第28話 エルフが森を焼く

 それからシルトくんの修行が始まった。

 私が作った魔具を使い、イメージを固めてから量産するのだ。一部売れてしまった魔具については、私が改めて作り直してからシルトくんにコピーをお願いする。


 そうやって魔具作りを続けていれば、いつかオリジナルを製作する際の糧になるはずだった。まあ、今は在庫を量産する作業に没頭してもらうとしようか。


 一方私はといえば、新しい魔具の開発に取り組んでいた。

十種杖とくさじょう〉を超える武器を作ろうと思ったのである。


 オリジナルの〈十種杖〉はクロエさんに売却してしまったため、手元にはない。また紫魔石も在庫を切らしているため、同じものを用意することはできなかった。


 だから今度は、もう少し別の方向性で作ることにしよう。


「形状としては、やっぱり杖が一番だよね」


 エルフの里から拝借してきた黒檀が残っていたため、ナイフで上手い具合に形を整えていく。

 剣とかも考えたけれど、それだと私が近接戦闘を繰り広げることが前提になる。

 運動神経ダメダメな私に、白兵戦用の武器は似合わない。


『どんな魔石を使うのだ? やはり様々な種類を嵌め込むのか?』


「〈十種杖〉は10個の魔石が嵌め込まれてるんだよね。だからたくさんの属性を扱えるけれど、1つ1つの威力はそんなに高くないの」


『……しかし、クロエ殿は〈十種杖〉で凶悪な魔物を倒したそうだが? 威力は十分にあるのではないか?』


「あはは。それはたぶん、魔物が弱かっただけだよ」


〈火拳〉と違って、〈十種杖〉の威力を司るダイヤルには「弱」と「中」しかないしね。どうせなら「強」とか「最強」をつけたい。


 というわけで、今回は属性を絞ることにした。

 この手の属性でメジャーなのはどれだろうか?


 四元素の火・風・水・土? それとも五行思想の木・火・土・金・水?

 五行思想だと土と金が茶魔石で被るね。

 というわけで、四元素をモチーフにやってみようか。


「あ、でも風は〈魔風刀〉があるから別のにしようかな」


 かわりに雷属性の黄魔石にするとしよう。




 ※ ※ ※ ※ ※ ※




「よし。型はこんなもんか」


 3日ほど時間をかけた結果、素体となる杖は完成した。長さは〈十種杖〉と同じく1メートルくらい。


 魔石のスロットの数は、4種類を均等にするために12個用意した。魔石それぞれの相互作用を強化するために、杖の表面に小さな溝を掘って魔力が流れる道も作ってある。これで魔石同士が共鳴し、威力が何倍にも膨れ上がるはずだった。


 そしてスロットに魔石を嵌め込んでいく。

 赤魔石が3個、茶魔石が3個、青魔石が3個、黄魔石が3個。

 それぞれ火、土、水、雷の属性を司っている。

 これらの魔石をしばらく素材に馴染ませれば、完成だ。



 イトールカ14 スクエア・ワンド



 これまで魔具の名称は漢字縛りでつけてきたけれど、最高傑作なんだしカタカナでいいよね。この子は〈スクエア・ワンド〉に決定だ。


「ついに完成したんですか……!?」


 シルトくんが待ちきれないといった様子で近づいてきた。

 部屋の隅の木材で爪を研いでいたウィリアムも興味深そうに視線を寄越す。窓際でぐーすか昼寝をしていたメイベルすら、ぱちりと目を覚ました。


「ルカ様! さっそく試してみましょうよ!」


『楽しみだな。主の新境地が見られるのか』


「なになにぃ? もう夕ご飯できたのぉ……?」


 みんな期待してくれているようである。あとメイベルは眠ければ寝ててもいいからね。


 私は工房のみんなを引き連れ、庭に出た。

 ふふふ、新しい魔具を初めて使う時って緊張するよね。でもこのワクワクは何物にも代えがたいのだ。はやく試したくてしょうがない。


 シルトくんたちのワクワクした視線を受けながら、私は〈スクエア・ワンド〉を構える。

 最初は……とりあえず火でいいか。


 狙いは広大な庭。畑のないスペースで試すことにする。

 私はダイヤルを回し、〈スクエア・ワンド〉を振ってみた。


「やーっ!」


 次の瞬間、目の前で火山が噴火した。

 そう思えるほどの衝撃だった。


〈スクエア・ワンド〉から放たれた炎は、私の想像を絶していた。目の前に存在していた原っぱを焼き、さらにその背後にある森にまで飛び火した。


 とんでもない爆発音。そして地震。


「きゃああああああ!」


 メイベルが事件性のある悲鳴をあげた。まさに事件だった。

 私の目の前では、地獄の業火が森を包み込んでいる光景が広がっている。まるで世界の破滅が訪れたかのような有様だ。……ちょっとやばくね?


「……威力強すぎたかな?」


『主! はやく消火するのだ!』


「ルカ様、水です! 水!」


「そ、そうだね」


 さすがに山火事になったら目も当てられない。

 私はダイヤルを回して青魔石を起動すると、〈スクエア・ワンド〉を振って水を解き放った。これまたものすごい威力である。まるでダムの放水だ。背後に吹っ飛びそうになったが、ぐっと堪えて消火活動にいそしむ。


 それから1分ほど経った頃、ようやく鎮火に成功した。

 一部森は焼けてしまったけれど、それほど広がらなかったようなので一安心だ。

 ウィリアムが溜息まじりに言った。


『……主よ。その魔具、次からは慎重に扱ったほうがよいぞ』


「うん。気をつける」


「ひいいっ。怖い怖い怖い怖い……」


「ごめんねメイベル、もうしないから……」


 私は大いに反省した。

 さっきの火、威力「中」だったんだけどなあ……。

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