第12話 魔力検査
検査室に入った瞬間、空気がひんやり変わった。
広い部屋の中央に、丸い台座。
その上には透き通った水晶玉が鎮座している。
部屋の端に記録係の机。
椅子に座った検査官がこちらを見た。
「グラシア公爵家のアルフォンス様ですね。どうぞ」
「は、はいっ!」
足ガクガクで前へ進む僕。
後ろでセバスがにこやかに見守っている。
頼むからこの緊張感を共有してくれ。
「手を水晶に置いてください」
「お、おきます……」
両手をそっと水晶玉に乗せる。
水晶がふわっと淡く光った。
(あ、意外と普通……?)
と思った次の瞬間。
ピカーッ!!!
水晶がとんでもない勢いで輝いた。
眩しい! 部屋が真っ白に!
「うわあああああ!!!」
検査官が椅子からひっくり返る。
記録係が書類を抱えて転げ回る。
「セバス! なにこれ!? 爆発する!?」
「落ち着いて、若様」
「落ち着けるかーー!!」
光がさらに強くなったと思ったら。
ドゴォォォォォン!!!
耳がキーンとなる轟音。
部屋中に魔力の風が吹き荒れ、カーテンがバサァッと舞う。
水晶玉の下の台座がごごごごと震え、ひびが入った。
「水晶が……!」
「な、なんという魔力量だ!」
検査官が慌てて防御魔法を展開するが、
それすら押し返す光の奔流。
僕は必死で水晶から手を離そうとした。
「とれない! 手が張りついてる!!」
「最後まで測定なさると、離れますぞ」
「このままだと部屋ごと吹き飛ぶ!!」
バチバチバチッ!!
空気中に火花が散る。
僕の髪が逆立つ。
セバスがすっと前に出て、片手を軽く振った。
瞬間、嵐のような光がすっと収まった。
「……はい、終了ですな」
「え、今なにした!? え!? セバス!?!?」
検査官は床にへたりこんでいた。
「こ、これは……記録不能……。水晶の許容量を超えました……!」
記録係が青ざめながら書類に走り書きする。
「測定結果:不明。特記事項:水晶破損」
僕はがくがく震えながら水晶から手を離した。
「終わった……? 生きてる……?」
「お見事でございます、若様」
「いや、これ絶対誉められるやつじゃないだろ!!」
検査官は顔をひきつらせながら立ち上がる。
「……こ、これほどの魔力量は前例がありません。至急、上に報告します」
「報告しないで! モブでいさせて!!」
僕の叫びは誰にも届かなかった。
待機室に戻ると、全員の視線が突き刺さった。
「さっきの光、何!? 雷落ちた!?」
「窓揺れてたぞ!」
「水晶割れたんじゃね?」
金髪少年が立ち上がり、口をぱくぱくさせている。
「……おまえ、なにやった」
「僕のほうが聞きたいわ!!」
セバスは平然と答える。
「少々、水晶が耐えきれなかったようで」
「少々じゃねぇ!」
金髪少年は顔を真っ赤にして黙った。
もう誰もマウントを取ろうとしない。
僕、完全に注目の的。
(やだ……これ絶対フラグ立ったやつ……!)
宿に戻ると、僕はベッドにダイブした。
「もう無理……王都怖い……」
セバスが静かに紅茶を置く。
「若様、結果は『測定不能』。つまり、将来は何者にもなれるということです」
「ポジティブすぎるだろ!」
「グラシア家の名はますます高まりましょう」
「僕の好感度メーターも上がって断罪イベントまっしぐらだよ!!」
枕に顔を押し付け、じたばた転げ回る俺。
セバスは少しだけ笑ったように見えた。
「若様、未来はご自分の手でお変えくださいませ」
「変える!! 絶対変える!!」
宿の天井を見上げ、僕は決意を新たにした。
◇
王都での大騒動から数日。
僕たちはようやく公爵領へと帰還の途についていた。王都からの帰りの馬車の中、僕は終始死んだ魚のような目をしていたに違いない。窓の外ののどかな風景も、今の俺には「断罪イベントまでのカウントダウンタイマー」にしか見えない。
「ねえ、セバス……、『水晶クラッシャー』みたいな不名誉なあだ名、つけられてないよね?」
「ご安心くださいませ。皆様、敬意を込めて『伝説の若君』とお呼びしておりました」
「それが一番やばいんだよ!!」
そんな胃の痛む会話を繰り返しながら、長い長い移動時間の果てに、ようやく見慣れた我が家の巨大な門が見えてきた。
家に帰るなり、僕は玄関の床に大の字で倒れ込みたかった。
足元からずしりと疲労がせり上がってくる。
精神的疲労度は、前世で徹夜明けにサーバーから「システムクラッシュ」の通知音を聞いた瞬間と同レベルだ。
いや、もしかしたらあのときよりも胃に悪いかもしれない。
けれど、公爵家嫡男が玄関で転がるなんて前代未聞。
ここで倒れたら、「グラシア家の次期当主、王都からの帰宅直後に卒倒」なんて噂が立ちかねない。
そんな不名誉な称号はいらない。僕はどうにか両足に力を込め、かろうじて立った。
すると――音もなく、セバスが目の前に現れた。
「若様、おかえりなさいませ。本日は、なかなかに刺激的な一日でございましたな」
背筋をぴんと伸ばし、完璧な笑顔を崩さない執事。
僕の神経を逆撫でする天才である。
「刺激どころじゃない! あれはトラウマ級のイベントだったんだから!」
「ですが見事なものでございました。あの水晶が砕け散る瞬間、検査官の顔色が真っ白になったのが忘れられませぬ」
思い出させるな……! あの瞬間、世界がスローモーションになった気がしたんだ。
「だから言うなって! 僕はただ普通に魔力測定しただけだ!」
「結果、王都中を揺るがす大爆発が起きましたな」
「爆発って言うな! 僕のメンタルに二次被害が出るだろ!」
セバスは淡々と続ける。
「なお、記録係は卒倒。会場は一時騒然。残された者たちは口々に『伝説の再来』と囁いておりました」
「やめろーーーっ! そんな情報、父上に届いたら面倒なことになる!」
「……すでに伝わっております。旦那様がお待ちですので、こちらへ」
「やっぱりかあああああ!!」
僕の悲鳴など意に介さず、セバスは優雅に手で道を示す。
ああ、これは逃げられないやつだ。
僕はまるで断頭台へ向かう罪人のように、父の執務室へ足を運んだ。
重厚な扉が開くと、部屋の空気が一段階重くなる。
壁には巨大な魔物の剝製、机には黄金装飾の地球儀(回すと酒が出る謎仕様)、部屋の隅では鎧姿の騎士像がポーズを決めている。
……相変わらず威圧感マシマシだ。
マントを翻し、父がゆっくりと立ち上がった。
その姿だけで部屋の温度が数度下がった気がする。
「……ほう、よくぞ帰ったな、アル」
「た、ただいま、父上……」
声が低い。重厚感がすごい。ラスボスか。
隣のセバスは涼しい顔だ。僕だけ胃が痛い。
父はゆっくり歩み寄り、ガシッと肩を掴んだ。
ミシミシいってる。痛い。
「聞いたぞ。お前、水晶を砕いたそうだな」
「だから事故だってば!! セバス、フォローして!」
セバスが一歩前に出る。
「はい。確かに事故ではございましたが、極めて美しい破砕でございました」
「褒めるな! 美しいとか言うな!」
父の口元がゆっくりと吊り上がる。
……やばい、これ、テンション上がる前触れだ。
「……偉業だ!」
ドンッ!
父の声と同時に机が揺れ、書類が舞い上がる。
壁の騎士像までガタガタ震えている。部屋がラスボス戦会場みたいになってきた。
「百年ぶりの快挙ぞ! 建国以来、初代聖騎士以来の大記録だ!」
「だから更新したくなかったんだってば!!」
「よし、決めた! 祭りだ!」
「出たああああ!!」
父が拳を突き上げる。マントがばさりと舞い上がり、妙にかっこいいのが腹立つ。
「いや、宴では足りん! 水晶破砕記念大祭を開く! 広場に舞台を作れ! 領民を呼べ! 花火を打ち上げろ!」
「そんな夏祭りみたいにするな!!」
「セバス、楽団と吟遊詩人を手配しろ。明日には我が息子の偉業を歌にせねばならん!」
「かしこまりました。朗々とした叙事詩がよろしいかと」
「お前までノリノリか!!」
「石碑も作るぞ! 『アル・フォン・グラシア、水晶を破砕す』と刻め!」
「やめろ! 未来永劫語り継がれる黒歴史になる!!」
「いっそ銅像も……」
「やめろおおおおおお!!」
僕の絶叫も父の暴走は止まらない。
「よし、屋台も出せ! 肉を焼け! 酒を配れ! 領民全員に言え、明日は祝日だ!」
「勝手に祝日つくるなああああああ!!」
セバスがさらりと補足する。
「旦那様、既に厨房では祝宴用の肉の仕込みが始まっております」
「早すぎる! 誰が許可出したんだよ!?」
「旦那様でございます」
「だろうなああああ!!」
僕は頭を抱えた。胃のダメージが臨界突破しそうだ。
部屋に戻ると、天使がいた。
ベッドの上で、妹アリシアがウサギのぬいぐるみを抱えて待っている。
「おかえり、おにいちゃま!」
「ただいま、アリシア……」
「きょう、ぴかーってしたんでしょ?」
「したけど……あれは事故だから!」
「ぴかー! どーん! かっこいー!」
天使の笑顔が心臓に刺さる。セバスが横で紅茶を注ぎながら言った。
「旦那様はすでに祭りの段取りを始められております」
「はやすぎる! 今日中に屋台立つんじゃないか!?」
「ええ、明け方には設営が完了するでしょう」
「完了すんのかよ!? 寝てる間に町が縁日になるのかよ!?」
そのとき、遠くの厨房から父の怒号が響いた。
「樽酒を三倍にせよ! 松明も増やせ! 明日は夜通し祭りだ!!」
「まだやる気かああああああああ!!」
僕の絶叫が、祭り準備で活気づく屋敷に虚しく響き渡った。
こうして「水晶破砕記念祭」は、僕の制止を完全に無視して爆速で現実へと動き出したのだった
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ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます!
今回のお話、楽しんでいただけたら嬉しいです!
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皆さんからの応援の一つひとつが、この物語をゴールまで導く大きな力になります。いただいた声援をパワーに変えて、これからも頑張って書いていくので、これからもよろしくお願いします!
「怠惰な魔王様は、今日も平和にスローライフをご所望です」
https://kakuyomu.jp/works/7667601419885551751
こちらも書き始めたので、読んでいただけると幸いです。
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