第26話 ソーサラーは職員室に

 校庭ではサッカー部が練習している。

 私たちは目立たないように校庭のすみっこを歩き、新校舎の職員室へ。

 中には二人の先生。ひとりは――水原先生だ。


 ユーリが二人に幻惑魔法〈イリュージョニス〉をかけ、私たちは音もなく部屋に入る。水原先生は奥の席にいた。背が高く女子にも人気がある先生で、怪しいところなんて全然ない。


「水原先生」

 ユーリが声をかけたが反応しない。


「水原先生‼」

 カイトさんが強めに呼んでも動じない。


「聞こえないみたいだけど……」

 ちょっと不安になってきた。


「そうかな? 先生! 水原先生がボクたちに反応しません!」

 カイトさんが叫び、ユーリがにやりと笑った。

「あっちの先生だけ、イリュージョニスを解いた」


「ええ? どうしたの君たち?」

 もう一人の先生がこちらに気づく。

「水原先生、この子たち……」


 水原先生は席に座ったまま、なにか作業をしている。

 カイトさんが耳元で「わっ」と怒鳴ったそのとき――かすかに頭が動いたが、反応はない。


「水原先生‼」

 もう一人の先生が水原先生の肩をたたく。

「あれ? どうされました?」

「この子たち、さっきからあなたのこと呼んでますよ?」

「この子たち?」

 水原先生は首をかしげる。


「ど、どうしちゃったんですか、水原先生? これは大変だ、保健の先生を呼んできます!」

 もう一人の先生は走って出て行った。


 職員室に残ったのは、水原先生と私たちだけ。


「さあ、正体を現したらどうですか?」

「……」

「イリュージョニス解きましたけど?」

 ユーリが告げる。


「な、なんだ‼ 君たち‼」

「いい芝居ですね。でももう無駄ですよ」

 カイトさんが冷静に言った。


往生際おうじょうぎわが悪いなあ。今、無詠唱むえいしょうでイリュージョニスかけてましたよ?」

「ぐっ……」


「マギア・ウィンクラ!」

 カイトさんが叫ぶと、鎖の魔法が水原先生をぐるぐる巻きにした。


「むうう……仕方ない。――エクスプロジオ!」


 爆音。だが次の瞬間、私の前に五芒星が現れ、魔法をかき消す。


「くそ、またか……いまいましい娘だ」


 水原先生は杖を出し、鎖をなぎ払った。同時にその姿が――消えた。


「シグナムつけた?」とカイトさん。

「もちろん」ユーリが答える。


「追うよ!」

「ブルーム!」


ほうきがまたどこかから飛来し、二人はすぐにまたがった。

「桔梗も乗れ!」

「え? あ、うん」


――あれ? ユーリ、今、私のこと桔梗って呼んだ?

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