第5話 インディーズ
「はじめまして。私はイギリス人でゲームを作っています。音楽を調べていたら、この動画に出会いました。ゲームの音楽を作ってくれませんか?」
新曲を投稿した日の夜。居酒屋に居た俺たち4人はこんなコメントを受け取った。
「……詐欺じゃね?」
ミヤセはツッコむ。
「いや、この人のアカウント見たら普通にゲームの製作PV出してる……っていうかそういう動画が普通に万単位で伸びてる」
ルナは少し驚きながらそう答える。
「じゃあ、どんな依頼か質問してみる?」
俺がルナにそう聞くと、ルナは頷いて相手にメールを送る。
「はじめまして。Do Today Mylifeのボーカルをしています、ルナです。ゲームの音楽制作との事ですが、どのような音楽を作ればいいですか?」
ルナはこの文章をアプリで翻訳しメールを送信していた。
翌朝、通勤中。
4人のグループDMにルナが長文を送っていた。
「昨日メッセージをくれたイギリスの方……オリバー・グレイヴスさんから返信が来ました。”ボス戦のBGMを作ってほしい。EDテーマはあの動画の曲がぴったりだ”……とのことです。著作権は自分たちが持ったままで構わない、それどころか売上の一部を還元したいとのことで」
俺はDMにこう返す。
「”ボス戦のBGM製作”ね。あんまりイメージできないなぁ」
すると、sen-naがこう送る。
「私、ゲーム好きだから作ってみたい」
こうしてsen-naにこの曲の作曲を任せ、俺はキーボード部分の音色などを担当する事になった。
仕事終わりの上野駅。
混雑する常磐線。
「曲ができた。……でもゲームの紹介動画から読み解いただけだから雰囲気が分からない」
sen-naからそういうメッセージが届く。
「公式の紹介ページを機械翻訳してみたら、”日本のダークファンタジー漫画に影響を受けたRPG”らしい。あと雰囲気としては2Dのドット絵で実験的な演出を取り入れてるから、自分たちの音楽のままでもいいんじゃない?」
ミヤセがそう送ってくると、ルナはこうメッセージを書く。
「オリバーさんに質問したら”日本語の歌詞でもいい”、”日本のアニソンっぽくしてくれ”だって。……オリバーさんの好きなアニメのテーマ曲聞いたけどJ-Popだなぁ」
すると、俺は自然とメロディーが思い浮かぶ。
「まもなく、南千住……」
俺は南千住駅の椅子に座り、イヤホンを付けてメロディーの1ループ分をスマホで取り急ぎ作る。
「こんなのどう?」
1ループ分を画面録画したのを送ると、sen-naからこう返事が返ってくる。
「それだ。使う」
sen-naは1時間後にある曲の音声データを送ってくる。
その曲のファイル名は、”Dear in the Tomorrow 仮音源” とあった。
「もう仮音源できたのか。早いな」
風呂上がりの俺はそう呟きながらwavファイルを聴く。
「ただ涙を流したいだけだった どうしようと戻れなくなった」
そんなルナの歌声とギターのイントロから始まる、王道アニソン風の曲。
ただ、途中から雰囲気は変わる。
「誰かに伝えたいこの思い だけれど僕はもういないかもしれない」
Bメロの最後でそう歌った瞬間、音にノイズが走る。
「きっと自分は居ない、誰もいない こんな愚かな世界、誰も不在」
サビでは逆再生のエフェクトがかかったピアノが流れる。
新感覚な曲だと思った。俺はこう送る。
「すごい……これ、オリバーさんに送りましたか?」
sen-naはこう返す。
「送った。この後オリバーさんが通話してくれるらしい」
その通話の時の表情がどうなるか、期待と不安が入り混じっていた。
夜の11時。オリバーさんからビデオ通話が入る。
「はじめまして……オリバー・グレイヴス、です」
そこには、若い男性が居た。
「はじめまして……日本語でいいですかね?ボーカルのルナです」
ルナがそう言うと、オリバーはこう返す。
「いいですよ。曲ができたらしいですが……曲を聞かせてくれますか?」
sen-naは焦ってメールを確認する。
「あっ……ごめんなさい!音源を送り忘れてました!今から送ります!」
メールが送られると、オリバーは曲を聴き始める。
「素晴らしいです!このまま使いたいくらいだ!……です!」
曲に驚きと興奮を隠せないオリバーは、続けてこう言う。
「あっ!送金しておきますね!この曲を日本でライブしているところ、見てみたいです!」
俺は”ライブをしているところ”を想像して、その場面を目指したいと思った。
そして2か月後、そのゲームはあるネットニュースになっていた。
「イギリス発ダークファンタジーRPG、全世界で大ヒット 日本のバンドが楽曲提供」
……少しずつ、有名になってきた気がした。
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