桃花

私たちが出会ったのはどしゃぶりの雨の日だった。淵は雨なのにも関わらず傘を持っていなかった。結構降っているにも関わらず、急ぐ様子もなくスマホを見ている姿は、なんか切なかった。何かから逃げている気がした。そこら辺の電柱と変わらなく見えた。私は性格のいい人間ではないが、その時だけは傘を貸してみようと思った。「すいません」と話しかけてみる。こっちに振り向いた。その髪は濡れていた、顔も疲れているようだった。顔立ちはかっこいい感じだったが、目が冷たかった。その目を見てそこから立ち去りたくなってしまった。でも本当は優しい人なのがわかっていた。「傘貸しますよ?」と言ってみた。「いや、大丈夫です。」と一瞬で会話を断ち切られてしまった。淵は、そのまま歩いて行ってしまった。それでもそこで、諦めてはいけない気がした。なんでか分からない。いつもならその言葉だけで挫けてしまっていただろう。前に行ってしまった淵のところに駆け足で行って、傘を握らせた。「私もう一本あるので。」と言って先に走って行ってしまった。何をしているんだろう。その日はずぶ濡れで家に帰った。

それから淵はずっと私のことを探していたらしい。私にあった道を毎日通って。また、会えたのは一ヶ月後のことだった。

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