第31話 二人の力を一つに

「くそー、オレの魔法も破られた!」


 ベヒモスはゆっくり地上に降り立った。ごう音がしたけど、サッカー部員たちは練習を続けている。ユーリのイリュージョニスが効いてるからみんな気付かないみたいだけど、このままじゃ……。

 ベヒモスは、のしのしとサッカー部員たちの方に向かう。


「ユーリ! たいへん!」

「大丈夫」

「え?」

「見ててみな」


 サッカー部員たちが踏みつぶされ、宙を舞った。


「あれ? 妙に軽そうだけど……」

 ベヒモスが蹴散けちらしたの、もしかして人形? ベヒモスは困ったようにうろうろしている。


「ソーサラー、油断したな。オレがマギア・レプラカレでみんなを人形に入れ替えといたんだよ」


 でも入れ替えた人たちはどこへ? まあ大丈夫だろうけど。 


「うぬ、いつの間に。だが、ベヒモスは止められないぞ。この学校を消し去りたいという内田の願いをかなえるために出してやったのだからな」

「お前、内田のせいにするつもりだな‼」

「私は弱き者の願いを実現したまでだ」

「くそ! 桔梗! あの怪物を止めるぞ!」

「え? どうやって?」

「往生際が悪いやつらだ。何をやったところで無駄むだだと言っておるのに」

「オレの悪魔ばらいとお前のペンタグラム、同時に打つ!」

 ユーリが叫んだ。勉強できるくせに五芒星ごぼうせいって言葉、覚えられないのかな?


「いくぞ!」

「うん!」


「ディスケディテ・デーモネス! 」

「あやかし退散! 急急如律令!」


 二人の声が重なると同時に、大きな光のかたまりと大きな青い五芒星が現れ、ベヒモスを上空に押し上げ始めた。


「いっけー!」

「お願い!」


「ブモモモモモモモ……」

 ベヒモスは気持ち悪い叫び声を上げ続けている。


 ズシーン!

 ベヒモスは巨体を左右に横倒しにして、光の塊りと五芒星に体当たりし始める。


 ピシッ!

 五芒星にひびが入った。

「まずい……」

 五芒星が割れるのは凶兆きょうちょうだ。


 見る見るひびが広がり、五芒星は割れてしまった。ユーリの光だけではもう押し上げられない。

 ベヒモスはまた、ゆっくりと地上に降り立った。


「はっはっは。そこで見ておるがいい。学校も生徒も、いやいや、この街さえも灰燼かいじんに帰すところを絶望して見るがいい。お前たちは、その後にじっくりと相手をしてやろう」

 ソーサラーが言い放った。


「桔梗。お前の力はそんなものじゃないだろう?」

「おじいちゃん……なに、のんきなこと言ってるの? みんなやられちゃうよ!」

「だから、お前が全力を出せばあんなものはイチコロだぞ」

「イチコロ?」

「ああ、お前の年ではわからんか」

「あ、オレ知ってる。一発でコロリの略だぜ」

「ほう。そこのちっこいの、よく古い言葉を知っておるな」

「ちっこいのって……まあいいや。桔梗のおじいちゃんだしね」

「ほう、早くもわしにタメ口か。お主、なかなか見込みがありそうだな」

「まあね。オレ、最強の魔法使いになるし」

「はっは。威勢がよくていいな」

「もう、おじいちゃん、助けに来てくれないの?」

「だから、あの程度はお前で十分だと言っておるではないか」

「そんなこと言われたって……」

「修行を思い出せ。大型のあやかしを封じる法術を教えただろう?」

「法術?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る