第14話 祭り二日目
朝が来た。
まだ体感では夜中。僕の心は一ミリも休まっていない。
窓の外から聞こえてくるのは、昨日と同じ太鼓と笛の音。
……いや、昨日よりテンション高くない? リズム速くない? 誰がドラムテンポ上げろって言った?
「若様、お目覚めのお時間です」
セバスがカーテンを開け、柔らかな朝日が部屋に差し込む。
ああ、現実だ。悪夢じゃなかった。
「……セバス、昨日のあれ、夢だったことにできない?」
「残念ながら、領民の記憶にはしっかり刻まれております。むしろ本日が本番です」
「やめろおおお! 僕の胃壁が本番に耐えられない!」
問答無用で着替えさせられ、昨日と同じマントを羽織る。
鏡の前で、見事な死に顔の僕が立っていた。
「若様、笑顔を」
「無理。笑ったら逆に泣く」
そして祭り二日目が始まった。
昨日より人が増えてる!?
広場は満員電車並みの人口密度。屋台は二倍。
なんなら「アル様記念Tシャツ」まで売ってる。誰が作ったんだよ。
「アル! 舞台へ!」
父の声が響いたかと思うと、僕はまたしても舞台の中央へ。
昨日とまったく同じ構図、違うのは領民のテンションが二倍になってることくらい。
「皆の者聞けぇぇぇぇ!! 我が息子、本日も元気である!」
「実況するな!!」
歓声が爆発。
太鼓がドンドン鳴り響き、なぜか昨日よりも花火の量が増えている。
昼間なのに花火って意味あるの?
吟遊詩人がまた現れ、昨日の曲に加えて新曲まで披露し始めた。
♪われらがあるさま きょうもげんきー
ひゃくねんにいちどの すいしょうくだきー♪
「やめろぉぉぉぉ! 歌詞に砕いたとか入れるなぁぁぁ!!」
領民は楽しそうに手拍子。子どもたちは「ぴかー!」と両手を広げてポーズをとる。
やめろ、変な流行作るな! 僕が黒歴史になる!
「さあアル、踊れ!」
父に肩を抱かれ、また踊らされる僕。
セバスは横で完璧なリズムで手拍子。味方ゼロ。
「胃が死ぬ! 足も死ぬ!」
「心を無にすれば踊れます、若様」
「無にしたいのは人生だよ!!」
日が暮れる頃、ようやく解放された僕は屋敷に戻った。
広間ではまだ領民が盛り上がっているが、僕はもう動けない。
廊下を歩くと、アリシアが待っていた。
ウサギのぬいぐるみを抱き、ぱあっと笑顔になる。
「おにいちゃま、きょうもぴかーってした!」
「ぴかーはしてないよ。もう二度としたくない」
「みんな、わらってたよ。たのしかった」
アリシアの言葉に、少しだけ肩の力が抜ける。
昨日も今日も、僕は死にそうだったけど……領民たちの顔は確かに楽しそうだった。
「……そっか。なら、まあ……やった甲斐はあったのかもな」
僕はアリシアの頭を撫でる。
彼女は満足そうに目を細め、ウサギをぎゅっと抱きしめた。
「おにいちゃま、すごいひとになる?」
「どうだろ……すごい人になると、こうやって祭りが二日も開かれるから、あんまりなりたくないな」
「でも、やさしいひとになって」
「……うん、それならできるかもしれない」
アリシアの笑顔が、今日一番の癒しだった。
その時、執務室の扉がバンッと開き、父の豪快な声が響き渡った。
「よし! 決めたぞ! 水晶破砕記念祭は来年もやる! 毎年恒例だ!」
「やめろおおおおおおおお!! 恒例行事にするなあああああ!!」
僕の絶叫が屋敷に響く。
でもその声を聞いたアリシアは、楽しそうに笑った。
「おにいちゃま、またぴかーってする?」
「しない! 二度としない!」
「ふふっ」
アリシアの笑い声と、父の豪快な笑い声が重なり、屋敷はやけににぎやかだった。
……まあ、悪くないか。
そう思いながら、僕は天井を見上げて深いため息をついた。
こうして、水晶破砕記念祭は(たぶん)幕を下ろしたのだった。
◇
祭りが終わって三日後。
屋敷の前庭に、なにやら巨大な布で覆われたものが鎮座していた。
嫌な予感しかしない。
「若様、旦那様がお呼びです」
セバスに連れられ、僕は庭へ。
そこには父と職人たちが並び立ち、誇らしげな顔をしている。
「アル! ついに完成したぞ!」
「……なにが?」
「見よ、これが水晶破砕記念碑だ!」
バサッ、と布が取り払われた。
そこには――僕の銅像が立っていた。
片手を掲げ、キラキラしたエフェクトまで再現されている。
台座にはでかでかとこう書かれていた。
『百年に一度の奇跡!
水晶を砕きし少年、アル・フォン・グラシア!』
「やめろおおおおおおおお!!!」
「ふはははは! よい出来だろう!」
「よい出来じゃない! 未来永劫残る黒歴史だよ!!」
領民が集まってきて、口々に「アル様そっくりだ!」「ご立派だ!」と感想を述べる。
子どもたちは早速銅像の真似をして「ぴかー!」とポーズを決めている。
「流行やめろ! 今すぐ忘れて!」
セバスが横で冷静に言った。
「若様、記念碑の周囲には屋台も常設されるそうでございます」
「常設!? 祭りが常設化するの!?」
「観光名所として賑わうことでしょうな」
「領地経済に貢献するな僕の黒歴史!!!」
その日の夜。
僕は部屋のベッドで天井を見つめていた。
「……どうしてこうなった」
机の上には「アル様ピカピカステッカー」の新作試作品。
アリシアが昼間もらってきたらしい。
彼女はウサギのぬいぐるみと並べて、そのシールを大事そうに眺めていた。
「おにいちゃま、かっこいい」
「……もう、かっこよくなくていいよ」
「でも、みんな、しあわせになったよ?」
アリシアはにこっと笑う。
その笑顔を見て、僕は少しだけ考えを改める。
……まあ、領民が楽しんでるならいいか。
これで税収が増えれば、僕の将来も少しは明るくなるかもしれない。
(いや、黒歴史は濃くなるけど)
「よし、こうなったら――」
僕は拳を握りしめた。
「絶対に死なない! バッドエンド回避して、平和なエンディングまで走り抜けてやる!」
その時、廊下の奥から父の声が響いた。
「次は領地の入り口に巨大門を作るぞ! アルの銅像を左右に立てて、旅人を出迎えるのだ!」
「やめろおおおおおおおおお!!!!」
僕の悲鳴が屋敷中に響き渡ったが、父の笑い声にかき消された。
こうして僕の黒歴史は、記念碑から観光資源へと進化したのだった。
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