第5話 佳奈姉さんはコーディネートで悩殺したい(前編)

週末の昼下がり。

 佳奈姉さんとあかりがショッピングに出かけているあいだ、俺は自分の部屋を掃除していた。


教科書やノートを机に並べ直し、スーツケースをクローゼットにしまい込み、ベッドのシーツも替えた。

 まだ新しいはずのこの2LDKは、姉が一からインテリアを整えてくれた。おかげで生活には困らないが、どこか「用意された箱」のようでもあった。


数時間後。玄関がにぎやかになる。


「ただいまー!」


「お兄ちゃん、荷物、ちょっと手伝って!」


ドアを開けると、両手いっぱいに紙袋を抱えた二人が帰ってきた。

佳奈姉さんはブランドもののショップバッグを、あかりはカジュアル系の袋を抱えている。


「おい、どんだけ買ったんだよ」


「ふふ、あんたに見てもらうために買ったんだから」


佳奈姉さんが悪戯っぽく笑う。


リビングに荷物を置き、あかりが3人分の飲み物を用意して戻ってくると、姉が唐突に宣言した。


「今からファッションショーをやりまーす!」


「はぁ!?」


「もちろんモデルはあかりちゃん。あんたは観客。そして審査員」


そう言って姉は、あかりを自分の部屋へと追いやった。




◇1着目◇


しばらくして、ドアが開く。


「じゃーん。春のデート服コーデです」


あかりが恥ずかしそうに現れた。


淡いピンクのブラウスに、白のプリーツスカート。足元はベージュのパンプス。

胸のふくらみを優しく包むシルエットに、視線を奪われる。


「お、お兄ちゃん。ど、どうかな……?」


「え、あ……似合ってる。すごく、春っぽい」


「でしょ?」と、佳奈姉さんはニヤリ。


「ちゃんと感想言えたじゃない」




◇2着目◇


 今度は白いエプロン姿で戻ってきた。

 下はワンピース型のルームウェア。胸元のリボンが強調しているのは、明らかに大きな胸の存在感だった。


「ダーリンおかえりなさいコーデです」


 あかりは笑顔で、両手を広げてみせる。


「こ、これは……とても癒される」


「ふふっ、ありがと」


言わされている感満載だが、まったく嘘じゃない。

まるで帰宅した夫を迎える新婚妻のようで、俺の心臓は限界に近づいていた。




◇3着目◇


あかりが着てきたのは半袖のチュニックワンピと短いレギンス。ラフなのに、胸元と太ももがやけに目を引く。


「“初夏の膝枕コーデ”です」


 あかりはローテーブルの前に座り込み、太ももをぽんぽんと叩いた。


「お兄ちゃん、ここに寝てみて?」


「はぁ!? 佳奈姉も見てるんだぞ!」


「だからこそでしょ?」と、佳奈姉が煽る。


「ほらほら、実際に体験しなきゃ感想は言えないって」


「ちょ、ちょっと待っ——」


抵抗する俺の腕を、あかりがぐいっと引っ張る。

次の瞬間、頭が柔らかな太ももに沈んだ。


「ど、どう?」


 あかりが上から覗き込む。甘い香りが鼻をかすめ、視界いっぱいに太ももの白さが広がる。


動揺して言葉に詰まる俺の横で、カシャッと音が響いた。


「佳奈姉!? 写真撮っただろ!」


「もちろん。記念だもの」


 姉はスマホを構えたままにやにや笑っている。


「やめろって! 絶対消せよ!」


「消さないわよ。だって、結婚アルバムに入れる予定だし」


「結婚!? そんな話は——!」


あかりは顔を真っ赤にしながらも、俺の髪を優しく撫でていた。


次はいよいよ、最後の“勝負コーデ”らしい。


姉の圧と、あかりの羞恥心と、俺の動揺で、リビングの空気は妙に熱を帯びていた。

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