第14話 だから神様じゃないって

『主はその叡智と技能によって優れた魔具を作り出し、世界をよりよい方向へと導いていく神のような存在だ』


 しかもめっちゃ適当なこと言ってるし。

 ねえウィリアム。お願いだから黙ってウィリアム。

 きみは私の心が読めるんだよね? もう少し忖度してくれてもよくない?


『主のすごさを伝えて何が悪い』


 駄目だこりゃ。


「猫がしゃべった……」


「やはり神だ……神猫しんびょうを使役する神だ……」


 いや、猫飼ってるだけなんですけど。

 私の心の声をよそに、村人たちは地面に額をめり込ませる勢いで平伏する。なんかもう何を言っても無駄という雰囲気だ。


「我々は多くを望みません。あなた様には、ぜひファザール村の近隣に末永く鎮座していただきたいのです」


 鎮座て。


「はあ。一応、この工房は千年続けることが目標ですが……」


 また村人たちがざわついた。


「千年?」「今千年って言ったよな?」「やはり神は次元が違う」みたいに言葉を交わしている。


 この世界ではエルフって浸透してないのだろうか。まあ、共同体同士の交流が少ないので長命種族の存在を知らない者も多いのかもしれない。


「ああ、何とありがたいことか。ではルカ様、今後とも何卒よろしくお願い申し上げます」


「えっと、たまに魔具を売りに行ってもいいですか?」


「もちろんでございますとも。むしろご用命とあらば、私どものほうから工房に参ります。高値で購入させていただきますよ」


「あ、あはは……じゃあ、そのうちお願いしようかなー」


「さっそくで恐縮なのですが、この壺を買い取らせていただくことはできないでしょうか。難しければ、悪夢の件が片付くまで貸与していただくという方式でも……」


「お売りしますお売りします」


 ガンドゥルさんが提示したのは、1万レーゼという法外の金額だった。クロエさんに売った〈十種杖とくさじょう〉が5000レーゼだったので、その2倍である。


 目玉が飛び出るかと思った。

 私は即断即決で〈聖水壺せいすいつぼ〉を売却するのだった。




 ※ ※ ※ ※ ※ ※




 それからというもの、村人たちはちょくちょく工房を訪れるようになった。

 買い物をしに来るというよりは、私にお供え物(!?)をするためである。


 ネギやニンジンなどの野菜、饅頭や肉団子といった料理を提供してくれるのだ。

 あの人たち、私のことをお地蔵様か何かと勘違いしてない?


 物資をもらえるのはありがたい。

 しかし、私は権謀術数渦巻く現代日本を生きた元・人間だ。

 タダより高いものはないということを身に染みて知っている。

 昔、SNSで投資詐欺に引っかかってえらい目に遭ったこともあるし……。


「まあいっか。どうにもできないし……」


『主よ、気にしないことが一番だ』


「そうだね。うん。考えないようにするよ」


 ウィリアムに宥められ、私は再び魔具作りに没頭することにした。

 現在着手しているのは、ファザール村で売れた魔具の補充だ。


 イトールカ製の魔具は基本的に一点ものを想定しているけれど、〈聖水壺〉のように便利なものは何個あってもいいからね。

 緑魔石と青魔石を上手く嵌め込んで……よし、完成だ。



 イトールカ4 聖水壺(2)



(2)というのは、2個目の〈聖水壺〉ですよという意味である。

 製造番号を刻印する意味はあんまりないけれど、まあ、何となくだ。


 その時、不意にドアベルがカランカランと鳴った。

 また村人が来たのかと思って身構える。

 しかし、扉のところにいたのは意外な人物だった。


「あれ? きみは確か……」


「あ、あの! ルカ様!」


 頬を上気させて私を見つめているその少年には、見覚えがあった。

 確かファザール村で商品の紹介をした時、〈聖水壺〉の実演に協力してくれた子だ。


 見たところ親御さんの姿はない。1人でファザール村からやって来たのだろうか。魔物もそんなに出ないとはいえ、歩いて30分もかかるのに。


「シルトくん、だっけ? どうしたの?」


「ルカ様に、その、お願いがあるんです」


 シルトくんはもじもじしながら近づいてきた。

 なんだか私も緊張してくる。告白とかされちゃったらどうしよう。


 だけど私の心配は、一瞬で粉々に砕かれてしまった。


「僕を弟子にしてください! お願いします!」


 そう言ってシルトくんは勢いよく頭を下げる。

 ……弟子? 弟子って、あの弟子?

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