第13話 神様じゃありません
やらかしてしまった。
ファザール村の人たち、私のことを「神様」とか言ってたよね?
絶対訂正したほうがいい。
訂正したほうがいいんだけど、信じてくれるかなあ……。
だってあの人たちの目、ガチだった。比較的懇意にしてくれていた八百屋のおばさんですら神の降臨を目撃した顔になっていた。
それに、置いてきちゃった〈
回収しなくちゃなんだけど、今から村に引き返したら面倒なことになるのは目に見えているし……。
うむ、いったんなかったことにしよう。
蓄えはしばらくあるし、ファザール村にも行かないほうがいい。
これは戦略的思考停止だ。現実逃避なんかじゃない。
今日のところはウィリアムを抱いて昼寝をするとしよう。
ところが、平穏な日々はあっという間にぶっ壊れてしまった。
それは翌日のことだった。
「ルカ様! ルカ様はいらっしゃいますか!」
ドアベルがカランカランと鳴った。
工房の椅子でぐーすか昼寝をしていた私は、すわ押し込み強盗かと思って飛び起きた。そこにいたのは、血相を変えた様子の人間5、6人だった。
私は一瞬、石のように固まってしまった。
え? お客さん? うちの工房に?
馬鹿な……有り得ない……。
絶対来ないと思ってたのに……。
「ルカ様! ああよかった、本物のルカ様だ……!」
困惑のどん底で右往左往していると、お客さんたちが目に涙を溜めて近寄ってきた。
そしてそのまま土下座。いや平伏といったほうが正しいか。
さながら悪徳領主に「許してくれ」と懇願する庶民のような感じだ……。
いやいやそうじゃない!
「え、あの、もしかしてファザール村の方々ですか……?」
「いかにも」
土下座ブラザーズのうちの1人が顔をあげた。
口髭がすごいお爺さんだ。
「私はファザール村の長、ガンドゥルと申します。このたびはイトールカ様にお礼を申し上げたく参上いたしました」
「お礼……?」
「はい。あなた様の作る魔具という道具は、確かに神秘的な力を宿していることが分かったのです。――おい、あれを」
「はっ」
ガンドゥルさんに促された若者が、風呂敷に包まれた何かを取り出した。
出てきたのは〈聖水壺〉である。驚くべきことに、この人たちは忘れ物を届けてくれたらしい。
「あ、ありがとうございます。どんくさいですよね、私……えへへ」
「誠に勝手ながら、昨日この壺を使わせていただきました」
「えっ?」
ガンドゥルさんがまっすぐ私を見つめてきた。
いやこの人、目力半端ないって。怖いって。
「村には傷病を抱えたものがたくさんいますゆえ。ですがこの壺の水を浴びた途端、彼らはみるみる元気になってしまったのです」
「はあ……」
「さらには、近頃村を悩ませている悪夢の問題がありました。しかしこの水をかけてから床に就いた者は、あの悪魔の夢を一切見ることがなかったのです」
そういえばそんな話もあったね。
集団で同じ悪夢を見るなんて普通じゃない。
後で原因を調査しようと思っていたが、畑の耕作やらウィリアムの登場やらですっかり忘れてしまっていた。
〈聖水壺〉が効いてくれたならよかったけどさ。
「これはまさにイトールカ様が引き起こした奇跡。あなた様はファザール村に恩恵をもたらす神様なのでしょう」
「え、いや、その……」
「「「ルカ様ありがとうございました!」」」
村人たちが大声で唱和した。
あ、これアレだ。けっこうヤバイやつだ。
人類史において宗教は切っても切り離せない概念だけれど、まさか自分がその渦中に放り込まれるなんて。
私は世間のしがらみから解放され、優雅でのんびりしたスローライフを送りたい。ここで誤解を解いておかなければ、後々面倒なことになるに決まっていた。
「あのですね。私は神様じゃなくてですね、ただのエルフと言いますか……ねえ? ウィリアム」
『主はただのエルフではない』
その瞬間、村人たちがビクッと肩を震わせた。
あ、やっちゃった。この世界でも猫がしゃべるのは一般的じゃないんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます