第8話 俺は広告研究会に入って人脈を増やしたい(後編)
夕方、最寄り駅に着くと空はすっかり群青色に変わっていた。
人混みを抜けてマンションの廊下を歩くと、どこか懐かしい香りが漂ってきた。だしの匂いだ。
玄関の扉を開けると、リビングからぱっと明かりがこぼれる。
「おかえりなさい、お兄ちゃん」
振り向いたあかりは、淡いピンクのワンピースに白いエプロンをかけていた。
胸元のレースが控えめに揺れ、袖口からのぞく細い手首が華奢で愛らしい。
まるで本当に“新婚妻”を迎えに来たみたいな光景に、俺は思わず息をのんだ。
「ど、どうしたんだよ、その格好……」
「ふふっ、ダーリンおかえりなさいコーデです。お兄ちゃんのために考えたんだから」
あかりは少し恥ずかしそうに笑いながらも、得意げにスカートの裾をつまんで見せる。
その仕草が妙に様になっていて、俺は目を逸らすしかなかった。
テーブルの上には、湯気を立てる味噌汁と煮物、そして照りのある焼き魚が並んでいた。ひと目で手間のかかった料理だとわかる。
「おぉ……。なんかすげぇな。実家の母ちゃんみたいだ」
「やだ、お兄ちゃん。そこは“ありがとう、美味しそう”って言うとこでしょ」
軽く頬を膨らませるあかりに、俺は慌てて「ありがとう。すごく美味しそうだ」と言い直した。
彼女はすぐに笑顔を取り戻し、「よろしい」と言って俺の隣に腰を下ろした。
◇
箸を進めながら、俺は今日のことを一気に話した。
ゼミの初回、藤森先輩に誘われたこと、広告研究会の説明会に行ったこと、そして入会を決めたこと。
「へぇ、広告研究会かぁ。なんか楽しそうだね」
「うん。人脈を広げられそうだし、経験も積める。起業のためにも絶対に役立つと思う」
俺が熱を込めて語ると、あかりは相槌を打ちながら、目を細めてじっと聞いてくれた。
その表情はどこか誇らしげで、俺のことを応援しているのが伝わってくる。
「やっぱりお兄ちゃん、ちゃんと考えてるんだね。すごいなぁ」
「……そ、そんな大したもんじゃない」
「すごいよ。私、なんか嬉しい」
その一言に、胸がくすぐったくなるような感覚を覚えた。
◇
食後の片づけを終え、俺はシャワーを浴びて部屋着に着替えた。
髪をタオルで拭きながらリビングに戻ると、ソファに座ったあかりがこちらを見上げてきた。
「ねぇ、お兄ちゃん。ちょっと座って」
「ん?」
言われるまま腰を下ろすと、あかりは立ち上げって自室に戻っていく。
しばらくして戻ってきた彼女の姿に、俺は思わず固まった。
——薄手のニットにショートパンツ。
柔らかな初夏の色合いでまとめたそのコーデは、シンプルなのにやけに色っぽい。
特にショートパンツからのぞく白い太ももは、健康的で眩しかった。
「えっと……今日は初夏の膝枕コーデ、です」
顔を赤くしながらも、彼女は少し照れ笑いを浮かべてソファに腰掛けた。
そしてぽんぽんと自分の太ももを叩く。
「はい、お兄ちゃん。どうぞ」
「い、いやいや……。さすがに恥ずかしいだろ」
「おにいちゃんは私の膝枕に不戦敗しちゃうの?」
挑発するような笑みを浮かべるあかりに、俺は観念して頭を預けた。
強引に引き寄せられ、そのまま彼女の太ももに頭が沈む。
◇
柔らかい。
温かくて、包み込まれるような感触。
至近距離から香るシャンプーの匂いと、かすかな体温。
思わず心臓が速くなる。
「ねぇ、お兄ちゃん。膝枕のどこが好き?」
「どこがって……」
「三つ言って。そしたら明日もやってあげる」
あかりは小悪魔みたいな笑みを浮かべながら、俺の髪を優しく撫でてきた。
恥ずかしくて抵抗したいのに、その手が心地よすぎて言葉が喉に詰まる。
「……まず、手だ。あかりの手が、やさしく撫でてくれるのが落ち着く」
「うん、いい子」
彼女はさらにゆっくりと髪を梳くように撫で続ける。
「……それから、太もも。柔らかくて……気持ちいい」
「ふふっ、ありがとう」
顔を赤らめながらも、嬉しそうに笑うあかり。
「最後は……」
視線を上げると、ニット越しに膨らんだ胸が目に飛び込んできた。
胸の重みで布地が持ち上がっているのを、下から見上げる形になっている。
「……その……眺めが……癒される」
「もうっ……お兄ちゃんのえっち」
真っ赤になったあかりは小さく抗議しながらも、手を止めずに俺の頭を撫で続けてくれた。
◇
その夜、俺たちはお互いに顔を真っ赤にしたまま、言葉少なに時間を過ごした。
あかりの膝の上で目を閉じると、どうしてこんなに安心できるのだろう。
まるで、本当に帰る場所はここなんだと錯覚してしまうくらいに。
ーーーー
毎日深夜に鋭意執筆中 応援♡ありがとうございます
近況ノートで あかりのイメージも共有しています。
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