コロニー・ファンタジー

滝川 海老郎

第1話 第1コロニー、オニール

 2060年、フルダイブVRMMOはついに完成し、世界へ向けて公開された。

 そのうちのひとつ「コロニー・ファンタジー」はオニール・コロニーの島3号型を舞台とする、宇宙SFとファンタジーの融合作品であった。


「ここがオニール」


 俺は新海アキラ。高校3年生。

 たった今、コロニー・ファンタジーを始めたところだ。

 地球周回軌道上で宇宙に浮かぶコロニーの映像が流れたあと、プレイヤーは宇宙船の中で目覚める。

 コロニーの宇宙港に入港して、デッキを降りるとコロニーのシリンダー中央でまだ無重力だった。

 中央ポートからエレベーターで地面まで降りていくと次第に重力を感じていく。

 直径8km、長さ40kmのコロニーは回転することで遠心力が発生しこれを疑似重力とする。


 目の前にはヨーロッパ風都市、セントラル・バザールが広がっていた。

 赤い三角屋根、白い壁、レンガの町並みは中世ヨーロッパのようだ。

 町中には人々が往来して、都市内の馬車が走っている。

 ほとんどは馬だが、大型馬車はサイのような恐竜のようなモンスターが引いているのが見える。

 人々も人間——ヒューマン、人族のみならず、猫耳族やエルフ、ドワーフも交じっていた。


 中でもプレイヤーはARメガネを掛けているので、判別可能だ。

 例にもれず俺もそうだった。

 これはゲームUIをオーバレイ表示するのに必須だった。

 今も視界の隅にステータスとマップが表示され、人々の頭の上にはキャラクターネームが浮かんでいる。

 どうせゲームなんだから直接視界に投影することすら可能なのに、あくまでリアリティーの都合、メガネでUIをつける選択をしている。

 重力はもちろん、ほとんどの物理法則はそのまま適用される。


 サバイバルジャケットにズボン仕様で荷物はない。

 というのも、わりとリアリティー重視の設計ではあるものの、アイテムボックスと魔法というファンタジー要素は採用してあるのだ。

 荷物を背負って歩くのは面白さに直結しない、と判断されていた。

 剣だけもしくは重火器よりも、ファンタジーとして魔法も使える判断をしたのが名前の理由でもある。


 観光用ファンタジーのコロニーという、一風変わった設定だ。

 爆弾とかの重火器のうち威力の大きなものは、コロニーを傷つける可能性があるので使用禁止である、という説明も宇宙船で受けていた。

 魔法はそういう世界観としか言いようがないが、上手いことSFの科学と魔法のある未来世界という設定にされている。


 なお現実世界では、ドーナツ型の小型コロニーが国際協力により、やっと完成し稼働を始めたばかりで、一種のコロニーブームだ。

 直径は同じ8kmなものの、地面は幅50mもないため、人工大地と呼ぶにはいささか不足で、宇宙ステーションに近いものだった。

 お金持ちは大金を払い、この本当のコロニーに旅行に行く人もいるが、一般人には無理な話である。

 しかし俺たちにはフルダイブVRMMOという、大衆向け仮想世界ができた。

 最新医療と科学の勝利だ。

 コロニー計画ではこのドーナツ型をあと二個作ったあと、月を本格的に開発して、大型コロニーの建設を始めるらしいが、百年計画とか言われている。

 ということで現実になった頃には死んでそうだ。


 話を戻してここ第1コロニー、名前をそのままオニールという。

 森と草原、湖、川などの自然が多く、サバイバル生活が楽しめる。

 マップ上には、様々なモンスターが生活しており狩りをするという趣向だ。

 また森や草原には古代魔法科学文明の遺跡とされる残骸があり古代の金貨やお守りといった発掘、探検要素もあった。

 こちら側の端にはセントラル・バザールという中規模の都市があり、ここがスタート地点で中心都市となっている。

 反対側の端には遺跡のダンジョンがあってボスを倒したら、向こう側の中央ポートへと行ける通路が開いて、オニールはクリア、第2コロニーへと移動となる。

 1面クリアで2面と言った具合だ。もちろんすべて仮想空間なので、現実では無理なファンタジー要素が可能だ。


「アキラ君」

「なんだ、マナ」

「なんだ、じゃないよ。ぼーとして」

「この世界の設定を頭の中でおさらいしてた」

「ふふふ、ファンタジー都市だもんね。でも地面が湾曲しててコロニーなんだもんね」

「だよな、頭上にも反対向きで地面があるのが理屈では分かってても変な感じ」

「まるで科学技術のほうが、魔法みたいだよね」

「言われてみれば」


 二人で頭上を見上げる。

 地球なら青空だろうが、ここでは遠いためモヤがかかって霞んだ大地が見える。

 地面が3面、そして海と呼ばれるガラス張りの面が3面ある。

 マナはクラスいちの美少女とかいうハイスペック・ガールだ。

 新しいことにも興味津々であり、今回はVRMMOに注目して、クラスでこの手の物に一番詳しそうというオタクの俺に白羽の矢が立ったというわけ。


「一緒にプレイできて、うれしいわ」

「あの、俺なんかでいいのか?」

「言語が通じて、オマケに詳しいんでしょ」

「まあ、それくらいなら」

「それくらい、じゃないのよ。そういうのも立派な技能だと思うわ、私は」

「ありがと」

「こっちこそ、引き受けてくれて、ありがとう。アキラ君」


 マナが笑う。くそかわいい。

 惚れてしまいそうだ。

 学校でも朗らかだが、こんなに笑顔なのは見たことがない。


「それに魔法とか……ファイア」

「だな」


 マナが指先に火を灯す。

 二人でファンタジー世界にワクワクしている。

 今までソロプレイ中心だった俺も、こんな彼女と一緒だと別の楽しさを感じる。


「手付金は金貨十枚、銀貨十枚か」

「うん、金貨とかワクワクしちゃうね」

「だよな」


 ちなみに金貨は結構な大金で、銀貨の下に銅貨もある。

 銅貨が百円、銀貨が千円、金貨が一万円、くらいだと思うが、物価そのものが日本と違うので、あまり当てにはならないという。

 仮想空間なので、もちろん現実のお金を両替したりする方法もない。


 石畳の道を歩いていく。

 途中の脇道に地下への階段があった。


「この、宇宙公園だって」

「お、おう」


 看板が出ている。

 異世界語なんてわけもなく、ご都合により日本語だ。なんとなく変な感じはするものの、読めないと何かと不便なので、しょうがないのだろう。

 もちろん看板は異世界文字と異世界語で表記して、ホログラムで訳を載せることも可能ではあるが、NPCと交流するなら面倒くさい。


「わぁ、アキラ君、すごい」

「ああ、目が回りそうだ」


 地下の先には公園スペースにガラス張りの壁があり、宇宙が見渡せた。

 コロニーなので回転しており、思ったより早い。

 地球や月も見えるが、すぐに流れていく。


「なんか、ちょっと怖いかも」

「だよな」

「面白かった、よし、次はファンタジーを楽しもう」

「おう!」


=======

カクヨムコンテスト短編部門、1万文字上限のため、とりあえず4話で終わります。

よろしくお願いします。

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コロニー・ファンタジー 滝川 海老郎 @syuribox

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