第11話 王都への道中
王都行きの朝は、鳥の声がやけにうるさかった。
いつもなら「お、爽やか〜」って思うのに、今日はもう不吉の合唱にしか聞こえない。
(ああああああ行きたくない……でも行かないと魔力検査スルーになって、それはそれで王族に怪しまれてもっと死亡ルート……!)
ベッドでごろごろ悶えていると、容赦なく扉が開いた。
「若様、出発の時間でございます」
セバスだ。今日も完璧に燕尾服を着こなし、無駄に爽やかである。
こっちは胃が死にそうだってのに。
「……セバス、今日だけでも代わりに行ってくれない?」
「残念ながら、魔力検査はご本人以外では意味を成しませんので」
「ですよねー!!」
僕は布団に顔を埋めて断末魔のような声をあげたが、セバスにひょいと抱き上げられ、強制的に馬車へ。
まだ五歳児の体だから抵抗できないのがつらい。
馬車が走り出す。
コトコト、コトコト。
揺れが妙に心地よい……いや、落ち着け僕! 油断すると寝落ちして、気づいたら王都に着いてるパターンだ!
「若様、何やら緊張しておられるようですね」
「当たり前だろ!? これから人生の分岐点なんだぞ!? 下手したらバッドエンド一直線だぞ!?」
「おやおや、まだ何も始まっておりませんのに」
セバスは涼しい顔でティーカップを傾ける。
馬車の中でティータイムを楽しむ執事ってなんだよ。しかも揺れ一つでこぼれないのすごい。
僕はひとりぶつぶつ言い続ける。
「はー……死にたくない……いや、死ぬのは本筋じゃないけど名誉剥奪と追放ルートは実質死……」
「若様、声に出ておりますぞ」
「わざとだよ!!」
馬車の中に僕の情けない声がこだまする。
道中、立ち寄った宿場町ではさらに試練が待っていた。
夕飯が出てきた瞬間、俺は固まった。
「……全部イノシシ……?」
テーブルに並んだ料理は、焼きイノシシ、煮込みイノシシ、燻製イノシシ、イノシシスープ。
イノシシ尽くしフルコース。
「この地方では、冬の保存食として重宝されておりますな」
「いや、バリエーションが野性味に全振りしすぎでは!?」
セバスは平然と肉を口に運ぶ。
僕も恐る恐るかじるが、意外とおいしい。おいしいけど獣臭がすごい。
「なんか僕、検査前に野生化しそうなんだけど!?」
「魔力も野生の力で増すやもしれませんな」
「やめて!? 爆発率上がるから!」
食堂の隅では地元の子供たちがこっちを見てクスクス笑っていた。
「ねー、あの坊ちゃん明日王都行くらしいぜ」
「こえーぞー、王都の検査! 魔力ないと笑われるんだってー!」
おいおい、そういう情報いらない! 不安煽るのやめて!
「セバス、帰ろう。もう帰ろう」
「今夜はお休みになれば明朝には王都に到着ですぞ」
「うわあああああああああ!!」
宿の天井に僕の叫びが木霊した。
翌朝、ついに王都の城壁が遠くに見えた。
「でかっ……!」
見た瞬間、心臓が変な音を立てた。
高い城壁、見渡す限りの屋根、朝靄の中で光る尖塔。
田舎者ムーブを隠しきれず、口がぽかんと開いてしまう。
「若様、閉じませ」
「無理! あれ絶対ラスボスの城だろ!?」
「王都でございます」
セバスは淡々と答える。
王都の門をくぐると、人の多さと喧騒で耳がキーンとなった。
市場の声、馬のいななき、パンを焼く匂い――全部が刺激的だ。
「帰りたい(真顔)」
「いま着いたばかりですぞ」
「もう十分満喫した!」
セバスに引きずられるように、僕は検査会場へと向かう。
しかし――まだ終わりではない。
(これからが地獄の本番……!)
馬車の窓から遠ざかる城門を見ながら、僕は深く深くため息をついた。
◇
王都の門をくぐった瞬間、脳が処理落ちした。
露店の呼び込み。
パンと香辛料の匂い。
馬車の音、人の声、犬の鳴き声。
情報量が多すぎて、俺の口はぽかんと開いたままだ。
「若様、口を閉じませ」
「無理! 情報が多すぎてフリーズしてる!」
セバスが馬車を降り、優雅に俺を抱き下ろす。
地面に立った瞬間、人の多さにめまいがした。
「人、多すぎ……帰ろう」
「まだ何もしておりませんぞ」
セバスは涼しい顔で進む。
僕は必死で後を追う。
通りすがりの子供たちがひそひそ言った。
「あ、公爵家の坊ちゃんだ」
「ほんとだ、あの黒髪だ」
見られてる!
僕、なんか変なことしてる!?
「若様がキョロキョロなさっているからですな」
「無意識に挙動不審なの!?」
やがて見えてきた建物は、白壁に赤い屋根の立派な館。
正面には魔法陣の紋章。
「ここ?」
「はい、魔力検査場でございます」
「やだ! 帰る!」
「参りましょう」
肩を押され、僕はずるずると中へ。
建物の中はひんやりしていて、さらに緊張する。
廊下を抜けると、広い部屋。
そこが待機室らしい。
椅子が並び、もう何人かの子供が座っていた。
親にしがみつく子。
足をぶらぶらさせる子。
やたら姿勢のいい子。
「ひぃ……アウェー感……!」
「こちらへ、若様」
セバスに促され、空いている椅子に座る。
隣の席の金髪少年が、じろりと僕を見る。
「おまえ、どこの家の子だ?」
「グラシア公爵家……です」
その瞬間、部屋が一瞬静まり返った。
後ろの子供が「公爵家!?」とひそひそ。
金髪少年は顔をひきつらせたが、すぐ胸を張った。
「ふ、ふん。俺はローズバート伯爵家の長男だ。魔力量はB等級って言われてるぞ」
「……そうですか」
いやそれ今言う必要ある?
公爵家にマウント取ってどうすんだよ。
(頼むから名前覚えられたくない……モブでいさせてくれ……!)
少年はさらにドヤ顔で言った。
「公爵家の子がE等級だったら笑い者だからな」
プレッシャーやめろーー!!
セバスは横でニコニコしている。
この人、完全に楽しんでる。
前の子供たちが次々と名前を呼ばれ、別室へ入っていく。
しばらくして出てくると、記録係が告げる。
「中光、C等級」
「小光、D等級」
親たちが「まあまあね」とか「やった!」と一喜一憂。
やばい。
僕の番が近づいてくる。
心臓バクバク。
足プルプル。
「若様、顔色が真っ青でございます」
「当たり前だろ! 胃が痛い!」
「深呼吸を」
「してる! 過呼吸になりそう!」
そのとき名前が呼ばれた。
「グラシア公爵家、アルフォンス様」
ギクッ。
金髪少年がにやりと笑う。
「お、いよいよ公爵様の番か。見物だな」
「見ないで!? 見物しないで!!」
セバスが優雅に立ち上がり、僕の肩に手を置く。
「さあ、参りましょう」
「いやぁぁぁぁぁ!!」
泣きそうになりながら立ち上がり、僕は検査室へと歩き出した。
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