第27話 コピーの達人

 季節は巡って夏に突入した。


 私は〈放水壺〉の水やりを眺め、感慨深い気分になってしまった。

 畑に植えた大根は、そろそろ収穫の時を迎えようとしている。

 さらに例の謎の植物もぐんぐん伸びている。茶色い幹のようなものができていることから、将来は大樹に成長するかもしれないね。


「気分はどう? もっと水ほしい?」


《……――♪》


「元気そうだね。よかった」


 やっぱりこの種、不思議な力が感じられるよね。

 でもよくよく観察してみると魔力じゃない。かといってウィリアムが使うような聖なる力でもないし、相変わらず謎すぎる。とにかく大きくなるのが楽しみだ。


「そしてこっちは……お、芽が出てきたね」


 実は先日、ファザール村で購入した大根以外の種も植えてみた。

 ニンジンとレタスのような葉物野菜だ。いずれも上手く成長すれば、秋頃には収穫できるはずである。


 1ヘクタールもの土地は全然有効活用できていないが、将来的にはもっと畑や田んぼを増やしていきたいものである。


「ルカ様! ルカ様ルカ様ルカ様っ!」


 工房のほうから私を呼ぶ声が聞こえてきた。何事かと思って振り返れば、興奮した様子のシルトくんが大急ぎで駆け寄ってくる。


「ルカ様! 魔具が! できました!」


「え?」


「魔具ができたんです! 見てくださいっ」


 シルトくんがそう言って差し出したのは、見覚えのある手袋だった。

 これは……私が作った〈火拳ひけん〉?

 でも細部のデザインが異なる。私が作った〈火拳〉は白かったが、こちらは染料を使ったのか赤い見た目をしている。


「これは?」


「ルカ様の〈火拳〉を、可能な限りコピーしてみました」


 さらにシルトくんはポケットから9個の〈火拳〉を取り出した。

 あまりの量だったのでびっくりしてしまう。

 え? これ全部魔具? こんなに作ったの? 同じやつを?


「ど、どういうこと? シルトくんが全部作ったの?」


「はい。こないだメイベルさんと戦った時、実際に〈火拳〉を使ってみたことでイメージができたんです。素材となる手袋を用意して、赤魔石を嵌めていきました」


 シルトくんは〈火拳〉を右手に嵌め、ダイヤルを回して拳を振るった。

 炎が弾ける。最大火力にしてもオリジナルより威力は低そうだ。


 それからシルトくんは、残り9個の〈火拳〉も同じように試していく。てっきり品質に差があるのかと思ったが、どれも一定の火力を出すことに成功していた。


 これは、ある意味で革命かもしれない。


「僕には0から作ることはできませんでした。だから、かわりにたくさん作れないかと思って試してみたんですが……全部、成功しちゃって」


「すごい……」


「え?」


「すごいよシルトくん!」


 私はいてもたってもいられず、シルトくんの両手を握る。

 シルトくんは私の豹変に目をパチパチさせていた。


 でもこれは本当にすごいことだ。

 私は同じ魔具を作るのが苦手なのである。


 一応、商品補充をするために増産することはあるけれど、まったく同一にはならない。飽きっぽい性格が影響しているのかもしれないが、オリジナルと微妙に性能が異なってしまうのだ。


 だけどシルトくんの場合は違う。

 元の〈火拳〉より多少性能は劣るとはいえ、一気に10個も同じものを作ってしまった。


 これはシルトくんの真面目で几帳面な性格が功を奏したのだろう。

 シルトくんは、コピーの達人だったのだ。

 そのことを説明してあげると、シルトくんは顔を真っ赤にして微笑んだ。


「あ、ありがとうございますっ。ルカ様のおかげです……!」


「いやいや、シルトくんが努力したからだよ! これで私からの課題はクリアだね」


「はい! 本当に、本当にありがとうございますっ」


「よーし、それじゃあ次の課題に行こうか」


「えっ」


 驚いたような視線を向けられる。

 だけど私は止まらなかった。

 シルトくんは、1度使った魔具を量産する才能を持っていた。ならばその長所を伸ばさないわけにはいかない。


 私はニヤリと笑って言うのだった。


「私の作った魔具を、全部10個ずつコピーしてみてよ。そうすればイトー工房の在庫不足も解消できるし、シルトくんの修行にもなるし、一石二鳥だよね?」

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