第2話「何の為に」

僕達の国家転覆の為の最初の任務は監獄に捕まっている鬼崎涙の解放と仲間への勧誘。

難易度はベリーベリーハードだ。


「さて、流石に無策じゃ死にに行くようなもんだし、作戦を建てようか。その前に…聞きたい事ある?」

おもちまるが切り出す。

「あ!はいはい!どうやって監獄まで行くの?そもそも監獄ってどこ?」

「えっと壊都らへんだね」


突然だけどここで僕達の国の地形について説明しようと思う。

地形って言っても複雑じゃない、円形の地形のど真ん中に王都って言うその名の通り王が住んでいる場所があって、その周りを囲うように闘都とうと幻都げんと壊都えと妖都ようと信都しんと虚都きょとの6個の都市があるだけだ。僕達の現在地は闘都。


「遠くない?速くても1週間弱くらいはかかるよ?」

「そこは心配しないで、私の能力で大分時短出来るから」


[能力]とは1人1人が持ってる特別な力の事だ

火が出せたり、遠くから物を持てたり―――かく言うこの国の地形も能力で作られたらしい。


「あねあね、ならよかった」

「あ、ハイハイ。戦闘とかどうすんですか?俺の能力は調査にこそ向けど戦闘はからっきしですよ。」

磁石の疑問はもっともだ。

「確かに!やっぱおもちもついてくるべきだよ!!」

「却下」

「無慈悲!!」


おもちも来れば安心だと思ってたのだが駄目らしい。


「てか迅、君戦えるでしょ?私までとは行かないけどその能力便利そうだし」

「なんで知ってるの!?」

僕の能力は2人には言ってない。なのに何で

と聞くとおもちが顔を近づけて来た。


「見てこの目、ばってんマークついてるでしょ?研究所でゲットしたんだけどこの目は人の能力がぼやぁってわかるんだよ」

「強くない?」

「強いよ?」


ますます付いてきて欲しいが、これ以上食い下がっても無駄だろう。もうそこは諦めて話し合う、作戦会議は潤沢に進んでいった


▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲


数時間の会議の末役割が決まった。

僕はもしもの時の戦闘、逃走のサポート役

おもちは待機。

そして侵入、鍵の奪取、鬼崎の解放役といことになった。

これを見たら大体の人はこう言いたいだろう


―――磁石の仕事が多すぎる。


でもコレには理由があってそれが磁石の能力だ。後々語るが磁石の能力は調査やなにかを奪う事に関してはかなり便利で、必然的に仕事量が多くなってしまった。

でも決まったものは決まったものだ仕方がない!!

作戦も練ったし、お互いの能力の確認も完璧だ。後は監獄に行くだけなのだが――


「―――結局どうやっていくの?」

「あぁ…まずこれに入って」


そこには人1人は入りそうなデカい大砲が2つ…いや考えたくないが、もしかして―――


「これで俺達を吹き飛ばして距離短縮…ってことですか?」

「おん」


同じ考えだった磁石の言葉が無慈悲に肯定されてしまう。

嫌々2人は打ち上げられ監獄へと出発するのだった。


▲▽▲▽▲▽▲▽▲


「意外と…小さいね。」


僕が監獄について真っ先に思ったことだ、監獄というからには某海賊漫画の監獄くらいを思い浮かべていたのだが―――

目の前にあるそれは高校くらいの大きさの鉄の箱だった。

十分でかいのだが、ちょっと拍子抜けだ。


「オェっ…まだちょっと余韻が残ってる…まぁ…そもそもこの国で犯罪なんて余程のバカがすることだからな。あんま使わないんだろう」

「あーね、納得。捕まるような事したら下手すりゃ死刑だもんね」


どうりで外の警備がスカスカなわけだと思いながら侵入経路を探す。

探していた結果、良いことと悪いことが見つかった。

良いことは監獄の外に見張りがいないこと見た感じカメラとかもなかった。

そして悪いことは

―――――侵入経路がない。

窓から磁石が入って入口とか開けるつもりだったのに

窓どころか入口らしきものすらないのだ。


「え?どうすんのこれ?」


磁石が呟いた。

確かにどうしようと考え、1つ思いついたが正直賭けだ


「磁石、1個だけ入れる方法があるけどやる?」

「…どんな?」

「僕の能力で伏せれば入るくらいの穴を開けて、そっから入る。」

「え?だけどそれって」


そう、バレる可能性が高い。見つからないように作戦を進めるのと、見つかってから作戦を進めるのとじゃ難易度がダンチだ


「やる?」

「やりたくないけど、それしかないよな……」


僕の能力は黒血狼ウルフ自分の血を操る能力だ。他にも1つ効果はあるんだけど後で紹介しよう。

血を圧縮する、極限まで、限界まで。

細く、厚く。手の平から圧縮した血を放出する。予想以上に分厚かったがゆっくりだけど無事にしっかり穴があいた。

こっからが本番だ、2,3回深呼吸をし、先に磁石が入り、後から僕が身体を入れる。

穴から這い出てホッとしていると突然背後から殺気を感じた。

磁石ではない、だって前にいる。

だとしたら考えられる事は限られる。

後ろを確認するとこちらを見つめてくる制服の男性が1人、そのままゆっくり上を見ると


「「看守室の目の前かよ!!!!」」


思わず叫んでしまい、騒ぎを聞きつけた看守が一斉に攻撃を仕掛けてくる。


「「ぎゃぁぁぉぁ!!」」


僕と磁石の最初のミッションは最悪なスタートを切ったのであった。


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


一心不乱に逃げ惑っている僕達の後ろから怒号が飛ぶ。


「待て!だれだおまえら!!なんのためにココに来た!今すぐ吐いたら半殺しで済ませてやる!」


怒号とともに得体のしれない玉が飛んできた

紙一重でよけ、玉がおちた地面はドロッドロに溶けていた。


「ころすきじゃんかぁあぁぁぁ!!」


泣きながら逃げる、逃げる、逃げる。


(そうだ!磁石にここを任せて僕が鍵を探そう!)


当初の作戦なんて忘れて、磁石に任せようと横を見る。するとさっきまでいたはずの磁石が消えていた。

あれ?と思い前を見る。


「犬!おれ鍵探しにいってくるから!頼んだ!」


かなり遠くにいる磁石がこっちを振り向きもせず言い放つ。


「狼って書いてろうな!犬じゃねぇ!……えってか!ちょっ!押し付けんなよ!!おい!てめぇ!」


さっきまで自分がやろうとしてたことを棚に上げ罵る。次の瞬間、ライオン見たいな獣が後ろから襲いかかってきた。


「ぎゃぁぁ!死ぬ死ぬ死ぬ!!」


叫びながら考える。


(マジ無理!1人ならなんとかなったかもだけど5人て!そうだな…まずコイツらまいてそっから1人ずつやっていこう……)


後ろを振り向き僕の血でできた玉を投げる。

当然弾かれるがその瞬間、玉の中の血が霧散し、目眩ましになる。


(この隙に!)


全力疾走で逃げるのであった。


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


磁石は監獄を1人歩いていた。


(はぁ…はぁ…巻いたか?犬…良いやつだったな…短い間だったけど)


もう完全に迅は死んだものだと思い、道中に落ちていた監獄のマップを見る。

正方形を真ん中から十字で割ったように廊下があり、道の左右に調理室やモニター室、看守室などなどがある感じだ。

監獄のくせに牢屋は最上階の3階にしか無かった。牢屋に入っている囚人の名前も分かればよかったのだが……流石にそこまでは書かれていなかった。


(看守室の隣に牢屋の鍵の保管庫があるのか…厄介だ。)


でもと磁石は思考する。


(こんだけ騒ぎが起こっているのに、誰かが出てくる気配もないな…まぁ、使うかわからない施設にそこまで人員を割かないか――

だからたぶん、さっき看守室にいた5人と多くてもあと2、3人くらいかな?)


まずは鍵と保管室に向かおうとする。

その瞬間、なにかが頬をかすめた。

かすめた頬から血がたらーと流れてくる。ゆっくり後ろを振り向くと後ろに黒のブラジャーに黒の大人のパンツを着たムッキムキの―――男性がいた


「あらぁ侵入者さんじゃない、…私がしっかり調教してあげないと。悪い子ちゃん♡」


調教と言う言葉とこんなご時世になんだが体格に合わない口調と内容に怖気がする。

そして体格には似合わない細身で1メートル程のムチを振り回しながら舌を出す。


(俺の初戦…これかよ……)


恐怖と吐き気を抑えながら戦いが始まるのだった。


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


一方その頃迅は戦闘の真っ只中だった。


「あぶねっ!……うっ…!??服溶けたんだけど!?」


相手は警察官の服装をした美青年だった。


「オラァ!逃げんな!大人しく捕まりやがれクソ野郎!今なら命だけは取らないでおいてやるからよ!」


その顔には似つかわしくない暴言を吐き散らしながらにむかって酸の玉を投げる。


「ちょっ!それほんと危ないから!死んじゃうから!!」

「殺す気で投げてんだよ!!」

「命とるつもりじゃんかぁ!!」


迅もただ逃げているだけでなくちょくちょく攻撃も仕掛けている。

だがすぐに相手の酸に溶かされてダメージどころかかすり傷にもならない。


「もぉ!弾いてくんなよ!なんでそっちの攻撃は通ってこっちは通らないんだよ!理不尽!!」

「黙れ!低ランクが!雑魚は雑魚らしくやられとけや!チョロチョロよけんなや!」

「あぁ??ばーか!オメェのなんの考えもない単純な攻撃なんてあたりませ〜〜〜ん!」


煽りながら同じように血の煙幕をなげその隙に迅は丁度あった調理室に入る。


(ここならもうちょっとマシに戦えるでしょ)


戦いなんてやったことないが、研究所生活の時に自分の能力はあらかた把握してる。

後はどう使うかだ、どう使えばより勝利に近づくか、だ。

先ずは分析、あの酸みたいなのを飛ばしてくる奴は多分だけどすっごく短気だ。

戦い方も見た感じ酸を飛ばすだけの単純な感じだし、軌道は分かりやすい。

僕は口角を上げる。


「なんだ、無理ゲーってわけじゃないじゃん。」


丁度ここは調理室なので色々あるはずだ。

役に立ちそうな物を盗っていく。するととうとう追いつかれてしまった。


「いた!手間かけさせやがって!!殺す!」


同じ様な文言、同じ様な技、流石に見切れる。躱し、距離を詰め、先ずは仕掛ける。

顔面に向かって勢いよく胡椒を投げる。


「へっっくしゅん!へくしゅん!!テメェっ…くしゅん!卑怯だろ!くしゅん!」

「卑怯もクソもあるかよ!勝てば官軍!負ければ賊軍!どんな手を使ってでも勝つよ」


黒血狼ウルフを使い、ハンマーを作る今度は―――通る。


「よいっっしょぉぉ!!!」

「!??――――」


どうせ大したダメージにはなってないだろう。蹲らせただけ万々歳だ。もちろん攻撃はまだ終わらない、今度は上から、頭を狙う。

ハンマーが看守の頭にあたるその瞬間、看守が叫んだ。


毒月クラゲ!!」


酸が僕の攻撃を受け止め、僕の武器を溶かし消滅させた。

ゆっくりと立ち上がり看守は言う。


毒月クラゲは自律型の酸だ。お前なんかに使いたくなかったが……予想よりうんと厄介だったからな、使わせてもらう。」


目つきが変わった。さっきまでの慢心に満ちた目ではなく、冷静で冷徹な狩人の様な目

周りには2体、クラゲの形をした酸の塊が浮いている。


「名乗ろうじゃないか。月島 溶つきしま よう、ランクはB+。改めて死ね。毒射アシッド


クラゲが酸を噴射してくる。

パターンが変わった攻撃、予想とは違う。完全には避ける事が出来ず、腕に当たってしまった。

肉が溶ける音がする。不愉快な感触と音だ。


「や、やるじゃん…でも、クラゲちっちゃくなってるよ?後何発撃てるの?」

「お前が死ぬまでかな」


………クラゲがいっぱい出てきてしまった。変に煽らなきゃよかった!!と思う暇もなく、あっという間に防戦一方だ。


「毒射、毒射、毒射、毒射、毒射、毒射、毒射、毒射、毒射、毒射、毒射、毒射」


こちらの攻撃はクラゲに受け止められ、あちらは超連射で攻め立ててくる、単純な物量と威力の差、改めてこの差を実感する。一見大ピンチな状況。詰みのように見える状況。


だが――――


少し違和感だ。

――――なんで月島は攻撃してこない??

今もただクラゲに命令してるだけだ。

殴りかかろうとすらしてこない。クラゲにさせるより自分でぶん殴ったほうが速くすむ気がするが…なんでだ?

今も遠くで指示を出すだけ。

―――――遠くで、まるで酸に当たりたくないみたいに。

考えて見ればアイツは酸を放つだけ、纏ったりはしなかった。

確信というには甘い直感に頼りすぎた考察だ。

だが、もしかして―――


「お前…酸の耐性ないだろ?」

「――――?!」

避けながら言うと月島の顔がピクンと動いた。どうやら合ってるらしい。

考えてみれば当たり前、酸に当たれば人は溶ける。あんなに高濃度の酸なら尚更だ。

ゴールが出来たならあとはゴールまでを繋ぐだけ、簡単な事だ。

クラゲの動きが緩くなった様な気がする。出せる酸にも限界はあるだろう、仕掛けるなら今しかない。

黒血狼を使い血を固める、細く、長く、しなやかに。


「!?させるかっ!!」


何かを察知した月島がクラゲの手を強めるが

僕のほうが少し速かった。


「捕まえた!!」


伸ばした血で月島の足を掴む。そのまま伸ばした血を吸収していき、吸い付けられるように月島に近づく。


「やめろ!毒玉ギフト!!」


何か出そうとするがゼロから酸を出すより用意しておいた僕のほうが速い。投げたナイフが月島の手に刺さり動きが止まる。


「今度こそ!おわり!!」


吸い付けられるような勢いをそのままにハンマーで思いっきり殴る。

流石に頭にもろだ、数分は動けなくなるだろう。


「やるじゃねぇか……雑魚のくせに」


そう言ってバタッと倒れたが余計な1言にムカついたので数発頭をぶん殴っておいた。

後は落ちてたロープでぐるぐる巻きにして冷蔵庫に突っ込んだ。


「よっし…勝ったぁ!結構溶けちゃったな、うわっ!右足の先ちょっと骨出てる!しかも貧血だし…少し休も……」

「あ?もしかして、あの野郎…やられた?」


リラックスモードに入っている僕の後ろから声がした。

次の瞬間、何かが背中を強く打ち付ける。

数メートルはくだらないくらい吹き飛ばされたあと、状況を理解し始める。


(ヤバイヤバイヤバイヤバイ!いっっっってぇ!クソ!ハイエナかよ!高ランクのくせに!)


「困るんだよなぁやられたらさぁ…色々始末が面倒でぇ、上の人たちにグチグチ言われるしよぉ…」


その男は身長は180くらいだろうか。

ビシッとスーツを着ている、スーツと言ってもいわゆるヤクザが着るようなスーツでサングラスをしており、ガラが悪いのが見て取れる。

その横には鎖で繋がれたライオンのようなものがいる。


ライオンのチョーカーにはB+と書いており、それを従えている?男の首元にはAとついている。

さっきの月島より二段階強い相手、この満身創痍の状態でだ。


「やっぱりおもちに付いてきてもらえばよかったな…」


自嘲気味に笑い、起き上がる。


「お前、B−じゃねぇか…なんで俺に立ち向かおうとする?しかもそんなボロっちぃ身体でよ勝てねぇってわかるだろ」

「うるさいないちいち言うなよ…なんの為…まぁ単純だね」


ニヤッと不敵な笑みを浮かべ僕は言う。


「夢のため…かな」


決意を胸に、僕は絶望に立ち向かった。




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