拡大 1

 「何だお前来たのか。だそうです」沼田は、先日と同じエビフライをほおばりながら言った。


例の野州山辺やしゅうやまべ駅の防犯カメラの映像。


その切られた部分を持ってきたのだ。


 「何だお前来たのか・・・やっぱり誰か・・・というより知った顔がいたんですね」松山は改めて映像を見ながら言った。


 「以前は、読唇術どくしんじゅつを身に着けている特殊な捜査員の仕事だったんですが、今はパソコンのソフトでポンですよ」沼田は、何故か可笑しそうに笑いながら言った。


パソコンの画面で切られた部分の映像を確認したが、やはりそこに相手は映っていなかった。


 「あのここに写ってる影については?」


 「それはですね、その影の濃さから考えて、かなりその影の近く・・この画面すれすれにいるみたいなんですよ。そうするとかなり小さいもので・・・人ではなさそうなんです。」


 「犬とかですか?」


 「犬か猫か、そんな感じです。廣田はアパート住まいで飼い犬はいなかったんで、見知った野良犬かなんかですかね?そうすると「何だお前来たのか」の意味も鞄に入っていたドッグフードも説明がつきます。目撃者じゃなかったですね」沼田にとってはそれだけの意味だろうが、松山には違った。


犬なのだ。


 「今更ですけど松山さんは・・・失礼、被害者の家族でもない方が、なぜこんなに事件のことを、気にして調べたりを続けているんです?」


 「おかしいですか?」


 「たまに気になって何度も警察に電話をかけてくる。なんて方はいたりしますが、そういう方はその・・・そういう方なんで」


 「・・・」


 「主人公が事件に巻き込まれて、事件を調べていくうちになんて言うのは、小説ではよくありますが、普通はあり得ません。」


 「そうでしょうね」


 「いやね突然変な話をするようですけど、昨夜ゆうべ夢の中に廣田が出てきまして・・・よっぽど気になっていたんでしょうな、どこかの知らない橋の上ですれ違ったんです。夢はそれだけなんですが・・・起きてからも妙にハッキリ覚えていて、ほら夢って目が覚めると忘れてしまうでしょう」


 「・・・」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る