第6話 急変

「先生!!!龍希が!!」

女川は大きな声とヤミの口調に驚いた、本来シルバがトレーナーを呼び捨てすることはない。禁止されている訳ではなく本来としては体が拒絶し敬意を表さなければ行けなくなる。

だがこの状態のヤミは違った。拒絶をも拒絶する強大な絶望、それらに全てを押しつぶされていた。

「蜂の巣状態じゃないか……」

こんなの生きてるはずがない、そう口を開きかけた途端にヤミの瞳が目に映る。

まだ行ける、助かる、助けると訴えるようなその瞳は、女川の諦めを消した。

「最大限までやってみよう。白衣とメスをくれ、治療薬もだ!」

女川はスーツの上に体にフィットした白衣を身にまとい龍希を担架にのせ緊急医療施設まで運んだ。

医務室に運び状態を確認したが、龍希の状態は絶望的だった。

これには口を開かざるを得ない。

「龍希トレーナーの心臓に穴が空いている。脳にもだ」

その言葉から汲み取れる意図は「死」。

龍希は死んだとみなに伝えることと同じ情報だった。

「そんな……龍希君……」

ヤミは膝から崩れ落ち一筋の涙を床に落とした。

まだ関係は深くなかったものの自分のトレーナー、しかも内なるヤミを解放し仲間との交流を深めることが出来、更なる躍進へと繋がった。

龍希トレーナーはヤミの心の中に留められていた鍵穴の鍵だったのだ、その扉をこじ開けた。唯一の人間だった。唯一無二のトレーナーだった。

「すまないヤミ……運ばれてきた時点で絶望的だったのだ。最前は尽くしたが……申し訳ない。」

先生は悪くない、その言葉が何度もヤミの頭の中を駆け巡った。

全ては六連が悪い、その全ては守れなかった私が悪い。

なんで護衛について行かなかった?最悪の事は想定出来なかった?私がもっと強ければ?もっと早く向かっていれば?

何度も何度も何度も何度も駆け巡る、全ては後悔に終わってしまった。


扉が開いた。

もう誰もいない、そこにあるのはしんだ龍希の体だけだったはず、その医務室の扉が開いた。

生き返った!?などと希望的な推測はすぐさま地獄と化す。

「コ……ロス……ロスロスロスコ……」

目は充血し傷穴はあるまま、だがさっきとは違った。

「おかしい……!さっきは血が流れていたのになぜ今は流血していないんだ!」

女川は青ざめた顔で叫び、傷口を見てすぐに理解した。

「お前……サイボーグ……!?」

龍希の傷口から見えたのは肉でも骨でもなく機械の1部。

龍希の体からはもう人間の音は聞こえず、機械の音が聞こえた、機械的な金属の擦れる音。排熱の音。完全なるロボットと化した龍希がそこには立っていた。

「龍希君……?」

ヤミは床に向けていた視線を龍希に向け、希望より先に絶望に押し潰された。

誰だコイツは、私の龍希に何を、でも勝てない、こいつは強い。

様々な感情が浮かび上がった。

「ヤミ……こいつはもう」

「龍希君!!!!!!!」

ヤミは女川の声を跳ね除け龍希の元へと走り出した。

「やめろヤミ!!!そいつはもう龍希じゃ!」

女川は驚愕した、その光景に。

見た目は明らかな興奮状態。敵意を向けていることも一目瞭然、近づいたらすぐにでも消し炭にされてしまいそうな雰囲気もあった。

だがヤミが近づいた途端、その空気は塵となり消え失せた。

感じられるのは「優しさ」と「申し訳なさ」。

ヤミと龍希は抱き合った、その場で強く強く抱き合った。

龍希の目からは涙が流れ出し、時期に目には光を取り戻す。

充血していた目は戻り始め、纏っていた毒々しいオーラは空へと流れ出す。

「傷口は!?」と心配になり女川は龍希の元へ走り出すが、塞がっていく。

龍希の傷はみるみるうちに塞がっていく。

それはただの人間にもサイボーグにも見えなかった、全く別の生命体。

漫画の世界でしかない治癒魔法のようにしか女川の目には映らなかった。

「ごめんヤミ……俺は負けた、六連にも自分にもだ」

「そんな事は無い、またこうして戻ってきてくれた。ならまた鍛錬してやり返してやろう。あんなやつぶっ飛ばしちゃえ」

抱き合い涙を流し合いながら静かに微笑み笑う、その姿はまるで親子のようだった。


─────2ヶ月後。


龍希は世界の重要指定監視人として責任をもった日本国からの監視をされ続けながらSilver Variationの育成トレーナーを続け自分自身の鍛錬をしていた。

龍希の体は完全に人間ではなくなっていた。その理由は未だにわかっていない、あの状況で再び動き出したのも、敵意を向け、それをヤミが抑えたのも。国にも自分自身にも分からないことだらけだった。

「ヤミ……行くぞ」「了解!龍希君!!!」

ヤミと俺は特別に2人で任務に出ることが出来る。それは両方ともが一等戦闘員であることが認められたから。

「龍希一等!ここから先は完全にSilvervoidに占拠されています……進めません!」

「構わん、突き進む。」

「えっ!?」

「今回の我々の任務はSilvervoidのアジトへ1歩でも踏み入れその映像を撮影してくること、道行く相手全てを相手していたらキリがないぞ」

すると背中に乗ってゆっくりしていたヤミが体を起き上がらせて言う

「そうだよ〜見た感じだと5000体はいるかな、かなりの体力を消耗してアジトへの侵入が難しくなることがわかるね」

「今回は映像を撮るだけじゃなく、侵入し俺の体の関係も調べる必要がある。この任務は体力が残っていたらの約束だが、その為にここで消耗する訳には行かない!」

全員で突っ切れ!!!!!!

「見えた!!」

Silvervoidのアジトは現地球元東京タワーだった。

赤いフィルムは改造されその東京タワーを中心にとても大きな柵のようなものが何重にも建てられ下に行くにつれて段差と共に下がって行く。

まるでアニメに出てくるダンジョンの様だ。

「入口などバカ正直に入っている余裕は無い、突っ込むぞ……!?」

龍希は透明な壁のようなものにぶつかり体をひねらせ地面に着地する。

「どうやらそんな訳にも行かないようだな、」

目の前に綺麗な白い衣装をまとい花冠をつけた女性が空から妖精のようにゆっくりと降りてくる。

その姿はまるで蛍でも宿したかのように煌びやかに輝いていた。

「迷える子羊さん達よ……この先に進むには試練が待ち受けるぞ」

「構わない、ここを通してくれ」

「ならば進むか良い……だが、ここらは先は地獄ぞ?」

「地獄なら何度も経験してきた……慣れたな」

龍希は笑い余裕の表情を見せた。

「ほう、ならば」

白い衣装を脱ぎ捨て中から鋼鉄の鎧を纏った体が露になる。

「私を殺してご覧なさい?私の屍で出来るのがこの先の道よ?」


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