第11話 村で実演販売


 ウィリアムのおかげで魔石はちょくちょく手に入るようになった。

 だけど、問題は顧客がまったく獲得できていないという点だ。


十種杖とくさじょう〉が高値で売れたので生活費にはまだまだ余裕があるけれど、調子に乗ってはいけない。

 継続的に魔具が売れなければ、工房として立ち行かなくなってしまうのだから。


 というわけで、私は1人でファザール村まで足を運んだ。

 一世一代の宣伝をするためである。


「よ、よってらっしゃい見てらっしゃい!」


 村の辻に茣蓙ござを敷いて魔具を並べる。

 コミュ障の殻を破り、声を張り上げるのだった。


「世にも珍しいイトー工房の魔具ですよ! 今ならなんと定価の50パーセントオフ! こ、こんなチャンス滅多にありませんよ~!」


 数日誰ともしゃべっていなかったため、カッスカスの声になっている。恥ずかしい。

 だけどめげない。

 新規顧客を開拓するためなら、どんなことでもしてやろう。


「お、こないだのお嬢ちゃんだね? 魔具とかいうのを作ってるって言ってたけど、本当だったんだねえ」


「八百屋のおばさん!」


 先日、肉や野菜を買ったお店のおばさんが顔を出してくれた。

 それが引き金となったのか、遠巻きに様子見していた村人たちも集まってくる。

 ナイスすぎるぜ、おばさん。


「これが魔具かい? なんだか見慣れないものばかりだけど……」


「これは〈魔風刀まふうとう〉というナイフで、鎌鼬のようなエネルギー波で遠くの獲物を仕留めることができます。こっちは〈黒羽衣くろはごろも〉、着れば透明人間になれるマントです。そしてこっちは〈魔電灯までんとう〉といって、スイッチを入れれば光を出せます。ようするに懐中電灯みたいなものですね。それからそれから……」


 どよめきが広がった。「本当にそんなことできるのか?」と疑っている様子だ。

 でも、私は魔具の効果だけには自信があった。ジャ〇ネットよろしく実演してみせようじゃないか。


「で、ではご覧に入れましょう。誰か怪我をしている人はいませんか……?」


 私は〈聖水壺せいすいつぼ〉を抱え、村人たちを見渡した。

 彼らは顔を見合わせて相談していたが、やがて1人の男の子が前に出る。

 12歳くらいの子だ。右腕に赤黒くなった包帯を巻いている。


「この怪我、どうしたの?」


「噛まれました……」


「何に?」


「魔物に。村の外で」


 私は男の子の右腕をじーっと観察してみる。

 見たところ、傷は化膿しているようだ。


 放置しておけば症状が悪化し、別の病気の原因となる場合もあった。

 医学レベルが低いこの世界では、この程度の傷でも命取りとなる可能性がある。

 早急に治療したほうがいいだろう。


「ではご覧に入れましょう。イトールカの魔具による奇跡を!」


〈聖水壺〉を起動すると、内部にみるみる癒しの水が溜まっていった。

 これだけで村人たちが「おお」と声をあげる。

 だが驚くなかれ。本当のマジックショーはこれからだ!


「きみ、名前は?」


 私は柄杓で壺の水をすくいながら問いかけた。

 男の子は、何故かもじもじして答える。


「シルト、です……」


「じゃあシルトくん、少しだけ我慢しててね。すぐによくなるはずだから」


 私はシルトくんの右腕をとると、包帯の上からゆっくりと水を垂らしていった。

 傷に染みたのか、シルトくんは一瞬だけ顔をしかめる。

 しかしすぐに困惑の表情を浮かべ、やがて眼を見開いて自らの腕を見下ろした。


「どう? 痛くない?」


「い、痛くなくなった! 何で……?」


「ふふふ……これがイトールカ製魔具の威力なのです!」


 私は誇らしげに宣言するのだった。

 シルトくんのきらきらした視線が突き刺さる。


 ふふ、もっと褒め称えていいんだよ?

 ちなみに、クロエさんの治療をしてから、〈聖水壺〉は改良した。


 青魔石をもう1つ増やしたので、癒しの出力は上がっている。痛みが一瞬で消えたみたいだけれど、予想以上の結果といえよう。


 さあ、村人たちの反応やいかに……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る