第3話「助太刀」
監獄一階、保管室前。青髪の青年磁石と大柄なオカマが対峙する。
磁石は対峙した相手の分析を始めていく身長は190ほど、自分の二倍はありそうな鞭を携えている。突然相手が口を開く。
「はじめまして悪い子ちゃん♡私はこの監獄の
これを聞いて絶対に捕まってはいけないと新たに決意を深め、ファイティングポーズをとる。相手は自分より遥かに強いB+。能力、技術、知能。すべてを総動員してやっとこさ勝負になるかどうか。出し惜しみしている場合ではない。
「いくわよ♡」
――――戦闘が始まる。豪速の鞭が磁石を激しく打ち付ける腹を、足を、腕を。
抉り打ちのめし磁石は早速防戦一方に追い込まれる。あまりにも激しい乱打、乱打、乱打。怒涛の攻撃が終わる頃には磁石の身体は右腕がちぎれ、体中へこんでいた。
――――のだがサキュは違和感に気づく。
「アナタ、どういう身体してるの?」
磁石の身体は確かにボロボロだ―――ボロボロなのだが血が一滴も出ていない. その上へこんだところも少しずつ戻ってきている。
「まあ、そういう能力とだけ」
「面白い能力じゃない♡あのマッドサイエンティストたちが見たらこぞって研究に使うでしょうね」
磁石の能力は
スライムの身体は千切れてもくっつき再生したり変形し何処にでも入り込める。
磁石がこの作戦において大半の役割を押し付けられた理由がこの能力の便利さからである。
「任せられた仕事は…全うしなきゃだからな」
「あら男らしい…だけど手は抜かないわ」
更に激化する攻撃に磁石は身体を変形させうまく避ける(八割型当たっているのだが―――まあ再生するので問題はない)だが磁石の心には焦りが出てくる。なかなか攻めに転じられない.このままではいつしか別の看守にまで見つかってしまう。そうなったら正直もうお手上げだ。磁石に段々と焦りと苛立ちが募っていく。だがこの状況に苛立ちを感じているのは磁石だけではなかった。
「めんどくさいわねぇ……」
副看守長である自分がはるかに格下である侵入者に手こずっている。屈辱という他ない。
だがサキュは冷静だった、一時の怒りに身を焼かれることなく次の手を考え、実行する。
恐らく物理でこのまま殴り続けても千日手だろう。
「な〜〜〜ら♡」
サキュの構えが変わった。ぐぐぐっと身体を捩らせる。その姿は迫力と雄々しさに満ちており放たれる鞭の威力は今までのとは比較にならないだろうと見てわかる。
「やり方を変えるだ・け・よ・♡」
思いっきり振り抜かれたムチは磁石の眼前を通り過ぎる――――が、発生した風圧がとてつもない距離を吹っ飛ばし磁石を壁に叩きつける。
「ガッッ!?別にっスライムになっても…ゴホッ…痛みはちゃんとあるんだからな‥ってあれ?」
背中を貫く痛みと体中の内臓が押しつぶされるかのような苦しみに喘ぎながら身体を包む違和感に気づく。鞭が、巻き付いてる―――いやいやおかしいだろさっき少なくとも10メートルは吹っ飛んだんだぞ??サキュ?とかいうやつはその場から動いてないしムチの長さはパット見とは言えムチは長くて4メートル。あそこから俺に巻き付くような長さはないはず――――――待てよ?そう言えば昔マフィアの鉄砲玉をしていた頃なんかの資料でみた記憶がある。能力を持った道具があると。確か名称は
「能具か」
「あら正解よ物知りね♡」
[能具]文字通り能力を持った道具のことだ。強力なのだが、どこからともなく突然
「このムチは私の自慢の能具♡伸ばそうと思えばどこまでも伸びるし逆に縮めようと思ったらどこまでも縮むわ」
ペラペラとあっさり喋ってくれた…今の状況に納得いったのだがそれで縛られてる状況が変わるわけではない―――ゆっくりゆっくりサキュが近づいてくる。
「まぁよくやったほうよ、でも残念、捕まえた♡」
分厚い手が伸びてくるその手が俺に届こうとする瞬間、図らずしも警戒心が最も薄まるであろう瞬間―――この瞬間を待っていた。
「おらあああああ!!」
身体を薄く薄く伸ばし、鞭を身体に貫通させる。身体を異物が裂いていく感覚とてつもない痛みを代償に拘束を抜けた瞬間、能力をとき、顔面に蹴りをかます。
「!?」
ダメージはないが意表はつけた。この隙に鍵の保管庫まで突っ走る――!
「や〜〜〜〜るじゃないアナタ」
走り出すその瞬間ガシッと身体を掴まれる。すぐさまさっきと同じようにすり抜けようとするが―――
「?!! 抜けれない!?」
確かに能力は発動しているのだが状況は変わらないまま――――考える必要もない、こいつの能力だ。
「お察しの通り今私は能力を使っているわ♡分かってる♡能力を知りたいって感じでしょ? ―――そのためにはねアナタはまず「私」を、「オカマ」を知らなくてはならないわ!!!」
なんか、語りだしたぞ…
「オカマとは! 性別というカテゴリを超越したもの!! 性別を超え愛す者! 愛し、暖かく抱擁する者。それがオカマというものよ♡!!」
語っている間にもギリギリと締め付けられていく、意識が飛びそうだ。
「そして私の能力は母の
――――――大人しく私に包まれなさい♡」
磁石の意識が途切れる瞬間、ボコッと磁石の身体が膨れ上がる。
「なるべく……使いたくなかったん、だけど」
一回使ったら疲れすぎてもう使えないし、戦えるような状態にはならない。
正真正銘奥の手ここで捕まるよりずっとマシだ。
「!? まさかアナタ!!」
「戦略的―――自爆!!」
磁石の身体が破裂し、飛び散る。もちろんサキュにダメージはない。
「全く、仲間くらいは聞きたかったのに…まさか自爆だなんて…まぁいいわコイツと一緒にいた青髪の方を捕まえましょ」
ため息一つはいてサキュはゆっくりと歩き出した。
▲▽
監獄一階、保管室中。
スライムのような小さな塊がどこからともなく集まり、段々と形をなしていく。丁度人間大に膨れ上がったころ喋りだした。
「いたぁぁぁい!!!……これだからあまり使いたくなかったんだ…!」
磁石の最終手段、自爆。文字通り体が爆発するのでその痛みは想像を絶する。その上体力の消耗が半端ではないので1日に2回は使えないしこれを使ってから2時間は能力が発動できない。
「でも無事保管庫についたな。どっこいしょと」
立ち上がり周りを見渡す。
「って…めちゃめちゃ雑に置かれてんな。」
ドアから少し行った机に無造作に鍵の束が置かれており、隣には囚人のリストがあった。
どうやら今回の目的である鬼崎は3階の牢屋がある部屋の1番奥らしい。
「なんで捕まったのかも書いてるのか……えっとぉ?………は?」
罪状の欄には「研究所支部の破壊」と書いてある。
研究所は支部といえど国の重要機関だから相当の警備が敷かれている筈だ。それを1個破壊するなんて化け物だ。
「こんなのなんて聞いてねぇよ…まるぅ…。まぁ…言っててもしょうがないか…やるかぁ……」
ここにはいないリーダーに苦言を呈すが気持ちを切り替え保管室を飛び出し3階まで全力で走る。ここで見つかってしまったらハッキリ言って詰みなので慎重に進む。
――――――――ここから先は俺がビクビクしながら走るだけなので涙ながら少し端折ろうと思う。
△▼
「ゼェ…ゼェ…付いた。」
牢屋の部屋に着いたのだが、人の気配がない。
まぁ確かにそもそも捕まるような事をする大罪人はそもそもいないし居たとしてもほとんど死刑だろう。
奥には一際デカい檻があった。目の前まで歩き、声をかける。
「えっと…鬼崎涙さん?いますかーー…」
初手で舐められたらいけないので堂々と声を張り上げ鬼崎を呼ぶ。
すると次の瞬間肌が焼かれるような殺気が辺りに充満した。
「誰だ?」
いつの間にか檻を挟んで目の前に鬼崎が居た。
黒く長い髪に女性のような華奢な顔。特徴的なのは額についた赤黒い一本角とその心臓を震えさせるような低い声だ。
「私は磁石と申します!」
初手で舐められない策戦はもう無意味となった。仕方ないだろう怖いのだ。先程のオカマとは比べものにならない圧下手にでるのは必然だ。
「……何しに来た?」
「えっと…目的がありまして…その為にあなたの釈放を…」
「そうか…話は出れた後に聞いてやる。早くしろ」
「はい!」
鍵を取り出し開けようとしたところ後ろから声が聞こえた。
「兄ちゃん。あれ侵入者じゃね?」
「確かに、侵入者だな弟よ」
そうだった…ここの看守は5人いるんだった。
「お前!なにしちゃってんの?」
「答えろ!答えれば少しは優しくしてやる。」
同じ様な黒色の隊服に身を包んだ2人の男がこちらを見ていた。目をよーくこらして見ると首元にB+の文字が2人共ついている。さてどうしようか。逃げようかしら。
「おい」
後ろから倍は威圧的な声が聞こえてくる。
「早く開けろ、ワシはこんな所に捕まってる暇はねぇんだ。大丈夫だ。開けてくれればあんなヤツら秒でしめてやる。」
正直B+2人に牢屋から出たばかりの人がそんな圧勝できると思えないが、怖いので言われた通りすぐに開ける。
「あれぇ…?あれうちの囚人じゃね?出てきちゃったよ」
「まぁ…関係ないな。捕まえるまでのことだ。」
そう言うと地面に大きな亀裂を生むほどの踏み込みでこちらにジャンプし、2方向からの同時飛び蹴りが俺に向かってくる。
能力を再発動する時間はない。終わったかと思ったその時
「ありがとさん。青髪」
いつの間にか前に出てきていた鬼崎が2人の頭を鷲掴みにし地面に叩きつけていた。
「久しぶりにしっかりとした運動ができるわ…さてと」
地面に叩きつけられた2人を見下しながら言う
「準備運動だ。さっさと来な」
息が詰まるような殺気とともに鬼崎の戦いが始まった。
△▼
「そろそろ諦めたらどうなんだ?」
言葉の先にいるのは血まみれでボロボロになった迅であった。
「俺の相棒ルールの攻撃は痛ぇだろ?能力名「
頭がガンガンする。骨とかもうボロボロでしょ…これ
くっそ、理不尽すぎるって!奥の手使う暇もなかった…奥の手さえ使えばこんなやつ余裕で逃げ切れたのに…
「べーだ!効かないよそんな犬の攻撃…!」
「……スゲェなオメェまだそんな大口叩けるか。ちょっちばかし、不愉快だな。ルール、殺れ」
バカでかいライオンが突進してくる。ほんとにギリギリで躱し頭をぶん殴る。分かってはいたがびくともしない。
終わりしか見えない戦いに嫌気がさしてきたその瞬間。
「あらぁ!こんなとこで戦ってたのね♡やっと見つけたわ侵入者ちゃん♡」
最悪だ。看守が1人増えてしまった。まぁ確かにこんな派手にやっていたらそりゃ気付くだろう。
「桜木じゃねぇか、遅かったなぁ」
「もう1人の方を始末してたのよ♡まぁ…自分から破裂しちゃったんだけどね♡」
「だそうだ侵入者。もう諦めたらどうなんだ?」
磁石…逃げといてやられてんじゃねぇよ…くそっ…もう死んじゃう…せめておもちまるに連絡入れれたらなぁ。
―――そう考えた瞬間天井を壊し、なにかが落ちてきた。
「んだぁ?なにが飛び込んで来やがった…おい!桜木!ちゃんと仲間は殺したんだよな?」
「え、えぇ…そのはずよ……ん?待ってそれって!」
2人が驚いてる横で僕も驚いていた。
だって落ちてきたのは僕を最初に追いかけてきた5人の中にいた看守だったからだ。
呆気に取られていると上から声が聞こえてきた。
「軟弱軟弱!ったく準備運動にもなりゃしねぇ。」
「流石です!先輩!」
腹に響くような低い声となぜだか凄く聞き覚えのある情けない声。
「ん?あ!おい!犬!!」
「お、なんだ?お前の仲間か?」
「はい!しぶとく生きてましたぜ!」
上をみるとそこに居たのは今回の目標である鬼崎涙と手もみをしながら姿勢を低くした磁石であった。
TURNOver!! 結構な自堕落 @kwaisU
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