 まだ目がぱっちり開いていない眠そうな人。あくびをしている人……。

 色んな人に出会う、朝のあいさつ運動。これも、生徒会の業務なんだっ。

「会長っ! おっはよー! 今日もやってるね〜」

 ジャージ姿で話しかけてきたのは、髪型がポニーテールの可愛い女の子。

 私の親友の、松崎まゆうちゃんだ。

 明るい茶髪は地毛。水泳を習っていたから、塩素で色が抜けちゃったんだって。

 まゆうちゃんが入ってるバスケ部の朝練、もう終わったみたい。

「まゆうちゃん、おはよっ! 朝練お疲れさまー!」

「ありがとっ。……朝から元気いっぱい、笑顔を振りまかないといけないなんてね。あたしには無理。って、みかるはいつも元気か。生徒会、大変そうでご愁傷さま!」

「先に教室行ってるね〜」と、まゆうちゃんがひらひら手を振りながら歩いていく。

 やっぱり、生徒会って大変そうに見えるんだなぁ。

 でもでもっ。私は、こうしてみんなで早起きして、あいさつ運動なんて、楽しくってたまらないけどな〜。

 なーんて思っていたら。

 ぬいぐるみ姿の壱おじいちゃんと阿弥陀如来サマがなぜか、

 ──「むむむぅ。におうぞ」

 ──「においますね……」

 と、ヒソヒソ話し合っている。におうって、なにが?

 私は気になったけれど、まさかみんなの前でぬいぐるみに話しかけるワケにはいかないから、そのまま何ごともなかったのような顔で、あいさつ運動に戻った。

 ◇

「みんなおねがいっ! 私と命運共にしてっ!」

 放課後の生徒会室。顔の前で、パンッと両手を合わせる私。

 せと、ゆゆりん、一心くん。生徒会メンバーたちにひととおり、昨日の出来事を話す。

「あ? 極楽浄土ぉ? なに言ってんだ、みかる。ついにボケたか?」

 せとが、いちご牛乳片手に机に肩ヒジをついて、にっくき表情で私をバカにする。

 むっかあ!

「ボケてないわっ! ちがうもん! ほんとに昨日、私の家に阿弥陀如来サマが来たのっ!」

 ばんっ、と机をたたく私。

 ──私だって、昨日のことはただのボケだって信じたいよ!

 でも本当に、昨日、私が見て聞いたことは、夢なんかじゃない。

 クッキーとゼリー食べてたらいきなり、阿弥陀如来サマと、死んだおじいちゃんが現れて……。

 その二人が確かに私に、あみだぶつの仕事を手伝ってくれって……。

 そう言って、ぬいぐるみになったんだもんっ! ──はッ!

 私の頭に浮かんだのは、犬とネコのふたつのぬいぐるみ。

「忘れてた! この犬とネコのぬいぐるみを見て!」

 スクールバッグから、バッ、とぬいぐるみを取り出して、みんなに見せる。

 そうだ。阿弥陀如来サマと壱おじいちゃんは、ゴーインに話を終わらせたあと、このぬいぐるみになったんだった!

「ただのぬいぐるみ……ですわよ?」

「この犬とネコの表情、可愛いですねー」

 ゆゆりんと一心くんは、ぬいぐるみを抱き上げてまじまじと見たり触ったりしている。

 私は、「見てて!」と言ってから、スウゥ、と息を吸い込んでさけんだ。

「い……いでよ! アミターバああ! アーンド、壱おじいちゃんっ!」

 その場でくるっとターンして、ぬいぐるみに向かってビシッと人差し指を突き出した私。

 ちなみに、アミターバってのは、阿弥陀如来サマのこと。

 古代インド語の、梵名──サンスクリットだよ。

 シーン、と静まり返る生徒会室。あ、あれ? なにも起こらない。

「みかるさん……疲れてるんですか?」

「なっ!」

 いくらなんでも、そりゃーないよ。一心くんめ!

 っていうか、阿弥陀如来サマとおじいちゃんが現れないって、やっぱり昨日のことは夢だったのかな、なーんて……。

 思ってたら、次の瞬間、私が昨日お仏壇の前で感じたまばゆい光が、生徒会室に満ち満ちた。

「なっ! なんですの⁉」

「まぶし……!」

 トン、と、背の高いロングな銀髪の、中性的な人がしなやかに姿を現した。輝く後光。

 そしてもう一人。ふわふわと、宙に浮いているのは──

「──叫ばなくても、別に良いのですが」

「ほほーう、ここがみかるの学校の生徒会室か〜」

 阿弥陀如来サマ! と、壱おじいちゃん! 

昨日言ってたことは、ウソじゃなかったんだ!

「うおおっ! まじかよ!」

 せとが驚いてる。

 ゆゆりんと一心くんも、トツゼン現れた二人に、あっけにとられている。

 へへん! 見たか! これが神様のなせるワザ(?)なんだからねっ!

 得意げな私に、阿弥陀如来サマは「では、自己紹介からいたしましょうか」とかしこまる。

「あ、いーのいーの。私がゼンブ、昨日のことは話したから」

 私は、せととゆゆりん、一心くんのことを、阿弥陀如来サマと壱おじいちゃんに紹介した。

「みかるがいつも、世話になっとるようで。ありがとう」

 と、壱おじいちゃんが三人にお礼を言ってくれる。

「みかるさんがいてくださるおかげで、生徒会室はいつも明るく、楽しいところですわ」

 ゆ、ゆゆりんっ!(感涙)

「みかるさんには、僕らも色々とお世話になっていて……こちらこそ、ありがとうございます」

 一心くんっ!(ハート)

「いえいえ。みかるのじーさん。オレら色々、迷惑こうむってますが、気にせずみかる(このアホ)の世話は任せてください」

 はぁあっ? な、な、なにおぅ!

 今、かっここのアホって言った!

 アホって言うヤツがアホなんだからあ!

 しかもしかも、私、みんなにメーワクなんてかけてないもんっ!

 くうぅっ! せとめ! 

 私は心の中で毒づきながらも、それを口には出さず、なんとか気を取り直して言った。

「ところで……阿弥陀如来サマ。昨日も言ってたけど、あみだぶつの仕事って、命がけなんだよね?」

「もち!☆」

 と、阿弥陀如来サマが、良い笑顔で親指をぐっと立てる。

いやいやいや、『もち!☆』じゃなああーい! 阿弥陀如来サマ、キャラ変わってません?(汗)

「あみだぶつのお仕事、僕たちに務まるでしょうか……」

「私は、みなさんについていきますわ。だって、とても面白そうですもの」

 ほえ!

 私はびっくりして、「命がけだよ!?」とゆゆりんにツッコミをいれる。

「ちっ。しょーがねーな。生徒会長の魂守るためだからな……やってやんよ。いくらみかるがアホ女だっつっても、放っておくのはさすがにかわいそうだもんな」

「みんなぁ……!」

 生徒会メンバーのキズナを感じて、うるうるうる、と瞳をうるませる私。

 私の魂のために、みんなありがとうっ!(最後、せとだけは、ほんとにムカつくけどねっ!)

「決まりですわね。なにか、私たちを指す、トクベツな名前などあった方がよろしいのでは?」

 ゆゆりんの提案に、「それもそうですね……」と、うなずく阿弥陀如来サマ。

「みかるさんの魂が極楽浄土にいけるように……『ごくらく★生徒会』なんてどうでしょう? こう、ポップな感じでいこう! みたいな」

「それは良いですね! それにしましょうか!」

 一心くんの提案に、ノリノリの阿弥陀如来サマ。どうやらお気に召したみたい。

「『ごくらく★生徒会』に決まりですわね」

「頑張ろーぜ〜」

 トクベツな名前が決まったところで、阿弥陀如来サマが、ごほん! とせきをひとつして、キリリ、と眉をあげてかしこまった。

「さっそくですが、邪神に美魂を奪われている生徒を朝、見つけました。……壱よ。そなたも見ただろう?」

 壱おじいちゃんが、空中でくるりと一回転してかしこまった。

「ふむ。朝のあいさつ運動の時に見た、あの女子生徒があやしいな。みかるの友達じゃ。まゆ……なんとか言っとったかな」

「そうだ。壱よ。それは正しい……私にはわかります。あの女子生徒は完全に、邪神に取り憑かれている様子でいらっしゃる」

 阿弥陀如来サマは、一層真面目な表情になってから、言った。

「早く手をうたないと、彼女は邪神に食い殺されてしまいます」

 こ、殺され……⁉

 阿弥陀如来サマが発した不穏なワードに、私はびくっと固まる。

 せともゆゆりんも一心くんも、心なしか顔がこわばっている。

 まゆうちゃんが殺されるなんて、そんなの、そんなのゼッタイ……いやなんだからあ!

「私たちはどうすればいいの⁉ ねぇ! 阿弥陀如来サマ」

「彼女の抱えている悩みとか、不安をとにかく聞き出すのです。核心に触れたその時、邪神は姿を現すでしょう」

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