第14話 魔法の国から

「ソーサラーがこの学校で大きな災いを準備しているなら、こっそり魔法陣をどこかに作っているはずなんだ。それで、桔梗ききょうさんの力を借りたいんだけど」


 あれ? カイトさん、いつの間にか私に敬語やめてる。なんかうれしいかも。


「桔梗さんにおじいさんがかけたおまじない、危険な魔法陣に近づけば発動するんじゃないかと思うんだ」

「協力したいんですけど……」

「なにか問題が?」

「部活休むわけにいかなくて……」

「あ、そうか。うーん……」

「でもさ、オレたち、できるだけ離れない方がいいよな」とユーリ。

「そうだね」

「一緒に部室に行けばいいじゃん」

「ああ、そうだよね。部活が終わったら捜索しよう。いいよね、桔梗さん?」


「あ……はい」


 ちょっと困ったけど、入部を検討するための見学という理由を思い付いて、私より少し遅れて二人は吹部すいぶにやって来た。


 カイトさん、実はバイオリンが得意なんだって。……ホント、魔法使いってやつは。


「へえ、真木亜まきあくん、入部を考えてくれてるんだ。大歓迎だいかんげいだよ」


 部長の西都さいとさんが顔をほころばせた。


「ええ。コントラバスかティンパニならすぐに演奏できます」

「それは頼もしい! で、弟さんは桜庭や山里と同じクラスなんだ」

「はい。ユーリって言います。よろしくお願いします」


 部長はユーリの頭の上の方を見ている。もちろん、ソーサラーってことはないと思うけど。


「きょうは合同練習だから、そこで見ていてくれるかな」

「わかりました」

 二人は音楽室の端にあるイスに座った。


 夏のコンクールの課題曲はマーチ「魔法の国から」。偶然にしてはできすぎだよね、この曲を二人の前で演奏することになるなんて。


 カイトさんはにこにこしているけど……ユーリ、やっぱり目つき悪いぞ。まあ、みんなには見えてないけどね。


 トランペットによるファンファーレの序奏が始まった。私はトロンボーンのマウスピースに口を当てた。


***


 部活が終わり、私たちはまた図書室へ行った。


「魔法陣ってどうやって捜すんですか?」

「エクスプロラティオなら、オレの方がぜったい上だからな」

「え? 何?」


探索たんさく魔法だよ。レーダーみたいに全方位で魔法の痕跡こんせきを感知するんだ。まあ、きのうみたいな追尾ついび魔法ならボクの方が得意だけど」


「さらりと自分の魔法自慢するのな、カイト」

「はは、バレたか」


 カイトさん、けっこうユーリに対抗意識を燃やしてるんだ。ちょっと意外。


「ここから学校全体に展開できる? ユーリ」

「当然!」

 ユーリは杖を掲げ、8の字を描くように動かし始めた。


「インカンタティオ・エクスプロラティオ――

 ルクス・エト・ヴェリタス・レヴェレントゥル、

 ペル・ヴィレス・アルカナエ、

 ムンドゥス・オクルトゥス・パテアト!」


 真剣に目を閉じて詠唱するユーリ。その姿は、いつものお子さまっぽさとは全然ちがって見えた。


「『光と真実を照らし、秘められた力を示し、隠された世界を開放せよ』って唱えてるんだ」

 カイトさんが訳してくれた。


「はあ……なんかすごい」

 陰陽師の祭文さいもんも古い言葉だけど、ラテン語の方がかっこいいかも。


「ユーリ、感知できた?」

「あ、うん……東北東の方角にわずかな魔法の痕跡こんせきがある……」

「東北東ってことは旧校舎? 一階のはしはたしか技術室だったかな」

「この時間、生徒はあまり行かない場所だね」

「行ってみようぜ」

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