第9話 ソーサラー

「え?」

 トランクス一枚⁉

 恥ずかしがるところかもしれないけど、お子さまの裸は私、弟で慣れてるからね。 「早くあっち行け!」

 カイトさんの方が恥ずかしがってる。なんだかおかしい。

「え? あ、つい寄宿舎きしゅくしゃのくせが出ちゃった」

「私は気にしないから大丈夫」

「あ! オレのこと子ども扱いしてるな!」

「だって年下だしね」

「くっそー。桜庭いいやつだと思ってたのに。見損なったぞ」

「パンツ一枚で女性に言うことかなあ?」

「あ……はは」

 ユーリが急に恥ずかしそうな顔になった。今ごろ気付くか。

「ユーリ! お風呂沸いたよ!」

 弟の声がした。

「あ、わかった。今行く」

 ごまかすようにユーリはそそくさと廊下に出て行った。


「すいません。アカデミアの寄宿舎は男女別々で、みんな裸とか気にしないんです」

「ということは女性の魔法使いもいるんですね」

「ああ、女性の魔法使いはウイッチと呼ばれます」

「ウイッチ?」

「ええ。でも、ソーサラーと闘うのは主にウィザードで、ウイッチは支援に回ることが多いんです」

「そうなんですか」

騎士道きしどうのなごりで、男がたたかって女性を守るって考え方が残ってるからなんですけど」

「はあ……」

「もう古いですよね。そういう考え方」

「あ、はい……」

「桔梗さんが陰陽師おんみょうじってことは日本の方が進んでますね」

 そうでもないと思うけどなあ。私以外にどれくらい女性の陰陽師がいるのか知らないし。

「あ、それより、ソーサラーって何者なんですか?」

「あ、はい。実は、元はウィザードやウイッチで……不老不死の魔法を自分に使って逃げた者たちなんです」

「不老不死⁉ 魔法ってすごいんですね」

 さすがにそんな陰陽師はいなそうだなあ。平安時代の伝説の陰陽師、安倍晴明あべのせいめいでも無理そう。

「でも、その魔法は禁忌きんきなんです。使えば人間とは言えなくなるので」

「想像もできませんけど、不老不死なんて……」

「それと、やつらは自分の姿を自由自在に変えることもできるんです」

「え? イリュなんとかじゃなくて?」

「ええ。本当に変えてしまいます。それも禁忌魔法です」

「だから見つけられないんですね」

「ただ、ソーサラーはどんな姿になっていたとしても、『行いのほころび』でしっぽを出します」

「ほころび?」

「ええ。偽装している人物が取るはずのない行動や言動をしてしまうんです。それを手掛かりに見つけ出すんです」

 ユーリ、私がほころびを見せたって思っちゃったのか。勉強はできる割に単純だなあ。

「じゃあ、さっきみたいに攻撃してくる方がまだ見つけやすいんじゃ?」

「はい。その通りですが……追跡はかわされました」

「え? 追跡してたんですか?」

「はい。ボクが魔力を追尾する矢、セクティオ・サジッタを放ったんですが……」 「あんな中で……魔法使いってやっぱりすごいんですね」

 玄関のドアが開く音がした。

「あ、ママが帰ってきたみたい。話はまた後にしましょう」

「そうですね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る