落ちこぼれスキルは最強成長特化 ~学園を追放された俺、気づけば英雄を超えていた~

てててんぐ

第1話 落ちこぼれの烙印

 魔導学園の大講堂。

 入学から一年、全ての生徒が一年間の成果を披露する「ステータス測定」の日がやってきた。


 巨大な水晶のような魔導具が、舞台の中央に鎮座している。

 生徒が一人ずつ水晶に手をかざすと、成長した能力値が光の文字として浮かび上がる仕組みだ。

 これは努力の結晶であり、同時に才能の証明でもある。


「よし、次。エリス=フォン=バルデス」


 教師が名前を呼ぶと、拍手と歓声がわき起こった。

 王族の血を引く少女エリスは、黄金の髪を揺らしながら水晶へ歩み出る。

 手をかざした瞬間、光の文字が舞い踊った。


【剣技:B → A】

【魔力総量:C+ → A】

【炎魔法:B → S】


「す、すごい……!」

「わずか一年でここまで……やっぱり天才だ!」


 大講堂がざわめきに包まれる。教師たちも口元を綻ばせた。

 エリスは勝ち誇った笑みを浮かべ、こちらを一瞥する。


(まただ……また、俺と比べるつもりか)


 胸の奥が重くなる。だが逃げ場はない。

 次に呼ばれるのが、俺だからだ。


「カイ=アーデン」


 冷たい声で名前を呼ばれる。

 俺は震える手を押さえながら舞台へと歩み出た。

 見下ろす生徒たちの視線に、蔑みと嘲笑が混ざっているのがわかる。


 水晶に手を当てる。淡い光が立ち上り、浮かんだ文字は――。


【剣技:E → E+】

【魔力総量:E → E+】

【固有スキル:微成長】


「ぷっ……!」

 会場に笑いが弾ける。

「一年かけて、たった“+”がつくだけ?」

「落ちこぼれすぎて笑える」

「微成長って……せめて普通の成長スキルならなぁ」


 突き刺さる言葉。耳を塞ぎたい衝動に駆られるが、舞台の上ではそれすら許されない。

 教師が冷ややかな視線を送ってくる。


「カイ=アーデン。お前のような無能に、学園の椅子を与えておく余裕はない」

 宣告は冷徹で、そして一方的だった。

「本日をもって退学処分とする。理由は明白――才能がないからだ」


「なっ……!」


 息が詰まる。理解できないわけではない。だが、それを公衆の面前で突きつけられる屈辱。

 視線の先で、エリスが涼やかに笑っている。


「当然の結果ね。努力だけでどうにかなる世界じゃないわ。あなたは、最初から間違っていたのよ」


 完璧な勝者の笑み。

 言葉よりも、その態度が胸に突き刺さった。


(違う……俺は、間違ってなんか……)


 言い返そうとした声は掻き消された。

 舞台袖から現れた教師が肩を掴み、半ば引きずるようにして俺を外へと連れ出す。

 扉が閉まった瞬間、大講堂のざわめきが遠ざかり、静寂が降りた。



 人気のない中庭に放り出される。

 足元に投げ捨てられたのは、俺の寮の荷物。

 退学は即日、帰る場所すら残されない。


「……はは」


 乾いた笑いが漏れる。

 自分でも驚くほど、涙は出なかった。

 悔しさや惨めさを通り越して、ただ呆然とするしかなかったのだ。


(結局、俺は……落ちこぼれのまま終わるのか?)


 そう思った瞬間だった。

 ふと、手のひらのスキル刻印が熱を帯びた。

 淡い光が脈打ち、心に直接言葉が流れ込む。


――【微成長】発動条件達成。成長率、加算。


「……え?」


 驚いて目を凝らすと、ステータスの表示が脳裏に浮かんだ。


【剣技:E+】

【魔力総量:E+】

【固有スキル:微成長(累積成長:2)】


 ――累積成長。

 さっきまではなかった表記が追加されていた。


「まさか……努力した分だけ、何度でも成長するってことか?」


 息が止まりそうになる。

 教師も、クラスメイトも、誰一人として気づいていない。

 【微成長】は小さな一歩を積み重ねるスキル。だが――無制限に、限界なく積み重ねられるのだ。


「ははっ……!」


 思わず笑いが込み上げた。

 そうか、そういうことか。

 誰もが俺を落ちこぼれと決めつけた。だが、それは彼らが「時間」というものを見誤ったからだ。


(見てろよ……必ず、追い抜いてやる)


 握りしめた拳に、静かな炎が宿る。

 落ちこぼれと蔑まれた少年の物語は、ここから始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る