第21話 疑惑の同級生

「ソムノレンティア、眠れ」

 ユーリの声が聞こえ、真彩が意識を失って倒れそうになったところをカイトさんが支え、そっと寝かせた。二人が出てきたってことは真彩、ソーサラーじゃないんだよね。


「あの……」

「ああ、大丈夫。眠ってもらっただけだからね」

「マギア・ヒプノシがかけられてたな」

「え?」

催眠さいみん魔法。彼って呼んでたやつが、自分を誰だか思い出させないように彼女にかけたんだ。イリュージョニスと違って副作用が強いんだ」

「ということは……」

「彼女もソーサラーに利用されてたってことだよ」

「じゃあ真彩は真彩なんだ……よかった」


 ほっとして涙が出てきた。


「でもさ、彼女あの時、なんでオレのホントの目線を見たんだろう。その後も何回かあったんだよな」

「ああ、真彩ってシャイなとこあって、人の顔を見た後、よく眼をふせるんだった」

「なんだ。それ早く言えよ」

「そんなこと言われても、きのうまで真彩を疑ってたの知らなかったし、きのうはテンパってたし……」

「あ、はは、そうだったな」

 ユーリがバツの悪そうな顔になった。でもありがと。気遣きづかってくれて。言わないけど。


「それにしても、ずいぶん手の込んだことするよね。こちらのおとり作戦も読んでたみたいだし。やっぱり手ごわいなあ」

 カイトさんがいぶかしんだ。


「彼っていうのがソーサラーなんでしょうか……」

「それ、内田かも」

「え?」

「彼女の疑いは晴れたけど、オレ、内田も見てただろ」

「あ、うん」

「きのうの朝、本読みながら内田が彼女のことをチラチラ見てたの思い出した」

「え? それって……」

「ただ、それだけじゃあ証拠しょうこにならないよ、ユーリ」


「あの、真彩はさすがにこのままにはできないけど……」

「あ、オレがさ、保健室に連れて行く」

「え? 大丈夫?」

「当たり前だろ。魔法使うし」

「そうじゃなくて、市瀬先生は……」

「あ? ああ、まあ、大丈夫だろ。市瀬先生は『彼』じゃないし、よいしょ」


 ユーリは真彩を軽々と背負った。

「今、彼女の重さはゼロ」

「へえ、すごい便利だね。その魔法」

「まあな。でもこれだって簡単じゃないんだぜ。無詠唱むえいしょうでやってみたし」

「そうなんだ」


***


 午後も内田くんにおかしな様子はなかった。休み時間もいつものように誰ともしゃべらず、本を読んでいた。真彩は保健室で寝たままみたい。大丈夫かな。


 きょうの授業が終わった。内田くんに声はかけられないよなあ……と思っていたら、内田くんは周りを気にしながら席を立った。かばんから財布を取り出したのが見えた。


「後をつけるぞ。いじめの現場を押さえよう」

 ユーリが小声で言った。私たちはイリュなんとかで姿を隠し、内田くんを追った。


「学校で二人きりになるの、最初の日の廊下以来だよな」

「え? あ、確かにそうだね……」

「教室以外ではいつもカイトがいるしなあ」

「ああ、うん。カイトさん頼もしいよね」

「え……あのさ、桜庭。カイトのことどう思ってるの?」

「え? ああ私、弟しかいなかったから、お兄さんができたみたいかなあ」

「あ、そうなんだ。はは。なんだ、そうか……はは」

「どうしたの?」

「あ、いや、なんでもない、うん。なんでもないから」

「そう。それならいいけど」


 なんだろ突然聞いておいて。変なユーリ。

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