第8話 空気、衝撃波

 昨日の配信の後、俺は中々アイデアを出せずに居た。


「どうしたの?返事ないけど」

 ルナが俺に連絡を送る。

「ちょっと落ち込んでた」

 俺がそう返信すると、ルナは俺にこう送ってきた。


「ちょっと……高砂駅西口、11時集合で」

 今は10時、急いで準備をして千住大橋駅へ向かう。


 10時42分発、佐倉行きの快速。

「次は……青砥……」

 すると、レーベル担当者のタガノからメールが届く。


「京月ハルトは自分がプロデュースするトリプルボーカルのユニットに、ルナを呼ぶつもりだ。ひとまずルナに確認を取ってほしい」


 そのメールを見た瞬間、俺はどこか喪失感を感じボーっとしていた。


「ご乗車ありがとうございました。高砂です」

 気が付いたら扉が開き、俺は急いで電車から降りた。


「朝霧さん?なんだか目がキョロキョロしてますけど、何かあった?」

 改札を出ると、ルナとsen-naが待っていた。

「ルナ……」


 俺がそう呟くと、sen-naがこう言う。

「何か……嫌な事があったみたいね。とりあえず、近くのラーメン屋にでも」


 俺たちは、ラーメン屋へ向かった。


「ミヤセも……絶対呼んだ方がいい事が起きてる」

 そこから俺は昨日のライブの裏側で起きた京月の発言と、さっきのメールの事を伝える。


 ルナはこう返す。

「変わっちゃったな……ハルト。私の知ってるハルトじゃない」

 そして、続けてこう言う。

「でも、朝霧さんは悪くない。だから……私が責任を持つ」


 sen-naはこう聞く。

「……責任?」


「実は……」

 sen-naとルームシェアしている、2DKのマンションに入る。

 そこでルナは、過去の事を話し始めた。


 話は、ルナが高校時代の事。

「今日のMライのメインを飾るのは……新進気鋭の超新星バンド、”Stardust Echo”!新曲”輝く星と仲間たち”を演奏してもらいます!」


 ”Stardust Echo”。それは、かつて京月とルナが中心となって行っていたバンドである。

 王道進行のピアノから始まり、王道な歌詞を歌う。


 しかし、それがいつしかルナにとっては違和感になっていた。

「”Stardust Echoの皆さん、ありがとうございました!”」


 番組終わりの楽屋で、ルナは京月にこう言った。

「私に……作詞をさせてくれないかな」


 すると、京月はこう返す。

「ルナは俺の歌詞であって輝くと思うんだ。だから、俺に歌詞を考えさせてくれ」

 ルナは、それを聞いて少し迷いが生じた。


 そこから1週間も経たないうちに、事件は起きた。


「もっと売れる曲を作らないと!」

 京月は、バンドのメンバーにこう言い怒る事が増えていた。

「あの……私は、”売れる曲”より”心に響く曲”を歌いたい」

 ルナがそう言うと、京月はぶつかるようにこう言った。


「なんでだ!俺たちは金が無い。そんな状況で”売れない曲”を作っても赤字なんだよ!」

 京月はライブハウスの売れたチケット枚数を数え、続けてこう言った。

「まだ今夜のライブ、3枚残ってる!このチケットを売り切ってから言ってくれ!」

 その瞬間、ルナは”京月と自分はくっつけない磁石同士”だと思った。


「それじゃ、”輝く星と仲間たち”!」

 京月らメンバーはいつも通り演奏をし、ルナもいつも通り歌う。

 しかし、ライブMCを兼ねた京月がライブを終わらせようとすると、ルナはこう言った。


「私……もう無理です!いつまでも同じような曲を歌っても私は……楽しくも何ともない!」


 観客は驚き、京月は少し拳を強く握った。

 これが、京月に”自分勝手”だと思われた。


 メンバーたちは楽屋で揉めた。

「ルナの言う通りだよ!」

「いや、京月が言う通り赤字になっては困る」

 そして、京月はこう言った。

「ルナ……もうバンドに来なくていいぞ」

 メンバーは驚きながらも京月に言い返せなかった。


 バンド”Stardust Echo”は、その月のうちに空中分解した。


 話は現在に戻り、自宅でルナはこう言った。

「まあ、こんな事があって。私の自分勝手なのもあるから、責任は私が取る」


「責任って……もしかして、京月のユニットに入るつもりか!?」

 俺がそう聞くと、ルナは縦に頷く。


「このタイアップ曲ができたら、私はそのユニットに入る。数年したら戻るから、それまで代役のボーカルを呼ぶことにする」


 俺は、正直驚きを隠せずにいた。


「……その思いがあるのなら、俺はこの曲に全力を尽くす。だけど、絶対に帰って来てくれ!」


 そして、俺とsen-naは作曲部屋の機材を使って、その日の夕方までにタイアップ曲を完成させた。


 曲名は”Day After Grow”。明日の成長を願うような、そんな歌になった。

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