第32話 ベヒモスを式神に?

悪行あくぎょう罰示式神ばっししきがみにしてしまう術じゃよ。紙形に封印するんじゃ」


 陰陽師おんみょうじが鬼とか強いあやかしを使役するやつだ。


「あ、ああ……確かに教わったけど」

「なんじゃ?」

祭文さいもん、忘れちゃった」

「仕方ないやつじゃな。紙形はあるか?」

「あ……ないや」

「本当に仕方ないやつじゃな。それでも陰陽師か」

「あ!」

「どうした?」

「ティッシュならあった」

 ポケットの中のポケットティッシュ。

 それを何枚か取り出して、空中に投げた。

「まあ、それでもいいだろう。お前の力ならそれでも封印できるはずだ」

「うーん。まあやってみる。祭文教えて」

「それはお前が考えろ」

「ええ⁉」


「あ、オレ考えていい?」

 ユーリが変なことを言いだした。

「ラテン語だけどね。封印の呪文だろ?」

 ラテン語の祭文?

「本当に面白いやつじゃな。ラテン語とはな。やってみよ」

「いくぜ! シギルム・モンストルム・イン・カルタ!」


「ブモモモモモモ!」

 ベヒモスはおたけびを上げ、校舎の方にのしのしと進む。


「あれ? ぜんぜんだめじゃん」


「そりゃそうでしょ? 意味わかんないし」

「化け物を紙に封印せよっって意味なんだけどなあ」

「ちっこいの。それでいいのじゃぞ」

「そうでしょ? じっちゃん、わかってるじゃん」

 じっちゃんって……。

「桔梗。お前も一緒に唱えてみよ」

「ええ……」

「ほら、早くせんと手遅れになるぞ」


「そこでごちゃごちゃ何をしているか知らんが、何をしても無駄だぞ。ベヒモスを止める手立てなどあるものか。お前らもすべて破滅はめつだ。はっはっは」

 ソーサラーは余裕しゃくしゃくだ。


「桔梗! やろうぜ!」

「あ、ああ、うん。わかった」

 まあ、やるだけならタダだしね。

「シギルム・モンストルム・イン・カルタだぜ。覚えた?」


 カルタってラテン語だったんだ。

 それなら、もしかして百人一首のかるたみたいに封印できるかも。

 紙はティッシュだけど。


「あ、うん、覚えた」

「じゃあいくぜ」

「うん」

「せーの!」


「シギルム・モンストルム・イン・カルタ!」

 二人の言葉がきれいに合わさった。


 光が走り、宙を舞うティッシュから巨大な五芒星が展開する。

 そこから光が伸び、ベヒモスの四肢に絡みついた。


「グオオオオオオ!」

 ベヒモスが暴れ、校庭の地面が裂ける。


「もう少し!」

「お願い、封じて!」


光の五芒星が一気に収束し、ティッシュの中へと吸い込まれていく。

巨体はどんどん縮み、やがて――ふっと消えた。


 ティッシュペーパーにはベヒモスが絵になって張り付いて、ひらひら宙を舞っている。


「桔梗。燃やしちゃうぜ」

 ユーリがそう言って杖をかざすやいなや、ティッシュは燃え上がってあっという間に灰になってしまった。


「やったな桔梗!」

「え? ああ……」

 なんだかよくわからないけど、成功したみたい。


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