終わらない頁

古倉凪紗

第1話

 仮初めとは夏の通勤の保冷剤入りきらないケーキのための



 仮初めとは高くも安くもない菓子の名前を指したときのくちびる



 仮初めとはジム・ジャームッシュがいいねって たったひとつのテレビの明かり



 仮初めとはセルリアンブルー 背中には形にならない文字がいくつも



 仮初めとは落ちた三日月の釣り糸をかけ直すために伸ばされた腕



 仮初めとは代わりになった被写体の白く光った波の剥製



 仮初めとは予報されない春驟雨 それから包まれている爪先



 仮初めとはあなたを迎えるためだけにしゃんとしている今治タオル



 仮初めとはあなたに会うと書けないで 有給休暇届の「私用」



 棺に入れたいほどよとめくったら任せてよって、任せてよって

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

終わらない頁 古倉凪紗 @pukapuka_tamago

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

参加中のコンテスト・自主企画