第16話 弟子ができました


 シルトくんは少し前に12歳になったばかりらしい。

 現代日本でいえば、ギリ小学生だ。


 私の一存で勝手に弟子にしてしまっていいのか戸惑ったけれど、あとで親御さんがやってきて「シルトをよろしくお願いします」と言われてしまった。


 ……責任重大すぎない?

 だんだん怖くなってきた……。


「ルカ様! こっちの部屋を使っていいですか?」


「あ、うん。ベッドとかは……」


「後で父が運んできてくれます」


 しかも何故か工房に住み込みである。

 ファザール村では、弟子入りといったら師匠のもとに四六時中侍るのが常識らしい。江戸時代の丁稚奉公でっちぼうこうとかもそんな感じだったっていうし、理解はできるんだけど……。


 師匠になったということは、弟子を養う義務も生じる。

 これからは意識して稼がないとだよね。


 まあ、魔具を作って売っていれば問題ないか。

 あんまり抱えすぎてもストレスが溜まるだけだし、考えないようにしよう。かの一休宗純いっきゅうそうじゅんも言ってたしね、「大丈夫、何とかなる」って。


「ルカ様、さっそく魔具のことを教えてくれませんか……?」


「お、やる気だね」


 引っ越しの片付けをある程度終えたシルトくんは、工房のテーブルに座って身を固くしていた。


 私は膝の上に乗ってきたウィリアムを撫でながら「う~ん」と唸る。

 私の魔具作りは完全に独学なので、プロが見たら鼻で笑うかもしれない。

 でもシルトくんの熱意を蔑ろにはできなかった。

 可能な限り私のスキルを伝授しよう。


「魔具を作るのに重要なのは、素材と魔石をくっつける技術かな」


「魔石……?」


「ああ、魔具の動力源は魔石っていうアイテムなんだ。そこから説明したほうがいいかもね」


「なるほど……」


 シルトくんがきょろきょろと周囲を見渡した。

 あ、そうだよね。メモとりたいよね。


『これを使え』


「あ、ありがとうございますっ」


 シルトくんの心情を読み取ったウィリアムが、棚に置いてあった羊皮紙とペンを持ってきてくれた。やっぱり気の遣える猫は違うよね。


「じゃあ、さっそくお勉強しよっか」


「はいっ! 頑張りますっ」


 シルトくん、すごく張り切ってて可愛い。お持ち帰りしたい。


『主……』


 あ、ごめんごめん。

 キモすぎたよね、反省します……。




 ※ ※ ※ ※ ※ ※




 魔具に関する基礎的な授業を終えたあと、シルトくんには簡単な課題を出した。

「簡単な魔具を作ってみよう」というものである。


 与えられた条件は、素材1つと魔石1つ。

 私の最初はそんな感じでスタートしたっけ。習作なのでシリアルナンバーには数えていないけれど、確か赤魔石とそのへんの石を接着した〈火がつきやすい火打石〉だったような。あれが成功したおかげで私は魔具師になろうと決意したのだ。


 シルトくんにもそんな感じで成功体験を積み重ねてほしい。


「ま、そう簡単にはできないか」


 あれから1週間、シルトくんは座学と実技を往復しながら作業にいそしんでいる。魔石と素材を接着する工程で難航しているようだ。ウィリアムとじゃれ合いながら頭を抱えている姿をよく見る。


 私はといえば、普段通りのスローライフを営んでいた。

 新作魔具のアイデアを考えたり、畑の世話をしたり。


 弟子ができたといっても、あんまりやることないんだよね。

 魔具製作に関するノウハウは、1つの学問として成立するほど深掘りはされていない。できるものはできる、できないものはできない。その区別があるだけだ。


「さーて。畑の調子はどうかなーっと」


 ワクワクしながら畑に向かった。

 大根の葉っぱは、日に日に大きくなってきている。


 素人知識しかないので不安だったが、間引きや害虫対策とかも結果的に奏功したらしい。あるいは茶魔石による土壌改良が影響しているのだろうか。


 春に植えてぐんぐん成長してるってことは、夏頃には収穫できるのかな?


 せっかくなら耕作地を増やして別の作物も植えたいよね。問題は種が全然手に入らないってことだけど……。


 そこでふと、私は別の畑に目を向けた。

 ファザール村で購入した種を植えた区画だ。


 可愛らしい芽が土から顔を覗かせている。こっちも上手く育ってくれているようだ。


 でもこれ、何の植物なんだろう……? 種が大きかったし、成長したら木になるんだろうか? 将来、屋久島の縄文杉みたいになったらアツいよね。

 その時、不意に誰かの声を聞いたような気がした。


《…………――――――っ》


「ん?」


《―――…………っ》


 何だろう? 芽から聞こえたような気が……。

 いや、さすがに幻聴か。


 寝過ぎで頭がボケてるのかもしれない。

 私は〈放水壺〉が時間通りに水やりをしているのを確認してから踵を返した。


 よし。天気もいいことだし、今日は新しい魔具でも開発しちゃおうかな。

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