第4話 今日の自分を生きる

 翌週。俺たち4人はスタジオに集合した。


「本気で一曲仕上げるか」

 sen-naはそう言うと、各自機材を用意し始めた。


「まず朝霧さん、そのシンセサイザーを弾いて。ノートパソコンに繋いでるから、あの時の音色は出ると思う」


 俺は練習していたピアノパートを何パートかに分けて弾く。

 ピアノ経験がほとんどない自分は、時々ミスをしながら演奏する。


「OK。じゃあ次は私がドラムマシンとか鳴らすから。」


 そしてsen-naはドラムマシンなどをパートに合わせて鳴らす。

「正直、ここは事前収録でも良かったんだけどね」

 そう言ったあと、sen-naはこう言う。

「じゃあ、ミヤセ。tab譜の感じで即興混じりで弾いてみて」

「はい!めちゃくちゃミュート入れますけど、いいかな?」

 俺とsen-naは頷く。


 ミュートでアルペジオを弾いて、一発OK。


「最後に、ルナ。歌詞はあの時のデモ音源のままで、もっと抑揚つけて歌ってみて」

「わかった。一応ガイドメロディは貰ってるからそれベースにやってみる」


 そして、ルナは2番を含めたフル尺で歌う。

「完成……でいいかな。これ以上やってもよくわからなくなるだけだと思う」

 そうsen-naが言うと、俺はある事を言う。


「そういえば、これってyoutubeに上げるんだっけ」

「うん。バンド用アカウント作ろうと思ってる」

 ルナがそう返すと、俺はこう返す。


「バンド名、なんだっけ」


 そう。曲はできたがバンドと曲の名前がまだ決まってないのである。


「それなんだけど……曲の中の歌詞から選ぼうかなって。一つ自信のある部分があって」


 すると、ルナは歌詞を読み上げる。

「Do Today Mylife 今日は自分にとって変わりだす日」

「ここ。ちょっと機械翻訳で無理やり作った英語歌詞だけど、DTMの略になるから面白いかなって」


 sen-naは面白がってこう言う。

「大分機械的な訳ね。でも、それめっちゃいいと思う」


 ミヤセはこう言う。

「検索されにくいんじゃない?DTM解説動画と混ざりそう」


 ルナはこう言う。

「だからバンド名として使うのは”Do Today Mylife”で、略称のDTMはあまり使わないようにしようかなって」


 俺はこう言う。

「いいと思う。ほかの意見がなかったらこれでいいんじゃないか?」


 結果、バンド名とデビュー曲の名前は”Do Today Mylife”に決まった。


「それじゃあ、録音流すよ」


 そうして流れると、音が重なった瞬間にスタジオの空気が変わった。

 曲は、”俺の音楽”から”みんなの音楽”になっていた。


「じゃあこれをyoutubeに……ジャケ写は時計とかで」


 翌日、動画が投稿された。


「バンドを始めました。聴いてみてね」

 ルナのアカウントが動画を宣伝する。


「えっ!?あのルナさんがバンドを!?」

「絶対聴く!」

 動画はその日のうちに2000回再生された。


 その再生数を見ながら、俺たちは居酒屋に居た。

「ここからさらにどう広めていくかだね」

 sen-naは続けてこう言う。

「目標は……ソロライブにしておこうかな?」


「いや、タイアップ……そして、あの”京月ハルト”を超える」

 ルナは、小さくそう言った。


「京月……か」

 ミヤセはそう言うと、何やら闘志が溢れたかのような目になる。


「京月さんって……高校時代にルナと組んでた相手だよな」

 俺がそう聞くと、ルナはこう返した。

「ええ。だけど、今の私にとっては追い越したいライバルだから」


「私はあの人に置いていかれた。だから今度は、私が追い越す」


 高校時代に何かあったのだろうか。そう思っていると、動画にあるコメントが付いていた。


「はじめまして。私はイギリス人でゲームを作っています。音楽を調べていたら、この動画に出会いました。ゲームの音楽を作ってくれませんか?」


 このコメントが、これからのバンドに繋がるとは、まだ誰も思ってもいなかった。

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