第28話 ベヒモス召喚

「……このままではらちがあかぬな」

 ソーサラーが不気味に笑う。


「ならば――ベヒモスを呼び出す!」


「なに……‼」

 カイトさんの顔色が変わった。


 ソーサラーが何やらとなえ始めると、校舎中から光のかけらが空に集まり、巨大な魔法陣が浮かび上がった。

 轟音とともに黒雲が渦巻く。雷鳴がとどろいた。


「来い! いにしえけものよ!」

ソーサラーが両手を掲げると、魔法陣から黒々とした巨体が姿を現した。

四本の角、赤く光る瞳。大地を揺るがすような咆哮ほうこうがとどろく。


「うわ……」

 あやかしだったら最大クラスかも。

 ユーリが技術室の方向に一回だけ魔法の痕跡こんせきを感知したのはこれだったんだ。

 あやかしがいたからあそこだけ、魔法陣のかけらが反応したってことか。弱いはずのあやかしが狂暴化したのもそのせいだったんだ。


「ベヒモスを召喚した。旧約聖書にある恐怖の獣だ。この学校もおしまいだ」


 巨大な魔法陣の中から現れたのは、いろいろな動物をぐちゃぐちゃに混ぜたようなまがまがしい姿の巨大な化け物だ。怖いというより、はっきり言って気持ち悪い。あれが災いっていうやつ……。


「桔梗、ピンチのようじゃな?」

「え? おじいちゃん?」

 突然、おじいちゃんの声が聞こえた。

「おじいちゃん、助けて!」

「わしはリモート五芒星ごぼうせいで連絡してるだけだからなあ」

 いつの間にか、目の前に小さな五芒星が現れてクルクル回ってる。

「もう……何これ?」

「お前のピンチを感じるとつながるようにしておいた。でも、それほどのピンチでもないようだな」

「ええ⁉ ピンチなんだけど……」

「よく聞け、桔梗。桔梗の花は五弁の星形、すなわち五芒星だ。それは陰陽五行おんみょうごぎょうをつかさどるもの。お前に害をなそうとする魔や呪いからお前を守っているのは、お前自身の力なんだ」

「え? じゃあ、私の名前……」

「すまん。お前を最強の陰陽師にしたくてな。名前に言霊ことだまを込めた。でもいい名前だろ」

「そりゃあまあ、気に入ってるけど……」

「陰陽術のキレはまだまだだが、もともと素質がある。わしの孫だからな。桔梗の退魔解呪たいまかいじゅの力はそこにいる魔人程度ならどうということもない」

「うーん。そう言われても……」


 ユーリはあの化け物、ベヒモス? が降りてくるのを魔法で押しとどめてる。

 今はイリュージョニスで隠してはいるけど、サッカー部員がいる校庭に行かせるわけにはいかない。


 カイトさんは、ソーサラーと対峙たいじしている。

「ヴェントゥス・ラーミナ!」

 カイトさんが唱えたのは、ユーリが最初に私に向けて使った魔法の呪文。あの時より数倍大きな光の刃が飛ぶ。

 ソーサラーは黒衣とともに縦に真っ二つになったが……それも一瞬だった。


 二つに分かれた体がゆらゆらかすみ、男の体は元通りくっついた。

「私は不老不死だ。そんな魔法は無駄だぞ」


「マギア・ルミナス・フラクタス!」

 今度は巨大な光の波がほとばしる。

 ソーサラーを飲み込みそうになったところで今度は黒い……星の形!

 でもよく見ると私のと違って六角形⁉


「私も星形が出せるのだよ。古代の魔法だ。お前たちは知らないだろう」

「ダビデの星。知ってますよ」

 カイトさんが冷静な声で答えた。

「ほう。やはり優秀な魔法使いだ。私と来るか? 不老不死は楽しいぞ。思い通りに誰にでもなれるしな」


「確かに魅力的かもしれませんね。体を真っ二つにされても大丈夫なんですから」


「おい! カイト! 何言い出すんだよ」

 驚いてユーリが叫んだ。


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