Ep.5 殺影同盟

「そこで何をしている?」

 老人は威嚇するように言った。ここで持ち主が来るのを待っていましたと言っても、俺のことを知らなければ何も意味はない。俺は経緯を話すことにした。

「あの、俺…」


「なるほど、それでお前は魔術で略奪者を倒した訳か」

 老人は満足するような口調で言った。

「私はレオニダス。殺影同盟シャドウバスターズの者だ」

 改めてレオニダスのことを見てみる。長めのきれいな黒髪に、シワだらけの汚らしい白い肌。ボロボロのシャツとズボンを着ており、黒色のマントを付けている。第一印象は、怪しい男、といったところか。

「シャドウバスターズってなんだよ。あんたのことも詳しく教えてくれよ」

 老人は考え込むように視線を逸らすと、おもむろに頷いた。

「わかった。掻い摘んで話そう」


 レオニダスの話は長くて、何度も時間の流れが飛んだりして複雑だったが、大まかには掴めた。


 レオニダスは5歳の頃にこの影世界シャディールドに繋がる魔法陣を発見し、両親とともに迷い込み、親をシャドウに殺された。しかしレオニダス自身はそこで魔力が覚醒し、魔術で生き延びた、驚いたことにそれからずっと影世界シャディールドを流離っているらしい。 


「シャディールドは元はシャディーワールドという名称なのだが、いつかの間に略された。いつかはもう覚えていない」

「…あの、失礼な質問ですけど」

 一応前置きして質問する。

「あなたって、何歳なんですか?」

「そんなことか。…とはいっても、正直覚えていない。私はこの世界で何十年も戦い続けてきた。自分の誕生日も忘れた」

 なんだそれ。どれだけ夢中で戦い続けていたら自分の年齢を気にしなくなるのか、俺には分からない。見た感じだと、年齢は60代後半か70代中盤くらいか。


 レオニダスはそれから自己流で魔術を鍛えて、影を憎む者の集う同盟シャドウバスターズを立ち上げた。殺影同盟シャドウバスターズは最初は全く人が集まらなかったらしい。当時はスマホもなかったし、この世界シャディールドのことも世間に認知されていなかったからだ。


「あの頃は大変だった。影世界をいつまでも歩き回って放浪者を探し続けて、才能のあるものを引き抜いていた」

 そしてレオニダスは、最近はひたすらに影を狩る日々が続いており、さらに「予言の勇者」を探しているという。


「予言の勇者って誰だよ?」

 レオニダスは困ったようにヒゲを触った。

「それを今探しているんだ。…というか、予言の話をしていなかったな。まずは予言から教えよう。

 予言とは、この影世界に伝わる39の予言のことだ。その多くはまだ判明していない。しかし、この予言には古代の魔力が秘められているらしく、予言された出来事は必ず起きるらしい。なお、全予言を知っているのは、影王シャドウキングだけだ」

「影王って?」俺は口を挟まずにはいられなかった。

「後で解説する。とにかく、殺影同盟は全ての予言を把握するためにありとあらゆることをしてきたのだが、成果はなかった。

 そんな中、5年前に事件が起きた」

 レオニダスは咳払いをして、また話し出す。相当やばい事件らしい。


「影王が突然私の前に現れたんだ。そして、弄ぶような口調で、終末の予言を私に教えたんだ。

 …終末の予言とは、要約すると

『人間界は影により破壊し尽くされる。人間界を救いたければ、三人の勇者を見つけ出し、影との最終決戦に勝利することが必要だ』

 …という感じだ。予言によると、三勇者は

 <破壊者>、<賢者>、<探索者>に分けられるらしい。<賢者>は、戦闘の分析、<探索者>は道の開拓、…<破壊者>は敵にとどめを刺す役目があるらしい。」

「勇者を見つけられなかったら、俺達はどうなるんだよ?」

「…負けが確定する」

「じゃあ、探そう!何グズグズしてるんだよ!さっさと放浪者を探し…」

「ちょっと待て」

「は?」

「…実は、訊きたいことがある。お前はあの時、ナイフを止めたのだろう?」

「そうですよ、勝手にやってたんです」

 レオニダスは考え込むような表情をした。一体、何なんだ?

「これはあくまで私の予想なんだが…無意識で魔術を使うというのは、強力な魔力がいる行為だ。さらに、魔力の声というのも気になる。…お前は、もしかしたら、……予言の勇者かもしれない」


「…え?」

 何を言ってるんだ、この人は。

「俺が、伝説の勇者?」

「そうだ。私の見込みだと、お前は今まで出会ったどんなものよりも魔力が強い。影に殺されそうになり、魔力が覚醒してちょっと魔術を使って生き延びる程度の者もいる。だが、お前はそういった者を優に超えている。さらに、お前の魔力は特殊なんだ。なんというか…不気味というか、明らかにイレギュラーなんだ。お前はひょっとしたら、予言の勇者として、人間界を救うものなのかもしれない」

「何でだよ!俺は、絶対にそんなことしない!あんなに危険なやつと戦うなんて、絶対に嫌だ!!!」

「何を言っている。さっき、言っていただろう?予言の勇者を探そう、と。自分がそうなのかもしれないなら、戦闘の道を選ぶのも理にかなっているのでは?勇者でないとしても、お前の魔力は相当強い。殺影同盟に入って欲しい」

 ぐぬぬ… 言い返せない。俺は世界の終わりを目の当たりにしたくない。俺はあんなに凶悪な怪物を前にしたのだから、人間界があいつらに支配されたくないと誰よりも強く思っている。

それに、これは運命なのかもしれない。俺がここで戦いの道を選べば、退屈でつまらなかった人生を変える転機となるのかもしれない。

「勝手にしろ。ただ、俺が勇者という保証はないからな」

レオニダスがにやりと笑う。

「そう言うと思っていた」


「さて、お前は今日から殺影同盟シャドウバスターズの一員だ。今日からお前を訓練し、最強の戦士にしてやろう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る