第12話 ソニックブーム?
ところが、何故か村人たちは沈黙している。
あ、あれー。もうちょっと驚いてくれてもよかったのに。
焦った私は、早口で言葉を連ねていった。
「いかがですか? イトー工房の魔具はそんじょそこらの魔具とは違いますよ。ここから30分ほど歩いた場所に店がありますので、気になった方はぜひお越しください」
チラシを村人たちに押し付けていく。
これにはファザール村から店までの地図が描いてあるのだ(全部私の手描きである)。
営業時間は朝9時から午後3時まで。
従業員目線では超絶ホワイトな職場だ。
前世もこんな店で働きたかった……。
「お越しくださいって言われてもなあ……」
村人たちは懐疑的な視線でチラシを眺めていた。八百屋のおばさんですら苦笑してしまっている。あれ、もしかしてウケが悪い?
金物屋のおじさんが、腕を組んで眉をひそめた。
「……本当なのか? さすがにシルトのホラじゃねえか?」
「嘘じゃないです! 本当に痛みが消えました!」
シルトくんがおじさんに主張する。
「信じられねえな。こんなの魔法使いにもできることじゃねえだろ」
「本当なんです……!」
「ははは。シルトよ、お前こいつに金でももらったんじゃねえか?」
村人たちも「なんだ仕込みかー」といった感じで呆れの笑いを漏らした。
ほう、私がサクラを使ったと申すか。
いいだろう。その挑発、受けて立とうじゃないか!
「……え、えっと。じゃあ、別の魔具も試してみますね」
私は茣蓙の上にあった〈
これは振るだけで風の刃を飛ばすことができる代物だ。
確かに、〈
魔具の宣伝をするなら、もっとエキサイティングな商品を宣伝したほうがよかったのだ。
「少しどいててください。危ないですから」
私は手で村人たちを無理矢理誘導した。
人垣が割れ、何もない広場ができあがる。
私は〈魔風刀〉のダイヤルを回してオンにすると、深呼吸をしてから横薙ぎに振った。
「やーっ!」
その瞬間、〈魔風刀〉に埋め込まれた緑魔石が励起。
鎌鼬のような刃が放たれ、空間を切り裂きながら一直線に突き進んでいった。
村人たちが「おわああ」「きゃあああ」と悲鳴をあげる。
名付けてソニックブーム。
……いやまあ、ソニックブームは音による衝撃波なのでまったく別物なんだけど、カッコいいからそういう名前にしよう。
「何だこれ……」
誰かが戦々恐々として呟いた。
あとに残されたのは、ソニックブームによってどでかい亀裂の入った地面だ。
村人たちは、モーセの海割りを目撃したイスラエルの民のように立ち尽くしていた。
「ど、どうですか? これがイトールカ製魔具の真価です。今なら50パーセントオフなので、ぜひぜひお買い求めを――」
その時、遅れてやってきた突風がファザール村を駆け抜けていった。
びゅおおおおおん。
「あっ……」
油断していたためか、フードがめくれ上がってしまった。
露わになったのは、エルフでしか有り得ない尖がった耳。
唖然とした視線が私に集中する。
だ、大丈夫かな? 人間ってエルフを敵視してないよね? 故郷のエルフたちは人間について全然興味ないって感じだったけど……。
ところが、村人たちの反応は私の予想と180度異なっていた。
「神様じゃ……」
「え?」
「神様じゃ。このお方は神様じゃ……!」
盛大な勘違いをされてしまったらしい。
私が訂正するより前に、村人たちは跪いて祈りを捧げ始めてしまった。
何だこれ。マジでちょっと待ってください。私は神様なんかじゃなくてスローライフを送りたいただのエルフであってですね……。
とにかく、これはアレだ。
逃げるしかない。
「ご、ごめんなさいいいいいい!」
私は茣蓙の上の魔具をまとめ、尻尾を巻いて逃げ出した。〈聖水壺〉だけは大きくて運べなかったけれど、背に腹は代えられない。
背後から「お待ちください!」という声が聞こえてきた。
待ってられるわけがねえ。
この時の私は、やらかしてしまったという焦燥感でいっぱいだったのだ。
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