第17話 領都の人たち

「領主様。東方に逃げた魔物の討伐が完了いたしました」


「おおクロエ、よくやった! さすがは我が自警団だ!」


 私の報告を聞いた領主様は、脂肪で膨らんだ腹を揺らして笑った。


 領都という街がある。

 この辺りではかなり大きな集落で、人口は2000人を数える。私も小さな頃からこの街で生まれ育ち、成人してからは自警団に入って街のために粉骨砕身働いてきた。


 そして先日、ついに1つの大仕事を達成したのだ。

 逃げた悪鬼の討伐である。


 そもそもこの魔物は、領都に現れ破壊の限りを尽くした。

 自警団によって深手を負わされ逃走した後は、東方の森に身を潜めて回復に努めていたらしい。それを追撃するのが私たち自警団に与えられた仕事だった。


 戦闘は苛烈を極めた。

 手負いの狼となった悪鬼は、なりふり構わぬ攻撃を仕掛けてきた。その結果、私以外の仲間4人を殺してしまったのだ。私もギリギリのところまで追い詰められたが、隙を突いて脱出することに成功した。


 それからしばらく森を彷徨って――


「――他の4人のことは残念だったな。領都で手厚く葬ってやろう」


「はい……」


「だがクロエよ、いったいどうやって討伐したのだ? あの悪鬼はすさまじい力を持っていた。仲間を喪ったお前1人では太刀打ちできると思えないが……」


「実は、魔具を購入したんです」


 私は手に持っていた杖を領主様に見せた。


「……何だそれは? 魔具?」


「私もよく分からないのですが、魔具というのは魔法のような力を発揮できる道具のことです。これを使えば、風でも炎でも自由自在に出すことができるんですよ」


 私はダイヤルを回し、威力を最低にしてから杖を振ってみる。

 杖の先端から火花が弾けた。


「おお……!」


「これだけではありません」


 私はさらにダイヤルを回して属性を変更していった。

 風、雷、水――ありとあらゆるエレメントが杖の先端から生み出されていく。

 それを見た領主様は、口をあんぐり開けてしばらく固まっていた。


「そんなものをいったいどこで……!」


「東の森の入口に、イトー工房なる工房があったのです。そこではルカという女の子が、この杖を含めた不思議な道具を売っています。他にも傷を一瞬で治療することができる壺などもありました。彼女はこれらを魔具と言っていましたが――」


「ぜ、ぜひそのルカという者を呼んでくれ!」


 領主様は勢いのまま立ち上がって叫んだ。

 私もルカさんには挨拶しに行かなければならなかった。


 森の悪鬼を倒した後、脇目も振らずに領都に帰還したため会えなかったのだ。杖のお礼をたくさんしなければならない。


「分かりました。それではさっそく東へ向かいます」


「ああ。ルカという者には褒賞を与えねばならんし……その魔具とやらがあれば、レーゼルトのやつらに目に物見せてやれるかもしれん」


 近頃、領都はレーゼルトという勢力によって脅かされつつある。

 レーゼルトはここ数十年で急速に拡大している村だ。

 いや、村というより、もはや国といったほうが適切かもしれない。彼らはその武力と経済力でもって、周囲の村をどんどん併合しているのだ。領都にも先日、降伏勧告の手紙が届いた。


 領都の運命は、イトー工房の魔具にある。

 その結論は、私と領主様で一致しているらしい。

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