第7話

ステファニーには、今まで過去にないほど常識を超えた潜在能力があると、先代の聖女にだと認められて聖女の地位を受け継いだ。彼女は日常的に祈りを捧げて結界魔法を張ったり、国に様々な形で力を与えている。国が繁栄しているのは聖女のおかげと言っても圧倒的に紛れもない事実。


「最後に確認しますが、本当に私を追放してもよろしいのですね?」

「黙れ! 負け惜しみを言うな!! なんて未練がましい……正直に言うと聖女の命を狙った罪で死刑にしてもいいのだが、ステファニーが可哀想だというから国外追放で許してやる事が決まったのだっ!!」


自分がいなくなったら大変なことになる。この国を本気で心配している顔でセリーヌが最終確認しますが、フレッドは有無を言わさぬ強い口調で宣言した。


人は何かが起こってからでないと、本当の事実に気がつかないのです。他人を思いやる心優しい性格の彼女は、自然に人の幸せを願うことができて人の不幸を悲しむことができる女性でした。こんなひどい仕打ちを受けても胸を痛めて、疲れ切った様子で深い悲哀ひあいの心境であった。


「……まるで私はヒロインをいじめる悪役令嬢みたいですね……」


セリーヌは喪失感と寂寥せきりょう感が込み上げてくると、この上なく静かな声でそうつぶやく。彼女は心のなかに空洞をかかえて哀愁を深く味わっていた。


そんな果てしない悲しみの彼女に対してフレッドは、不満そうな冷たい視線を向けて気持ち悪くニヤつくと、信じられない冷酷無惨な言葉を放つ。


「その通りだ。自分でもよくわかってるじゃないか? だが悪役令嬢という言葉では物足りないほどだ。お前はヴァレンティノ王国に不安や恐怖を与えて、国民を陥れようとした極悪人だ!!!」


国を気にかける清らかな心のセリーヌに、あろうことか悪性の存在だと唇から怒声を発した。とんでもなく許せない男である。セリーヌはなんら責められるべき言われはないのに……。


それどころか彼女は国で最も尊い存在なのです。いくら王子と言えども不遜ふそんで罰当たりすぎる。彼女の真実の姿がわかれば彼は恐怖に顔が青ざめて、身体の震えがいつまでも止まらない事でしょう。


「……わかりました。私は婚約破棄を家族に伝えてから、明日の朝早くに国を出ます」

「やっと自分の立場を理解したようだな。頭の悪い奴め」

「セリーヌは昔から頑固だからね……仕方ないなぁ」


特別に頭の悪いフレッドにまでばかにされて、セリーヌは内心いっそう呆れました。幼馴染のアランはセリーヌの性格をよくわかっているので、なかなか頑固者で困った子だなぁと、やれやれという感じで首を振っている。セリーヌは自分の信念を曲げない気高い心を持った誠実な女性。


正面から互いの顔を見るセリーヌとステファニーの視線が激しくぶつかり合う。ステファニーの頭部には、希少価値の高い宝石を絢爛けんらん豪華に装飾が施されているティアラが装着されていた。これは女性の最上級の礼装。しかもそのティアラは、セリーヌが王太子妃になるときに受け取るはずでした。


「うふふふふ」


次の瞬間、ステファニーが謎めいた笑いを浮かべた。誘惑するような怪しい顔をして、彼らの耳元で甘い言葉をささやくと、フレッドとアランは全身に電流が走って最高潮の喜びが駆け抜けた。


二人の体がプリンかゼリーみたいにプルプル震え始めて、天国に上ったような溶けそうなほど心地いい気分で、いかにも幸福そうな瞳と輝くような笑顔を見せる。そして決められた約束事なのか? ステファニーの手に二人はそっとキスをした。


「フレッド、アラン……なんでこんな事を……ステファニーさん! 二人に何をしたの?」

「これと言って、私はなにもしていませんけど?」

「嘘をつかないで!! それならどうして二人が変わってしまったの……?」


婚約者と幼馴染はステファニーに哀れで従順なポーズをして、彼女に嬉しそうに頭を垂れていた。目の前で恥をさらす二人に情けなくて泣きたくなった。セリーヌはやりきれない思いに耐え切れず、非常に悔しい思いでその場を離れた。

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