第20話 らくらく石鹸
結局、クロエさんは〈
今後もちょくちょく店に来てくれるらしい。
新規顧客の開拓に成功したのはいいけれど、問題は商品の数が壊滅的に足りていないという点だ。
この工房は、私が趣味半分に始めたものでもある。
その最大目標は「のんびりゆっくり楽して稼ぐこと」。あんまり必死になって魔具を作りたくはないのだ。
だけど、商品がなくてお客さんが何も買えないのは申し訳ないよね。
「あ、そうだ」
魔具を量産するのは骨が折れる。
だったら、魔具で量産できる商品を作ればいいんじゃないだろうか?
というわけで、私はさっそく新しい魔具の開発に着手した。
「ルカ様、今度は何を作ってるんですか?」
「ん。新しい魔具」
工房であれこれ部品をいじっていると、シルトくんが目を輝かせて尋ねてきた。相変わらずこの子は私の作業に興味津々らしい。
「どんな魔具ですか? 気になります!」
「それよりシルトくん、課題のほうはできそう?」
「うっ……」
シルトくんは痛いところを突かれたと表情を歪める。
「実は……毎日頑張ってるんですけど、なかなか上手くいかなくて……」
「最近気づいたんだけど、魔石はイメージが大切なんだよ。理屈や法則よりも、こうすればこうなるっていう確信があると上手くいきやすいみたい」
研究が進んでいないので断言はできないが、魔石は使用者の思いや願いを現実に反映する効果があるような気がする。
たとえば〈
素材と魔具をくっつけるための細かい論理はあんまり考えていなかったが、結果として便利な魔具を完成させることができたのだ。
この世界は現代日本と同じように物理法則が存在している。
一方、魔法や魔石といったファンタジー概念――イメージの力によって、その物理法則を上書きすることもできるのだ。
「イメージ……ですか?」
「魔具師に向いているのは発想力が豊かな人なのかもね。……シルトくん、ちょっと真面目すぎるところがあるからなあ」
「が、頑張って不真面目になりますっ」
シルトくんは両手の拳を握って私を見上げてきた。可愛い。
いや不真面目になればいいってもんじゃない気もするけどね。
「もっと自由な発想で考えたほうがいいんじゃない? 言い換えれば、妄想しまくるとかさ。シルトくんって暇な時に何考えてるの?」
「どうやったらルカ様みたいになれるか、とか……」
可愛い。
「もっと妄想したらどう?」
「も、妄想ですか……うーん……頑張ります……」
困らせてしまったみたいだ。
まあ、その点私はけっこうチートである。
現代の常識が頭にこびりついているため、魔石の力を引き出すためのイメージを固めやすいのだ。……それに加えて、前世は割と妄想たくましい痛い感じの人間だったし。
シルトくんが、かぶりを振って尋ねる。
「えっと、それはそれとして、ルカ様は何を作っていらっしゃるんですか……?」
「あ、石鹸を作る魔具だよ」
「石鹸?」
「よし。これでいいかな」
テーブルの上には、高さ50cmほどの箱が置かれている。
正面真ん中にはダイヤルが嵌め込まれており、その下には取り出し口となる穴が開けられている。いわゆるガシャポンのような見た目だ。
イトールカ13
「これが石鹸なんですか?」
「これには青と黄、茶、緑の4種類が使われてるの。ちょっと見てて」
隣のボウルに入れてあった野イチゴの粉末をつまむと、〈泡沫箱〉のフタをあけて中にぱらぱらと入れる。さらに正面のダイヤルを回して少し待てば、下部の取り出し口から固形石鹸が滑り出してきた。
「わあ! これ石鹸です……!」
「ふふふ。すごかろう」
「す、すごいですルカ様!」
この世界にはもともと油脂と植物灰を混ぜ合わせた石鹸が流通している。
だけど私の〈泡沫箱〉は、細かい工程をすべて魔石に任せることで即座に石鹸を作り出すことができるのだ。
「どうやったんですか、これ……?」
「石鹸の作り方は、前に村の人から教えてもらったことがあるの。だから魔具で工程を省略する時、イメージがしやすかったのかもね」
「えっと……つまり、魔具の作り方には2種類あるってことですか? 『こうなるんだ』と固く信じることでイメージを強固にする手法と、理論を頭に入れることでイメージを強固にする手法……」
「ん? あー、えっと。そうかもね」
よく分からないけどたぶんそうだ。
シルトくんは「なるほど……」と真面目な顔をして考え込んでしまった。
……うん。参考になったのなら何よりだ。
私は石鹸を手に取って確認してみる。
果物のいい香りがするし、泡立ちもそれなりによさそうだ。
これを大量生産すれば、商品として店に並べられるかもしれない。
だけどその前に、使用感を確かめるのは重要だ。
「よし。お風呂に入ろう」
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