第26話 電気首輪

 こうしてファザール村の悪夢騒動は幕を閉じた。

 村人たちは私のことをいっそう讃え、「ルカ様ありがたや」と一心不乱に祈るようになってしまった。

 完全に宗教と化しているよねこれ。私にはもう止められそうにない。


 まあ、自力ではどうにもならないので諦めるしかない。

 私は優雅な田舎生活を送れるなら、それで満足なのだ。


 そして一夜明け、翌日。


「ぐぬぬ……全然外れないわ……!」


「あ、それ無理に取ろうとすると電流が流れるから気をつけてね」


「え? ぴにゃああああああああっ」


 バチバチバチバチィッ!!

 工房の隅っこで格闘していたメイベルが、滝登りをする鯉のように跳ねあがった。可哀想だけれど仕方がない。村人たちを納得させるためには、仕方のない措置なのだった。


 黒焦げになったメイベルが、肩を怒らせて私に近づいてくる。


「死ぬかと思ったじゃない! どうしてくれるのよ!」


「死なない程度だから大丈夫だって」


「この鬼畜エルフ~!」


 メイベルは地団駄を踏んで悔しがっていた。

 彼女の首に嵌められているのは、私特注の魔具である。



 イトールカ8 電気首輪



 ……これはようするに、猛獣に言うことを聞かせるためのアイテムだ。

 以前、魔物をペットにできないかと思って開発したのである。


 だけどまさか、女の子みたいな魔物をペットにすることになるとは。

 私が想定していたのは猛獣みたいな魔物なんだけどね。


 ちなみに、メイベルはしばらくイトー工房で預かることになっている。こいつを野放しにしたら何をしでかすか分からないからだ。


「おいエルフ! 電流が流れる条件を教えなさいっ!」


「無理に外そうとした時。私の許可なく他人に危害を加えようとした時。勝手に逃げようとした時」


「拷問でしょこんなのっ!」


「大丈夫大丈夫。〈電気首輪〉の魔石の寿命は10年くらいだから、そのうち解放されるって」


「10年も待ってられるかぁっ!」


 メイベルは両手を振り回して激怒する。

 今まで私の周りにはいなかった、賑やかなタイプの子だ。


「でも仕方ないよね? こうでもしなくちゃ、村人たちに殺されてたかもしれないんだよ?」


「うっ……」


「ある意味、私はメイベルを助けてあげたの。少しは感謝してほしいよ」


「うううううううっ! 覚えてなさいよ! 10年経ったら、絶対あんたに復讐してやるんだから!」


 おー怖い怖い。

 寝ている間に魔石を取り換えて〈電気首輪〉の寿命を延ばさないとだね。

 メイベルは「はあ……」と溜息を吐き、椅子にどっかりと座った。


「……それにしてもあんた、何であんなに強いの?」


「魔具のおかげじゃない?」


「魔具……?」


 メイベルの視線が、私の手元に吸い寄せられた。

 ちなみに現在、〈十種杖とくさじょう〉をしのぐ最高傑作の製作に取り掛かっていた。昨日みたいに突発的なバトルが発生したら大事だし、今から備えておくのも大切だと思うのだ。


 といってもまあ、まだアイデアを紙にまとめてる程度だけどね。

 メイベルは興味津々といった様子で近づいてくる。


「へえー。世の中にはいろんなことをするやつがいるのねえ」


「それはそっくりそのままお返ししたい言葉だけどね……」


「あ、もしかして私の悪夢を邪魔したのもあんたの魔具?」


「うん。〈聖水壺〉っていう魔具」


「本当に憎たらしいわね、あんた……」


 メイベルが使ったのは、相手に悪夢を見せる魔法らしい。

 この世界において魔法を使えるのは一握りの天才に限られる。

 そういう意味において彼女は希少な人材なのかもしれないが、やってることが残念すぎて目も当てられない。


「そうだ、私にも何か魔具を作りなさいよ。それでチャラにしてあげるわ」


「何がチャラなのか分からないけど……うーん。じゃあ、快眠できる枕とかどう?」


「おお! いいわね! 実は寝つきが悪いタイプで困ってたのよ」


 冗談のつもりで提案したのだけれど、意外と好感触だった。

 話してみると案外フランクなタイプの魔物なのかもしれない。


「ちなみに、魔具ってどうやって作るの? 私でも作れるかしら?」


「それはやってみないと分からないかなー」


「まーいいわ。細かい作業は苦手だし」


「諦めるの早すぎでしょ……」


 そこでふと思った。

 魔具の原材料となる魔石は、魔物を倒すと手に入るのだ。

 ということは、メイベルの体内にも魔石が眠っているのだろうか……?


「……な、何よ。人の胸をじろじろ見て」


「魔具には魔石を使うの。メイベルの魔石はどんなやつなのかなーって。もしかしたらレアものだったりして……」


 その瞬間、メイベルは両手で肩を抱いて3メートルくらい後退した。

 顔を真っ赤にして私を睨みつける。


「破廉恥! そんなこと聞くなんてどうかしてるわ! 変態!」


「ご、ごめん……」


 倫理観がよく分からねえ……。

 とにかく、メイベルの魔石について詮索するのはやめておこう。

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