第10話 自動って便利だね


 翌日、ウィリアムがさっそく魔物を狩ってきれくれた。

 工房のテーブルにコトリと置かれたのは、つやつやと輝く紫紺しこんの魔石だった。


「こ、これは……! 時を司る紫魔石!」


『森の中ほどにいた狼を退治したのだ。主が欲しかったのはそれで合っているか?』


「合ってるも何も、すごいレア物だよ……!」


 久方ぶりにテンションが爆上がりしてしまった。

 エルフの里にあった図鑑によれば、魔石には10個の種類が存在する。ゲーム的に分かりやすく分類すると、それぞれ以下のような属性を有する。


 緑魔石――風属性。

 青魔石――水属性。

 茶魔石――土属性。

 赤魔石――火属性。

 黄魔石――雷属性。

 透魔石――氷属性。

 桃魔石――音属性。

 白魔石――光属性。

 黒魔石――闇属性。

 紫魔石――時属性。


 ちなみに上記はレア度順に並べてある。

 最初に挙げた緑魔石がもっとも手に入りやすく、それ以降はだんだん入手難易度が上がっていく。


 そして最後に挙げた紫魔石は、激レア中の激レアだ。

 エルフの里の倉庫にも小さいものが1個しかなかった(ちなみにこの1個は〈十種杖とくさじょう〉を作るのに使用した)。


「すごいよウィリアム。これなら新しい種類の魔具が作れるよ」


『そうか。では吾輩の功績を讃え、思う存分撫でるとよいぞ』


「よーしよしよしよしよしよし」


 私はウィリアムを抱っこし、これでもかというほど撫でてあげた。

 ウィリアムは喉を鳴らして気持ちよさそうにしている。


 ちなみに猫のゴロゴロは、ほどよく副交感神経を刺激する低周波らしい。聞いているだけで癒し効果があると言われるけれど、あれは本当だったようだ。

 めっちゃ可愛くて気分がぽかぽかしてくるんだもん。

 よーし、きみをうちの癒し担当大臣に任命しよう。決定。


「さて、さっそく魔具を作ろうかな」


『どのようなものを作るのだ?』


「まあ見てなって」




 ※ ※ ※ ※ ※ ※




 それから数日工房に引きこもった結果、ついに新しい魔具が完成した。



 イトールカ12 放水壺ほうすいつぼ



 簡単に言えば、スプリンクラーみたいなものだ。

 畑の水やりを自動化しようという魂胆である。魔具のネーミングセンスの有無についての議論はいったん保留にしていただきたい。


 見た目は〈聖水壺〉と似たような陶磁器だ。


 現代のスプリンクラーみたいな形状も考えたけれど、工業製品っぽくなると世界観にそぐわないのでやめておいた。作り方もよく分からんし。

 というわけで、工房にある専用の窯で焼いて壺タイプにしたのである。


「よし」


 私は〈放水壺〉を畑のほうへと持っていった。

 大根を植えたところを確認してみると、小さな芽がぽつぽつと出ていた。


 順調に育ってくれているようだ。ちなみに、別の場所に植えた正体不明の種も発芽していた。見たことがない葉っぱだけど、何なんだろうこれ……?


 まあいいや。とにかく彼らには美味しい水を与えなくちゃ。


『主。その壺はどういう仕組みなのだ?』


「緑魔石と水魔石を組み合わせてあるの。新鮮な水が勢いよく噴射されて、畑に水やりができるんだ」


『吾輩が持ってきた紫魔石は……?』


「ああ、それね」


 答えようと思った瞬間、〈放水壺〉から噴水のように水があふれた。畑に恵の雨が降り、小さな虹がかかる。作物たちも喜んでくれているみたい。


 しばらく経つと、〈放水壺〉の放水がぴたりと止まった。

 ……よしよし。どうやらちゃんと機能してくれているようだ。


『紫魔石を使っているようには見えないが……』


「ああ、紫魔石はタイマーとして利用したよ」


『タイマー?』


「朝になると自動で水やりをしてくれるんだ。そして一定時間放水すると、自分で止まってくれるの。すっごく便利じゃない?」


『なるほど……』


 何故かウィリアムは呆れた様子だった。


『主。せっかくの紫魔石なのだから、もっとすごいことに使えばよいと思うのだが……』


「すごいこと?」


『時を止める魔具とかはどうだ』


「駄目駄目。そんなの作ろうと思ったら紫魔石が300個くらい必要だよ」


『現実は厳しいのだな……』


 ウィリアムは残念そうにしていた。

 でも私は全然そんなふうには思わない。


「このスプリンクラーも十分すごいと思わない?」


『うむ。そうだな。主はすごい』


 気を取り直し、ウィリアムは手放しで賞賛してくれた。

 まあ、時を止める魔具は将来的な目標に加えておこうか。今は水やりが自動化しただけで大満足だ。


 野菜、ちゃんと収穫できるといいなあ。

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