第2話 努力の第一歩
退学処分を言い渡され、荷物を抱えたまま学園を追い出された翌日。
俺は街の外れ、小さな森の中にいた。
野宿を強いられるのは覚悟していた。だが、不思議と絶望感はなかった。
むしろ胸の奥に、かすかな高揚がある。
(あのステータスの変化……間違いない。俺の【微成長】は、努力すればいくらでも積み重ねられる)
誰も気づかなかった、落ちこぼれと笑ったあのスキル。
だが本当は、最強への道を隠し持っていたのだ。
「なら、やるしかないだろ……!」
小さく呟き、木の枝を拾って構える。
これが俺の初めての「修行」だった。
◆
枝を剣に見立て、振り下ろす。
空気を切る鈍い音。重心はぶれるし、握力も続かない。
一度振るたびに腕が痺れる。
「ぐっ……こんなんじゃ、話にならねぇな」
それでも歯を食いしばって振り続けた。
昨日の屈辱を思い出すたび、腕に力がこもる。
笑った連中の顔。見下した教師の声。冷ややかなエリスの視線。
何百回目かわからないほど振り下ろしたとき、脳裏に光が走った。
――【微成長】発動。累積成長+1。
【剣技:E+ → D】
「……おおっ!」
思わず声が漏れた。
腕の感覚が、さっきまでとは明らかに違う。重さに耐えられるし、体の軸も安定している。
「本当に、強くなってる……!」
汗で濡れた額を拭いながら、胸の奥が熱くなる。
これだ。これこそが俺の力だ。
一歩ずつ積み上げれば、必ず追い抜ける。
(エリス……待ってろよ。お前たち全員、いつか見上げることになる)
◆
それから三日間、俺はひたすら修行を続けた。
森の奥で木を相手に剣の素振り。小川での走り込み。重い石を担いでの筋力鍛錬。
夜は野宿しながら、魔力制御の訓練を繰り返す。
結果はすぐに現れた。
【剣技:E+ → D+】
【体力:E → D】
【魔力総量:E+ → D】
数字は小さな変化に見えるかもしれない。だが、たった数日でこの伸びだ。
普通なら一年かかる成長を、わずかな時間で超えている。
「はは……やっぱり俺のスキル、最強じゃねぇか」
笑いが止まらなかった。
努力が裏切らない。努力すれば必ず強くなれる。
それが俺の【微成長】だ。
◆
四日目の朝。
腹が減り、森を歩いていると、小さな悲鳴が聞こえた。
「きゃあっ!」
振り向けば、木陰で少女がスライムに襲われていた。
街から来た商人の娘だろうか、荷馬車の傍で転んでいる。
スライムといっても、普通の人間には危険だ。皮膚を溶かされれば命取りになる。
「くそっ……!」
考えるより先に体が動いた。
俺は枝――いや、数日で手に馴染んだ「訓練用の剣代わりの棒」を握りしめ、飛び出す。
「うおおおっ!」
渾身の力で振り下ろす。
鈍い手応え。スライムの体が裂け、半透明の液体が飛び散った。
――【微成長】発動。累積成長+1。
【剣技:D+ → C】
「やった……!」
手応えは確かだった。
数日前まで、ただの落ちこぼれだった俺が、今は人を守れる力を持っている。
少女を助け起こすと、彼女は目を丸くした。
「す、すごい……! あんなに簡単にスライムを……ありがとうございます!」
震える声で礼を言われ、胸が熱くなる。
俺は誰かを守れる。強くなれる。
これこそが、俺の歩むべき道だ。
「気をつけろよ。この森は危険だ。街まで送っていく」
少女の荷馬車を見送りながら、心の中で固く誓う。
(この力で、俺は必ず証明してみせる。落ちこぼれだと笑った連中に……俺が誰より強いってことを!)
森に立ち尽くし、剣を握り直す。
努力の炎は、もう消えることはなかった。
――カイの逆転劇は、ここから本格的に始まる。
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