第18話 遠慮しておきます
そろそろこの世界の情報がほしかった。
何故かといえば、色々な物資を手に入れたいからだ。
快適な工房生活を送るためには、魔石だけあればいいってもんじゃない。
特に重要なのは食料だ。
森でとれる野草や魚、ファザール村で仕入れる牛肉と調味料――これだけだとさすがに飽きてくる。工夫にも限度があるのだ。
米が食べたい。切実に。
この世界にはジャガイモ(っぽいもの)があるんだから、米があってもおかしくないはずだ。
問題は、この近辺には全然出回らないという点である。ファザール村の主食は、主に小麦と芋だ。米を食べているという話はまったく聞かない。
もっと南に行けばあるのかな?
行商人さん、仕入れてきてくれません? 無理か。
「うーむ。ファザール村の人に相談してみるか……」
幸か不幸か、あの村の人たちは私のことを神扱いしている。
ちょっとお願いすれば、血眼になって探してくれるかもしれない。
いやでも、なんかそれも権力振りかざしてるみたいで嫌だな……。
「どうしたもんかなー」
畑の水やりを眺めながら私は腕を組んだ。
大根はすくすくと成長している。もう少しで収穫できるかもしれない。
一方、謎の植物もぐんぐん成長していた。たまに囁くような声が聞こえてくるんだけど、やっぱり気のせいじゃないよね? あの植物がしゃべってるのかな?
「ねえ謎の木さん、あなたは成長したらお米にならない?」
《……――、……――》
「あ、なるの? じゃあ食べてもいい?」
《――……! ……――!!》
めっちゃ拒否されてる気がする。あはは、冗談だよ。
まあ気長に探すしかないか。エルフには他の追随を許さない長寿がある。さすがに何年後、何十年後には見つかるはずだよね。
「ルカ様! いらっしゃいますか」
庭でぼんやりしていると、工房のほうからシルトくんの呼び声が聞こえてきた。シルトくんはここしばらく、私が出した課題に熱中しているようだ。
何か成果が出たのだろうかと思って工房のほうへ戻る。
別の意味で驚いてしまった。
工房のテーブルについていたのは、赤い髪がきれいな女の人だった。
「あれ? あなたは……」
「領都の自警団所属、クロエです。先日は魔具を授けていただき、どうもありがとうございました……!」
クロエさんは立ち上がってぺこりと頭を下げた。
この人は私のお客さん第1号だ。私の今のところの最高傑作、〈
「あ、クロエさん。無事だったんですか?」
あの後、森に潜んでいる魔物を倒すとか言ってたはずだ。
めちゃくちゃ危険な魔物だと聞かされていたので、クロエさんのことはずっと心配していたのだ。
……いや「ずっと心配」は嘘か。たまに心配してた。
「〈十種杖〉のおかげで魔物は倒せました。この杖、本当にすごいです」
「それはよかった。実はずっと心配してたんですよ」
「領主様もたいへん喜んでおりまして。ルカさんにこれを届けてくれと……」
クロエさんはリュックから何かの袋を取り出した。
それをテーブルに「がちゃんっ」と置く。
……ん? 「がちゃん」?
「報奨金です。ざっと3万レーゼありますので、ご確認いただければ……」
「いやいやいやいや」
何を言ってるんだこの人。
3万レーゼってあんた……1レーゼ666円と仮定すると、2000万円くらい? しばらく遊んで暮らせちゃうじゃん。
あ、シルトくんの目がぐるぐる回っている。こんな大金を見たのは生まれて初めてなのだろう。可愛い。いやそれはともかく。
「い、いくらなんでもこんなにいりません! 私はあくまで魔具を売っただけですので……」
「ぜひ受け取ってください。受け取っていただけなければ、私が領主様から怒られてしまいます」
「はわわわわ……」
結局、押し付けられるようにして大金をいただいてしまった。どうしよう、お金持ちになっちゃう。宝くじに当選した気分だ……。
『怪しいな。これだけの大金、何か裏があるとしか思えん』
ウィリアムが失礼なことを言っていた。
クロエさんがびっくりしてウィリアムを見つめる。
「ね、猫がしゃべった……!?」
その反応、3回目くらいじゃない?
そろそろ飽きてきたし、ウィリアムの首に『僕はしゃべりますが気にしないでください』っていうプレートを提げておこうかな。
「この子はしゃべる猫なのでお気になさらず」
「さすがはルカさん……!」
「どうもどうも」
『主、その点はどうでもいい。案ずるべきは、このクロエという者が何かを企んでいる可能性があるということだ』
いやいやそんなまさか。
クロエさんは良い人だし……。
「猫さんの仰る通りです。実はルカさんにお願いしたいことがありまして……」
「え? 本当に企みがあったの……?」
「ルカさんの魔具をご覧になった領主様が、ルカさんを領都にお招きしたいと。そしてルカさんには、ぜひ領主様の専属魔具師として働いていただきたいのですが」
「あ、ごめんなさい。遠慮しておきます」
自分でも驚くほどスムーズに拒否の言葉が出てしまった。
まずい。空気が死んじゃった……。
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