【二月】猫の日に向けて~可哀相な猫は外しました~
猫が出てくる有名な小説は? この問いに皆さんならなんて答えますか。
私はまず第一に『黒猫』が思いつきます。次点で『吾輩は猫である』。どちらも世界的に有名と言っても過言ではないでしょう。
では世界的なこの傑作なら、猫好きにおすすめしてもいいか? と聞かれると答えはノー。だって、ねえ……?
猫作品にふれたいが、猫が可哀想な目に遭うのは嫌! 猫好きとして常々抱いていたこのジレンマ。同じ人はきっといるはずだと思い、猫がいじめられない猫作品をまとめてみました。二十二日の猫の日に向けて、どうぞ。
岡崎琢磨『優しい人』(『猫で窒息したい人に贈る25のショートミステリー 』より)
タイトルがずるい。表紙もずるい。猫好きな本好きなら手を伸ばさずにはいられない一冊です。新しい猫吸いと言っても過言ではないでしょう。短編集ならではの軽さが魅力な一方、玉石混交は否めないかもしれません。
個人的にはトップを飾った表題作品のミステリーと猫の配合率が一番好きです。
九州から京都に引っ越してきた老婦人は体の不調に悩まされていたが、なぜかベランダに現れた猫の相手をしている時だけ症状が改善して……? という筋書き。ちゃんと「解けそうな謎」を用意しているのが好印象。
リアルに起きた犯罪からファンシーな非日常まで、幅広い謎と様々な猫をお楽しみください。
須藤真澄『長い長いさんぽ』
愛猫との最後のさんぽは、火葬場までの道のりだった――――。
飼い猫の最期を見届けられなかった作者が描く、「ゆず」との別れの記録です。
皆さんは猫に限らずペットを失った経験がありますか? 私は何度か飼い猫の死を迎えているのですが、そのたびに打ちひしがれるばかり。火葬の手配をして、棺に納める花やごはんを用意するだけでいっぱいいっぱいのしんどさを抱えます。
そうやって猫を送る準備をする最中、この漫画を思い出すといつもそのエネルギーに驚かされます。
ゆずの体が燃えて無くなる前にしっぽなどあらゆる部位をメジャーで測り記録する。
遺灰ごと持ち帰った骨を骨格どおり復元して仕分けする。
骨壺を包むカバーと、飾る台を自作する。
死後、夫と悲しみに暮れながらも上記の作業をこなしていくのです。これをタフと呼ばずしてなんと呼ぶのでしょう。
最期に何かしてあげられなかったから余計に作者は行動に移したのかもしれません。「衝撃的な内容」と紹介されるように、その悼み方に賛同できない人もいるでしょう。
でも、悲しみの核というのは同じはずで、だから私は初めて読んだときぼろぼろ泣いてしまいました。悲しみ方はこんなにも違うのに。
出会った以上必ず訪れる別れをユーモラスにハイテンションに、しかしひしひしと迫りくる迫力で見事に描き切った一作です。
梶井基次郎『愛撫』
https://www.aozora.gr.jp/cards/000074/files/411_19633.html
「ネコはありのままで完璧だった」。
これはナショナルジオグラフィックのイエネコ研究についての記事(https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/17/062100235/?ST=m_m_news)で紹介された研究者の発言です。猫について過不足なく述べた端的で秀逸な説明でしょう。
模様も色も多様なふわふわの毛並み、キュートとクールの二役を見事にこなす大きな目、ずっと触っていたいぷにぷにの肉球。猫の魅力は上げればきりがありません。
この『愛撫』は猫の前足にフォーカスした短編で、梶井は作品発表前にこんな手紙を書いています。
僕は猫で誰も恐らくこんなことはやつたことがないだらうと思ふことを一つ君に 伝授しよう。それは猫の前足の裏を予め拭いておいて、自分は仰向に寝て猫を顔の上 へ立たせるんだ、彼女の前足が各々こちらの両方の眼玉の上を踏むやうにして。つま り踏んで貰ふんだな。勿論眼は閉じてゐる。すると温かいやうな冷つこいやうななん とも云へない気持がして、眼が安まるやうな親しいやうなとてもいゝ気持になるん だ。滑稽なことには猫は空吹く風で、うつかり踏み外せば遠慮なく顔に爪を立てるに ちがひない。
よっぽどこの愛撫がお気に召した模様。
近代日本文学が苦手でも猫派ならぜひ読んでほしいのが最後の二段落。猫好きあるあるで、「分かる、私もついやっちゃう」と頷くこと赤べこのごとしです。
※可哀相な猫かどうかはグレーゾーンです。私は夢の中だからセーフ! と判定しました。
ボードレール『猫』(『悪の華』より)
『悪の華』には猫についての詩が三編収録されています。まるで恋人や神のように猫を讃えていて、その耽美主義に思わずくらくら。
訳者によっては難解ですが、その複雑さも一筋縄ではいかない猫に相応しく思えてきます。
綺麗なものを、綺麗な言葉で表現したときにだけ味わえる快楽がこの世にはあるのだと実感してください。
最後に。
世の中には犬が可哀相な目に遭うか遭わないかを記載した映画レビューがあるようなので……。
タイトルから猫ものだと判断できるが猫好きの人は注意や覚悟が必要かもという作品を挙げておきます。個人の判断ですので、あくまでご参考までに。
宮沢賢治『猫の事務所』
寺田寅彦『猫六題』
大佛次郎『スイッチョねこ』(作者曰く「一代の傑作」なんですが、私は幼稚園の時に読んでとても怖かった)
ふみごよみ 𦮙 @sizuka0716
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