第13話 エピローグ

 ――鑑定屋。


 カウンターに突っ伏す店主・適見の姿があった。

 半目のまま頬を押しつけ、ため息と涎を漏らす。


「……だる……。街が呪物まみれだろうが、眠いもんは眠いんだよねぇ……」


 窓の外では、呪物雨で混乱する市民の声が遠くに聞こえる。

 紫織は腕を組んでその横に立ち、ため息交じりで言葉を叩きつけた。


「はぁ……なんだって、最後の一個を忘れるのよ……」


「……しょうがないじゃない……にんげんだもの……ミスだって見落としだつてあるわ……」


「そ、そりゃそうだけど――!」

 紫織はこめかみを押さえ声を漏らした。


 そのタイミングで――。


 ――ちりん……


 不吉なベルが鳴った。


「……っ、また嫌な音……」

 紫織の目が細くなる。


「我こそは勇者、七光 勇!」

 扉を勢いよく開け、勇者が胸を張って入ってきた。


「……またアンタか……、今度は何を持ってきたの」


 ふたりが抱えていたのは、人型人形。

 カウンターにどん、と置かれ、埃が舞った。


「なにこれ……」紫織が眉をひそめる。


「森のダンジョンから持ち帰った古代の品だ!」勇者が堂々と言い放つ。


「おー……。珍しくちゃんとダンジョン攻略してるじゃん……」


「当たり前だ! 勇者だぞ!!」


「ちょっと前まで、山下さんち攻略してた者とは思えぬ発言だねぇ……」


「勇者さまは魔が差しただけなのよ!」真白は胸を張る。


 適見は半目のまま起き上がり、指先で箱をつついた。

「……ふぁぁ……もう疲れたし……。これが最後なら、私の名前でいいや。“KANAMI”っと」


「あっ、ちょっと適見! 鑑定もせず適当に付けないでよ!!」


「どうせちゃんと鑑定したところで兵器か何かでしょ……。だったら適当な名前で逃がしてあげるのさ……」


「そ、それもそうだけど……。なんだか納得いかないわね……」


 ぎしぎしと軋む音を立てながら、金属の人形が立ち上がった。

 ぷしゅーと音を立て白煙に覆われる。


「……おー。立った立った……」


 白煙が晴れた時、そこに立っていたのは。

 適見と瓜二つの姿。

 黒髪、ゆるい服装、眠たげな目――だが瞳は虚ろで、言葉も発しない。


「……コピー人形かこれ……」


「適見と瓜二つ……!?」

 紫織は驚きを隠せない。


 自動人形(KANAMI)は無言のまま、勇者を見つめ、ゆっくりと歩み寄った。


 そして、勇者に近づき背中に腕を回すと、ぎゅっと抱きつく。


「お、おぉ……! カナミ……!」

 KANAMIの長い髪と頬が、勇者の顔とへ触れる。勇者の表情は緩み、恍惚の笑みさえ浮かべていた。


「勇者さまぁぁぁぁ!!! その悪女は離れろおぉぉぉぉ!!」

 真白は絶叫と同時にKANAMIの頭部を全力で蹴り飛ばすと、ミシミシと鈍い音を立て、勇者と共に扉の外へと飛ばされる。


「ま、待っ――」勇者の声は届かない。


〈ドォン!!〉


 飛ばされた勇者とKANAMIは、絡み合ったまま地面を転がると、その人形は青白く発光していく。


「ちょ、外れな――」


〈ドゴォォォォォォォン!!〉


 爆発的な閃光と衝撃。

 自動人形は粉々に吹き飛び、勇者は悲鳴を上げながら爆風により店内へと突っ込んだ。


「ぎゃああああああああああ!!!!」


 再び舞い戻ってくる勇者は、カウンターに突き刺さった。店内は瓦礫と煙に包まれ、紫織は額に手を当てて大きく息を吐く。


「……また店が……ボロボロね……」


「……あー……だる……。掃除、明日でいいかな……」


――――


 その時。


「はいっ! こちら現場のリーネです!!」


 外から、あまりに元気すぎる声が響いた。

 爆煙の中に突撃しようと、カメラを抱えたリーネが走り込んでくる姿が見えた。


「今まさに鑑定屋で爆発が起きました! 今から突撃リポートを――!」


 彼女の声が煙を切り裂き、画面が揺れる。


「あー……また何か来た……。もう怠いからやめても、いいかな……」


 適見の呟く声に被せるように紫織が言った。

「好きにすればいいんじゃない? 適見の事だし、やりたくなったらやればいいのよ……」


◆あとがき◆

 さすがに疲れました。ほとんどの時間を全て小説に回し書き続けておりましたが、ペース的には1話を半分に割って掲載すれば少し楽だったのかなと感じております。ですが、始めた以上勢いを失いたくなかったので、敢えて分割せずこのような形で執筆しました。英文を使わず設定をもう少しファジーにすればもう少し面白くできたのかなと、後になって思っております。

 一応この後に続く話は、ざっくりとは考えてはおりますが、続けるかどうかは反応を見てという感じで、ちょっと未定です。


 何はともあれ、ここまで読んで頂いてありがとうございました。

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適見さんちの怠惰な鑑定☆今日も呪物が生まれました Macrocosmic_Nama @Macrocosmic_Nama

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