最終話 わたしとキツネさま

 しばらく泣いて、泣きながら笑って。

 やっと落ち着いたころ、わたしたちは境内のすみっこにある、いつもの大きな木の下に並んで座った。


 ここは、シラネと出会ってから、いちばん話をした場所。

 風が通って涼しくて、葉っぱの影がきらきら光ってて、ふたりだけの秘密の場所みたいなんだ。


「ねえ、シラネ。どうして、シラネにまた会えたの?」


 いつか会えるって信じてた。

 ほんとうに会えたことがうれしくて、でも同じくらい不思議で──どうしても聞きたかったんだ。

 

「いくつか理由があるんだが……。一番は、まどかが強く願ってくれたからだな」

「“またシラネに会えますように“ってお願いしたこと、だよね」

 

 シラネは、にこりと笑ってうなずいた。

 

「言霊ってのは、想いが強ければ強いほど遠くまで届くからな。まどかの声が、ちゃんとオレのところまで届いたんだ」

「……ほんと?」

「ほんとだ。あとは、今もつけてくれてる“ことのは守り”だな。これは、オレの神通力をこめたものだから……オレとまどかをつなげる器になってくれた」


 わたしは、胸の前にあるネックレスにそっとふれた。

 光は失っちゃったけど、ちゃんとシラネの力は残ってたんだ。


「それと、まどかが、まじない師の子孫だったからだ」

「……うん」

 

 わたしはうなずいた。

 わたしの血の中には、昔、言霊で祈りをささげていた人たちの力が流れてる。

 ぜんぜん知らなかったけど、わたしはずっと、シラネのところへつながる道を歩いてたんだ。


「神社に行くこと自体が、まじないになる。でもな、それがほんとうに天にとどいたのは……まどかが、まじない師の血を受け継いでいたからだ」


 そう言われて、まじない帳に書かれたおばさんの言葉を思い出したの。

 

《神社に行くこと自体が、まじないである。思い込めた足取りは、たしかに天へ届く》


 はじめは、ただのきれいな言葉だと思ってた。

 でも、今ならわかる。

 あれは、わたしに向けられた、大事なメッセージだったんだ。

 

 もしかしたら、おばさんは知ってたのかも。

 神園家が、まじない師の家系だってことを。

 そして、わたしがきっと、だれかのためにまじないを使う日がくることも。


 遠い昔からずっとつながってきたものが、いま、わたしの願いとシラネの姿につながっている。

 それって、なんだか──。


「奇跡……みたいだね」

「かもな。でも、その奇跡を呼んだのは、まどかの願いだ」


 シラネはそう言って、わたしの頭に手をのせてくれた。

 その手はあたたかくて、これからもずっと勇気をくれるみたいだったんだ。

 

「シラネ……わたしと出会ってくれて、ありがとう」

「オレも。ありがとう」


 知らなかった町、知らなかった景色、知らなかった人たち。

 だけど、もう“知らない場所”じゃない。

 ここには、わたしの大切な日々があるから。

 

 それを最初に教えてくれたのは、シラネだった。

 

 だから。

 

 これからは、あすかちゃんやみんなも連れてこよう。

 お化け神社なんかじゃないって。

 やさしくて、もふもふで、かっこいい神さまがいるんだって。

 たとえ、みんなには見えなくても、シラネのことを紹介しよう。


「また今日からよろしくね、シラネ!」


 わたしとシラネは、おひさまに負けないくらいの笑顔で笑い合った。


 シラネと一緒なら、どんな毎日もきっと宝物になる。

 わたしのあたらしい物語は、まだはじまったばかりだ。

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