第8話

――陰ながら国を支えていたであるセリーヌがいなくなってから1ヶ月経っていた。非常に重要な役割を果たしていた彼女が去ってから国はどうなったのか? 数日の間は特別に支障はありませんでした。ところが10日後くらいから徐々に崩れていく。


「フレッド殿下、お気を確かに!」

「もう少しの辛抱ですから……死なないでください!!」

「国に戻れば、聖女様が体を回復してくれますから!」

「げほっ、ごほっ……アラン……私はもう無理だ……」

「フレッド諦めるな! こんな傷なんか何も問題ない!! ステファニーがすぐに治してくれるっ!!」


今はヴァレンティノ王国へ向けて馬車で高速移動中、この国の王子フレッドが弱り果てて虫の息になっていた。フレッド殿下諦めないで、死なないでくださいと一同揃って大声をあげて激励している。


アランも怒るような声で元気付けた。国に戻ったら史上最強の聖女であるステファニーがいるのです。彼女は回復魔法のスペシャリストで、体の大きな傷でも一瞬で治してくれる。


回復する見込みのない重症の患者たちを、不死鳥のごとく復活させたのを何度も見ているので、致命傷のフレッドも間違いなく助かって大丈夫だろうと誰もがそう思っていた。


――その日、第三騎士団のアラン団長が率いる遠征軍で魔物の討伐に向かった。その理由は最近どうした事か? 恐ろしい魔物たちが異常に活発で、ある程度は国の騎士団が駆逐する必要があった。


アランは第三騎士団の団長を務める。まだ若いが圧倒的な実力を発揮し、騎士団の公式試合に出場した時は個人戦で優勝を果たした。結果として多くの仲間に団長を推薦すいせんされて、他の団長たち全員が満場一致でアランの団長に賛成した。


遠征部隊を指揮するのはフレッドだった。彼は武芸全般にわたって極端に苦手であり、並外れて運動能力がない。にもかかわらず、どうして魔物を討伐するための危険な任務に王子がわざわざ参加したのか?


「フレッド、危ないから今からでも辞退すべきだと思う。近頃は魔物が狂暴化して以前の数倍強くなっているんだ」

「アラン、そんなに心配するな」

「君のことは心配するに決まっているだろう? 大切な親友が怪我でもしたら耐えられないよ……」


セリーヌの婚約者のフレッドと幼馴染のアランは、小さい頃から親しくしていた。互いに唯一の親友と思っていて依存しているところがある。


ちょっと前から、何故か魔物が盛んであるという状況が発生する。それで討伐に向かうわけだが、フレッドの参加を聞いてアランは全力で止めた。危険すぎるとアランは苛ついたような大きな声も出した。フレッドは心配するなと言うが、彼は戦闘能力がほぼゼロで無いも同然だった。


「いや、私も遠征に行く!」

「だから何で行くんだ!! 正直に言わせてもらうけど、フレッドは貧弱で剣もまともに握れないじゃないかっ!!」

「大丈夫だから安心してくれ。私は自分が足手まといなのはわかっているけど覚悟はある!」

「どうして……? なんでそんなに行きたいんだ。理由を教えてくれ!!」


互いに相手を説得しようと試みますが、頑として譲らなかった。二人はヒートアップして喧嘩のような議論を続けた。フレッドは大丈夫だ、問題ないと自信たっぷりの様子。なんでそんなに平気だと言い切れるんだ? アランは明確な根拠を鋭い視線で問いただす。


「ステファニーにをしてもらうから」

「それを早く言ってくれよ……彼女の防御魔法は持続時間も長いから数日の遠征中はだ。火竜のブレスだって無傷でいられるほど凄いからさ。それなら君が弱くても全然関係ないね」


奇跡の聖女と多くの人々から名声を響き渡らせるステファニーに、フレッドが騎士団と遠征に行くと話したら防御魔法をかけてくれた。彼女が言うには、自分が魔法を解除しない限り10日は継続して、その間はどんな攻撃も無効化してくれると教えられた。


その加護の効果はアランもよく理解しているらしく、この世界で頂点に君臨する竜の攻撃でも完全に無敵で、かすり傷ひとつ受けないという強力すぎるものでした。それなら安心できると、アランはやっと心が落ち着いて甘ったれた表情に変わった。


「でもアラン……愛してくれて……ありがとう」


でも心配してくれて嬉しかったよ、とフレッドはアランにお礼を言うのです。恥かしそうに、もじもじしながらアランは君を心配するのは当たり前だろ? と照れたように白い歯を見せた。この世で最も分かりあっている無二の親友の絆がさらに深まりました。


それなのに、フレッドは遠征で深い傷を負ってしまった。聖女ステファニーの防御魔法が出発してから僅か数分で解けてしまっていたのだ。そうとは気がつかずフレッドは勢いよく地面を蹴って、全力疾走で魔物のボスに向かって一人で突っ込んでいく。自分はステファニーの加護で守られているから、ダメージは一切受けないからと彼は自らおとり役を引き受けた。


「……フレッド……!?」

「私は勇敢なところを見せたい!――ぎゃああぁあぁああぁあぁああぁああぁあぁあぁあぁああぁあぁぁっ!!」

「アラン助けてくれええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇーっ!!」

「フレッドーーーーー! 今助けに行くからな!!!」


ところが、ずっと前に防御魔法の効果がなくなっていますから、完膚なきまでにボコボコにやられて痛めつけられてしまった。今生きてることが不思議なくらいである。


フレッドの助けを求める悲しい悲鳴を聞いたアランが、すぐに駆けつけて魔物を追い払ったがフレッドは相当な重症で、今にも逝きそうな瀕死の状態であった。


その為、迷うことなく国に帰るという判断をした。国に戻れば聖女のステファニーが、絶対に体を回復してくれると信じて……。


フレッド殿下の乗った馬車がヴァレンティノ王国に到着した。

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