第6話 自覚とライバル

 オリバーさんのゲームに楽曲提供をして1ヶ月後、ゲームはついに発売された。


 すると、海外のゲーム実況から火がつき、世界中で”インディーズとは思えないクオリティのダークファンタジーRPG”と高評価を得る。

 そんな中で、少しずつDo Today Mylifeも口コミを集め始める。


「聞いた?あのゲームのテーマ曲、日本のバンドが作ったやつらしいぞ」

 そんなコメントから始まるSNSの投稿。


「聞いた聞いた!J-POPっぽくはないけど面白い曲だよね!」

 そういう返信がついている。


 また、オリバーの元にはこんなメッセージも届いていた。

「日本語パッチ当てるのが面倒だから、公式で日本語対応してくれないか」

 そんな要望を受けたオリバーは、日本のあるゲームメーカーに連絡を取っていた。


 ルナはメールを読み上げながらこう言う。

「ローカライズ……ですか?」

 DTMの仕事用メール。普段はちょっとした依頼しか届かないこのメールアドレスに届いたのは、sen-naによると”ネットで売れだした作品を大幅にバックアップしてくれる”と評判らしいゲーム移植専門のメーカーからのものだった。


 続けて、ルナはこうまとめる。

「なんかゲーム機とPC向けに日本語対応の多言語版を出したいから……新曲を作ってそれをテーマ曲に。か……」


 sen-naはこう言いながら興奮を隠せない。

「自分たちの曲がゲーム機で流れるのよ!やるしかない!」

 しかし、ミヤセはこう言う。

「でも、契約とかしても、僕達まだインディーズですし」


 俺はこう言う。

「インディーズでも、これからメジャーデビューするかもしれないし……。いや、目標のためにはこのタイアップ、そしてメジャーデビューは必須じゃないか?」


 ルナはこう返す。

「そうね。インディーズでも……やってみたい」


 すると、ミヤセはこう言った。

「自分……まだそこまで行ける自信も、そうなった時に自覚も持てない不安が……」

 珍しくミヤセが弱音を吐いた。


「そんなのやってみるしかないじゃない!当たって砕けろよ!」

 sen-naがそう言うと、ミヤセは考えながらこう言う。


「このバンド……目標ってなんだっけ」


 俺はその部分を考える。

 ソロライブ、タイアップ……そして、ルナとユニットを組んでいた相手”京月ハルト”を追い越すこと。


 しかし、それが全員を納得させられるとは思えなかった。


「”Mライ”に出る。そして……日本の音楽ブームを作る」


 俺は、無意識に近い状態でそう言う。

 Mライ……全国ネットの国民的音楽番組だ。

 正直、今の俺達には出れるはずもない。


「……無謀。」


 ミヤセはこう言うと、少し固まったあとにこう返した。


「……だけど、無謀な方が……人を本気にさせる」

「分かった。その依頼、受けていいと思う」


 こうして、ゲームの多言語版の音楽制作にDo Today Mylifeは携わることになった。



「最近こんな音色を作ってみたんだ。ストリングスとサイン波を混ぜたみたいな」

 俺はsen-naと通話しながらキーボードで音を鳴らす。

「面白いじゃん。……レイテンシは相変わらずだけど」

 俺はその音色を使いながらステップ入力をしてみる。


「いいじゃん。私超えてるわ」

 それは、初めてsen-naが俺の音楽を絶賛した瞬間だった。


 2週間後、ゲーム”dear in the tomorrow”のローカライズ版テーマ”After the Tomorrow of Shadow”がsen-naの編曲もあり、遂に完成。


「いい曲ですね!……先払いでってことでしたが、月末払いになってしまって申し訳ない」

 メーカーの担当者がそう言いながらデータを納品する。

「いえいえ、採用いただきありがとうございます!」


 そして、インディーズ版のPCゲームが大ヒットする中、ローカライズ版が発表。

 発売は3ヶ月後、年末商戦のタイミングとなった。


 1ヶ月後、インディーズながら依頼が相次ぎ、一時的に受付を停止していた。

「朝霧!あんたの手際は良いけど流石に20曲も同時に捌けないでしょ!」

「ごめんなさい!でも一気に依頼が来るとは思ってなくて!」

 俺とsen-naは依頼の曲を作りながらこう電話する。


 ゲームの大ヒット以降、国内の個人から海外のメーカーまで多くの依頼が来ており、ほぼ不休で作業をしていた。

 そんな中、俺はある決断をする。


「退職届……?」

「はい。実は僕、加々見さんと一緒にバンドをやってまして……そのバンド関係で忙しくなって」


 すると、上司はこう言う。

「音楽か。よし!受理する!……ただし、戻って来る時は俺に連絡しろよ?」

「はい……!」

「戻る場所は残してやる!だからそっちで思い残すことのないよう思い切りやって行け!」

「はい!」


 ここで、本格的に俺は音楽の道へ動き出した。


 一方その頃、都内のあるタワーマンション。

「ルナが……バンドを?」

 ネットニュースを見てそう呟いた男がいた。


 彼こそ、かつてルナと同じグループにいた”京月ハルト”だった。

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