第4話
おばあちゃんが入院してからは、いつもの5人で交代で病院に顔を出すのが日課になった。
私は、学校が終わってバイトが始まるまでのわずかな時間でも、なるべく立ち寄って、必要なものを届けたり、花の水を替えたりしていた。
おばあちゃんは、毎日違う孫が遊びに来るかのような感覚で、入院生活をわりと楽しんでいるようだった。
「働いとる時は、あの子らが会いに来てくれるなんてなかったけぇねぇ。倒れてよかったわ〜。」
と、冗談めかして笑っていた。
桐澤洋裁店のシャッターは、私の字で書いた一枚の紙が貼られている。
「しばらくお休みします。ご迷惑をおかけします。」
家は、おばあちゃんの提案通り、“みんなの勉強スペース”という名目のたまり場になっていた。
……まあ、名目だけは、ね。
一応、みんなそれぞれに教科書やノートを広げてはいる。
けど――
はっしは、勉強しながらお菓子に夢中。そのままゴロ寝。子供か。
神は女の子から連絡が来て、途中でどこかへ出かけていく。チャラい。
ちーちゃんは真面目に取り組んでるように見えて、携帯タイムが頻発。まぁ仕方ない。
私はといえば、睡魔に勝てずに自室に逃げて爆睡。
……たぶん唯一、最初から最後まで真面目に勉強してるのは、隼だけ。
そんな、夏休み目前の土曜日。
この日も、うちには自然といつもの5人が集まっていた。
「夏はさ〜、花火行こ!宮島の花火!杏たん!二人で!海も行きたいな〜」
テンション高く、はっしがひとりで盛り上がってる。
「いいけど……みんなで行こ」
私は、できるだけ自然に返した。
「なんでやねん!二人で行こって言うてるやん!夏は恋の季節やろ!」
まずい。
そういうことを、隼の前で軽々しく言われると、気まずい。
だって隼は、はっしのことが――……
慌てて話をそらす。
「私、バイトもあるし、おばあちゃんのお見舞いも行かないけんし。はっし一人の相手してるより、みんなまとめて相手した方が効率が良くない?」
我ながら、ひどい言い訳だった。
「なんやねんそれ〜〜!!」
はっしは露骨に不満そうだったけど、
「まぁまぁ、みんなで行った方が絶対楽しいじゃん」
と、ちーちゃんがさりげなく助け舟を出してくれた。
「俺はもう宮島の花火は彼女に誘われとるわ。このモテ男の予約は早めにな!」
神が得意げに言ってる。
「うちも宮島の花火は、他の子と約束したんよね」
ちーちゃんが気まずそうに言った。
「えええ!!!ちーちゃん!!!!嘘じゃろお!!!」
私はショックを隠せない。ちーちゃんが来なかったら
はっしと隼と私の三角関係で行かなきゃいけなくなる。
それはそれで楽しいと思うけど、隼的にははっしと2人で行きたいだろうし、私はただのお邪魔虫になってしまう!
ていうか、ちーちゃんが私よりも優先する友達とは、、?
私はすっかり子供みたいに拗ねてしまった。
明らかに拗ねてる私を見て、神と隼はニヤニヤと面白そうに見てきた。
「誰??他の子って」
私は問い詰めた。
「あのー、、。寺山。」
寺山くんは去年別れたはずのちーちゃんの元彼だ。
「は??やり直したん?」
はっしが聞いた。
「いや、やり直してないけど誘われたけぇ。」
いつもサバサバしてるちーちゃんが、
こんなふうに中途半端な態度を見せるのは、珍しい。
恋愛って不思議だなぁと思った。
人を弱く変えてしまうような一面がある。
たぶん、ちーちゃんが一緒に行くのが他の女の子やったら、私の嫉妬センサーが全力で発動してたと思う。
でも、寺山くんなら、――許すか...
隼と逆だなぁと思った。
隼の好きな人が他の女の子だったら嫌なのに、はっしだったら応援したいって思う自分。あぁ自分がよく分からない。
「じゃあ、杏たん!花火はやっぱり俺と二人で行こうな!」
はっしが言ってきた。
「隼は?誰かと約束してる?」
隼が顔を上げて、少し気まずそうに言った。
「いや、別にしてへんけど」
「じゃあ、隼とはっしで行けば??」
「はぁー??なんで野郎二人で花火大会行くねん!おかしいやろ!」
はっしが叫ぶ。
あーあその発言は隼が傷付くって!!と私は心の中で叫んだ。
「俺もこいつと二人は無理やわ。うるさすぎ」
自分の気持ちを悟られまいとしているのか、隼がそう言った。
「仕方ない、、じゃあ私も付き添うか・・・」
「よっしゃあああ!!!」
はっしが歓喜の声を上げて、
隼は目を細めて、静かに笑った。
「まぁ海はみんなで行こ!ちーちゃんもね!」
「うん!楽しみやね」
ちーちゃんが笑顔でうなずく。
「おいおい!俺は??」
神が唸る。
「神は彼女と行きんさい〜」
「おいおい!いつも数多の彼女よりお前らを優先しとるやろ〜感謝せぇ!」
「まずは一途になれや!!!」
はっしが即ツッコミを入れて、みんなが一斉に笑った。
この時はまだ――
あんな悲しい夏になるなんて、誰も思ってなかった。
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