第2話
ある日友人に、街でバルの手伝いをしないかと誘われた
住み込みで食事付き、給料も良く割りの良い仕事だった
すぐに家族に話をした
給料が出たら、仕送りをすると言うと皆んな喜んだ
弟が何か言いたそうだったので尋ねると、首を振った
「頑張ってね、応援してる」
少し寂しそうに笑っていた
仕事をするのは、街の中心にある人気のバルだった
友人と一緒にドアを開けると良い匂いに包まれた
「やあ、良く来たね」
彼はとても気持ちの良い笑顔で迎えてくれた
この店の店主のルースは料理を沢山作っていた
「良かった食べて」
店の自慢の料理を食べさせてくれた
美味しすぎて、あっという間に皿は空になった
「おかわりいる?」
気の良い店主と雰囲気の良い店が、とても気に入った僕達はこの店で働く事になった
友人は家から通い、僕はバルの2階に部屋を借りて働く事にした
自分の部屋と同じくらいの広さだったので、不便はなかった
冬はとても暖かかったので、僕はとても嬉しかった
僕の仕事は温かい料理を温かいうちに、冷たい飲み物を冷たいうちに、テーブルに運ぶ仕事だった
どこのテーブルの誰に運ぶのか、を覚えるのに最初凄く苦労した
見かねた常連客が呼んでくれる事もあった
僕は頭を下げたり、何度もお礼を言った
人が多い時間には、何度も料理をひっくり返しそうになった
褒められたり怒られたりを繰り返しながら、僕らは仕事に慣れていった
ある日、友人が僕に言った
「好きな人が出来たから、告白する」
と言う話しだった
「そうなんだ、頑張れよ」
僕はそう言ったのもあまり覚えていないくらい、忙しく毎日を過ごしていた
しばらくすると、その友人は仕事を辞めると言い出した
僕はもの凄く驚いた
「いったい、どうして?」
彼は、このバルのルースの娘に告白して振られたから仕事を辞めると話してくれた
「メアリー?」
彼から聞くまで、僕は彼女の名前がメアリーだと知らなかった
こんなに良い仕事は他には無いと、思い直すように何度も説得したけれどダメだった
彼はすぐに辞めて言って、しばらくすると違う人がバルで働く事になった
すぐに仲良くなって、一緒に忙しく働いた
しばらくすると、また同じような話しになった
僕はすぐに止めた、友人が前に辞めてしまった
告白するのはやめて欲しいと頼み込んだ
でも、しばらくすると告白していて、振られていて、辞めると言い出した
僕は決めた
次の同僚には、絶対にメアリーの事を好きになるなと言った
そして初めは上手くいった
だが、また同じ事が起きた
僕はルースに相談する事にした
今度は女性を雇ってはどうかと提案してみた
ルースは少し考え込んだ後、何か言いたそうにした
「力仕事は僕がするから、任せて欲しい」
「あぁ、頼んだよ」
ルースはポンと僕の肩を叩いた
あぁ、やっとこれで何とかなると僕はホッとした
メアリーは時々、店を手伝いに来ていた
賑わっている時はキッチンに居て、ドリンクを用意したり運ぶのを手伝ってくれた
凄く気の利く子で、いつも助かっていた
新しくバルで働く子は、メアリーと背格好が良く似ていた
テーブルの配置、準備作業、仕事内容を細かく教えた
メアリーもキッチンの作業などを教えていて、すぐに仲良くなっていた
誰がが辞めてしまうと、店は本当に忙しくてメアリーに手伝ってもらわないと人手が足らなかった
安心して働いていたある日、驚くような出来事が起こった
最近仕事に慣れて来た同僚のアンナに、閉店後に呼び出された
「話したい事があるの」
何か悩みでもあるのかと、心配になってすぐに店の外に出た
「どうしたの?何かあった?」
アンナは黙っていて、僕もしばらく黙っていた
少し遅い時間で、風も吹いていた
「少し寒くなってきたから、中で話そうか?」
メアリーに話しを聞いてもらった方がいいと思って、僕はバルに戻ろうとした
するとアンナは、とても恥ずかしそうに僕に告白してきた
びっくりして僕は聞いた
「僕に?」
アンナはゆっくり頷いた
毎日忙しくて、そんな事を考える余裕の無かった僕は、
「少し考えさせて欲しい」
と言って、店内に戻った
そこにはメアリーが居て、
「寒く無かった?」
「少し肌寒くなってきたよ」
と僕は答えた
後片付けはほぼ終わっていたので僕らは、挨拶をして解散した
その日の夜は、少し眠れなかった
何も特別な事をした覚えも無く、そんな風に思ってくれていることに全く気が付かなかった
喜ぶべき事だけど、どう返事をするべきか悩んだ
朝から仕事をして、いつものように学校に行った
友人に相談すると、羨ましがられた
自慢かと、少しからかわれた
「どうしようか悩んでいる」
僕が言うと友人の1人が言った
「メアリーはどうするの?」
「メアリー?」
どうして彼女の名前が出たのか、僕は分からなかった
呆れた顔で彼は言った
「メアリーは、ずっと君の事が好きなはずだよ」
僕はもの凄く驚いた
「いつから?」
信じられないという表情で彼は教えてくれた
「だから僕、仕事辞めたんだけど分からなかった?」
「全然、気づかなかった」
本当に驚いた顔をした僕が面白くなったようで、友人はゲラゲラ笑い出した
僕だけ知らなかった
そしつ僕は困ってしまった
悩みがもう一つ増えてしまった
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