第6話

「お言葉ですが、私がいなくなったらこの国はになりますよ? 間違いなく崩壊するでしょうね」


精神的な動揺が一切見られない心でセリーヌは言った。自分がヴァレンティノ王国から立ち去れば、雪崩のように国が崩れていくと……。


「――あはははははははははははっ!! アラン聞いたか? こいつが国を出て行くとヴァレンティノ王国が潰れるらしいぞ?」

「ふふふ、セリーヌって冗談が言えるんだね? 実に面白い!」


フレッドは、きょとんとした顔をして口が半開きのまましばらく動かずにいた。そして突然に大声で笑いだした。隣にいるアランの肩をたたいて、笑いを必死に堪えているようにも見えた。


フレッドにつられるように、アランも下品な微笑みを口元に浮かべる。陽気な声で冗談めかしていった。セリーヌは責任感が強くて明るく優しい誠実な性格をしており、あまりふざけるような事は言ったことがないので、二人はこいつは何を言ってるんだ? みたいな状態になった。


次の瞬間、何もわからず混乱したような顔で、その様子を黙って見守っていたパーティー会場の客たちが、一斉に声を立てて笑い出して口笛が鳴り声援などが飛んだ。


「あの令嬢は何を言ってるんだ?」

栄華えいがを極めるこの国が潰れる……!?」

「セリーヌ様ったら……そんな冗談言うのね……」

「多方面にわたり産業と生産で世界一の活気溢れるヴァレンティノ王国が、崩れゆくわけがない!」

「婚約破棄をフレッド殿下に宣言されて、ショックで頭がおかしくなったのかしら……?」

「聖女のステファニー様の命を狙ったのも、やっぱり婚約者をとられたジェラシーなのでしょうか?」

「まあ、どちらにしてもセリーヌ様の追放は決まったようなものですわね……」


思いつく言葉をとりあえず言っているような感じで、客たちの声が糸のように絡まりあう。特に意識せずに取り交わされる会話の辿り着く先は、やはりセリーヌの言っていることに疑問視する声が多かった。


周囲の者ひとり残らず、どうかしている令嬢だな……? という感じでとてもまともに納得できるわけがないと、不機嫌な口ぶりで厳しく批判して断罪する勢いまである。セリーヌの言う自分がいなくなったら、国が崩壊するという言葉には誰もが耳を疑う事で見当がつかないのだ。


ヴァレンティノ王国が崩れ落ちるなんて、雲をつかむような現実味のない話なのだ。本気で信じるにはあまりにも奇異荒唐きいこうとうで全く根拠がない。実際にはあり得ない事で、皆がそのように反応するのも当然と言えよう。


「――聖女のステファニーがいるから、お前がいなくても何も問題はないぞ? 彼女は先代の聖女に10と保証されたのだっ!!」


一定の時間、客たちの声に注目していたフレッドが、ステファニーと肩を寄せ合って話し始めた。この国には素晴らしい技能を持っている聖女がいる。前の世代の聖女から太鼓判を押されたほどの女性であるとセリーヌを見下すように笑った。


「まことにごもっともです。この世界は残酷ですが、彼女が日々祈りを捧げてこの国を守っていますから何も支障なく私たちは、この先の未来も平和に生活できます」


アランも同意を示す相槌をして、セリーヌのことを救いようのない馬鹿だと思って皮肉な笑いを漏らした。二人は聖女ステファニーの能力に、絶対的な自信と信頼を持っていた。というのも今までの聖女とはレベルが違うと多くの人々に認められて、最高の聖女の称号を得ていた。


ところでフレッドとアランは、国中で一番美しい男と呼び声が高い。フレッドは白銀の髪と緑の瞳を持つ端整な美貌ですらりとした高い背丈の青年で、アランは大きな澄んだ青い目をして色白で整った上品な顔立ちの少したくましい長身の青年であった。


「……セリーヌ様、自分で言うのも何ですが私はの聖女です。全てのものから守りますから、どうぞご心配なく。安心して国を出てくださいませ」

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