俺はなんだかんだあって、殺影同盟のメンバーとなり、レオニダスから魔術の修業を受けることになった。

「まずは、魔力について話そう。魔力とは文字通り魔術を使用するための力で、大気中に存在している。魔力は人間の中にも存在するのだが、普通の人間は扱えない。だが、魔力が覚醒して魔術師となると、自分の中の魔力を扱えるようになる」

「じゃあ、魔術ってどうやって使うんだ？」

「魔力は想像の力なのではないかとも考察されている。即ち、魔術を扱うには、想像することが必要だ」

　想像？想像するくらいなら誰でもできる。

「想像するだけなのか？簡単なんだな」

「また、バカなことを。ベテランの魔術師ならば簡単だ。だがなグラジオラス、お前のような新米が簡単に魔術を使いこなすのはだいぶ先だ。じゃあ、今からやってみるぞ。魔術のレッスンを始めよう」

　とうとう魔術ができるのか。俺は本名で呼ばれたのが久しぶりで内心戸惑ったのと同時に、話ばっかり聞いていてうんざりしていた。

「まずは、基本の元素魔術からだ。元素魔術とは、炎、水、雷、草、土、風を操る基本中の基本の魔術だ。まずは炎魔術からやってみよう」

　レオニダスは説明を終えると、例のアタッシュケースから小さい丸太を取り出し、地面に置いた。

「ここに、一つの丸太がある。これを燃やしてみろ」

「燃やせって...何の説明もされてないのにできるかよ。どうやるんだ？」

「想像するんだ。この丸太が魔力によって燃え上がり、灰と化すのを。強くイメージしろ。中途半端だと魔力が集中しない。ほかのことは、何も考えるな。ひたすら燃やすことだけを考えろ」

　なるほど。俺は丸太を凝視し、これがとt全燃え上がって灰になるのを想像した。

　―何も起きない。もっと必死に想像する。脳内にイメージを焼き付ける。

　何も起きない。

　本当にこんなので燃えるのか？それか、俺には魔力がないのか？

「全然燃えないじゃないか」

「イメージが甘いんだ。お前、そんなことが自分にできるはずがないと、心の奥で思っていないか？」

　はっとした。

　確かに俺は、こんなことができるはずがない、時間の無駄だと薄々感じていた。

　それがダメだったということか。そのような考えもすべて捨て、イメージだけを脳にこびりつかせればできるのかもしれない。

「......確かにそうだ。なんでわかったんだ？エスパー？」

　レオニダスは、ハハッと笑った。

「エスパーではない。新米の魔術師は、こういうパターンが非常に多いんだ。私は殺影同盟を結成した後の数年間はお前のようなものに魔術を教えてきたのだが、お前と同じような人は何百人といた」

　そういうわけか。俺はもう一度、挑戦してみることにした。

　何もかも頭から振り払い、炎だけに集中する。そう、俺の頭を炎で埋め尽くせ。炎、炎、炎、炎、炎、炎—

「おい！成功しているぞ！」

　レオニダスの言葉で現実に引き戻された。見ると、目の前の丸太が炎に飲み込まれている。成功したのだ。

「よ、ようやく...」

　言葉にならない達成感があった。

　その後も、いろいろな魔術を教わった。落雷を起こせる雷魔術、強風を起こす風魔術などだ。幻惑の魔術というのも習った。これを使うと、相手を惑わすことができるらしい。例えば、買い物をするときに使えば、「お金をすでに払った」と相手に信じ込ませることができるらしい。

　最初の炎魔術ができたおかげで、その後の魔術はスムーズに習得できた。もう、どんな魔術でも使いこなせる自信がある。

「お前もだいぶ成長したな。そろそろ、影との実戦に行こう」

「実戦？」

「実際に影と戦闘して、お前の力量を見定めるんだ。そして、お前が臨機応変に対応できるようにする」

　あまり気がのらなかった。下手すると命が危険にさらされるからだ。でも、レオニダスもいるし、俺だって魔術がそこそこ使えるようになってきた。これなら、大丈夫なのかもしれない。

「分かった。じゃあ、これからどうするんだ？」

「今から弱い影のいる領域に移動する。ゲートを開ける必要があるから。少し待ってくれ。お前はそこで休んでいてく―」

　ドォォォン

　不意に、隕石が落ちてきたような凄まじい音が鳴った。俺はすぐに後ろを振り向く。

　男が立っていた。ボサボサの赤っぽい髪で、ズボン以外は何も来ていない。体中に無数の傷跡が残されており、見るからに強そうだ。男の周りは炎上しており、まるで炎の地獄に立つ閻魔大王のようだ。見た目からして、明らかにこちらに友好的ではない。

「レオニダス、久しぶりだな。..そのガキはなんだ？お前の手下か？」

　男は口を開く。しかし、レオニダスは返答しない。かわりに、俺に指示をした。

「グラジオラス、戦闘の準備をしろ。本気で戦え。できるなら殺せ」

「こ、殺せって…あの男はいったい誰なんだよ？あんたの敵か？」

「奴は、No.6（シックス）......野火（インフェルノ）だ」