第15話 魔法使いの覚悟

 私たちは図書室を出て、旧校舎の一階奥にある技術室に向かった。突き当たりは校庭に出る扉。その右手が技術室だ。


 私は扉に手をかけた。

「あれ、カギかかってないみたい」

「入ろうぜ」

「うん」

 私は扉を引いたのだけど……。


「桔梗さんの五芒星ごぼうせい、反応しない?」

「あ、はい……」


「キルクルス・レゾナンティア!」

 ユーリが突然、両手を掲げると頭上に中くらいの魔法陣が現れた。


「ユーリ、いきなり魔法を出さないように」

「ああ、悪い。魔法陣を共鳴させようとしたんだけど、反応ないな」


 その時だった。技術室の机の下から黒い筋が次々にわき上がった。


「なんだ⁉」

「魔法⁉ ……じゃないのか⁉」


 いやいや、これは……あやかし。


「あの……これ、低級のあやかしです。私が退治します」

「そうなんですね。じゃあ、お任せしようかな……」

 カイトさんがそう言った瞬間――。


「うわああ!」

 黒い筋がまとまってユーリにおそいかかった。


 でも、さすが魔法使い。ユーリは杖で払い続けている。私も急いで祭文さいもんを唱えた。


天地神明てんちしんめいが声を聞き届けたまえ。黒きやみより出しあやかしよ、清浄せいじょうなる世界、我が力と意志をもって、なんじを退散せしむ!」


 私は右手の人差し指と中指を立てて星形を切った。


 五芒星ごぼうせいの星形が大きくなって光を放ち、黒いあやかしを照らすと――すうっと消えていった。


「はあ……桜庭にまた助けられちゃったよ。ナイトじゃないじゃん、これじゃ」


「はは、ユーリ、今回も立つ瀬ないな」


「でもさ、杖の動き、おはらいのしぐさになってたよ。もしかしたら陰陽師の才能もあるかも」


「え? ホント? オレ、マジでうれしいかも……」


 ユーリはまた、ちょっとかわいい笑顔を見せた。


 その時――。


「君たち、そこで何してるの?」


 後ろから声。入口には養護教諭ようごきょうゆの市瀬先生が立っていた。


(見られてないよね⁉)


「あ、えーと……この二人、イギリスからの転校生で……私、学校を案内してたんですけど……」

 必死にごまかした私に、先生は少し笑って言った。


「そうだったの。今回は黙っておくから、早く帰りなさいね」

「はい、わかりました!」

 ――ふう。助かった。


 でも帰り道。


「さっきの先生のこと、二人とも疑ってるよね?」

 私の問いに、カイトさんとユーリは顔を見合わせた。


「実在の人物とそっくり入れ替わるのがソーサラーの手口なんだよね」

「オレたちが前に潜入した学校じゃ、校長先生がそうだったんだ」


「ええ!? 小学生の時からこんな危ないことやってるの?」

 ユーリ、すごすぎでしょ。

「当たり前じゃん。オレたちの仕事なんだから」

「子どもにそれって、ひどいんじゃ……」

 そう言った私に、カイトさんが真剣な顔で続けた。


「桔梗さん。特別な力をさずかったボクたちは、ボクたちにしかできない使命を果たさなければならないんだ。ソーサラーに対抗できる魔法を身につけないと派遣はけんされることもない。ボクたちはまだ子どもだけど、誇りを持ってたたかってるんです」


 そう言って、カイトさんはにっこり笑った。


 ――やっぱり魔法使いってすごい。私も早く一人前の陰陽師になりたい。


「それに、もうチームだよね。桔梗さんのこと、頼りにしてるから」


 フォローまで忘れないあたり、本当に優しいんだな。


「オレも桔梗の強さは本物だって太鼓判たいこばん押すぜ」

「はいはい。上から目線はわかったから」


 そんなやりとりの最後に、カイトさんが小さくつぶやいた。


「……でも、あの黒いやつがユーリのエクスプロラティオに反応したのかな? 嫌な予感がする」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る