B-side

 私は深雪が好きな気がする。

 といっても、勿論嫌いな可能性はないけれども。たぶん、友愛の延長で、恋っぽい何かが生まれている気がするっていう話。ただ、別に私自身それは恋でもそうじゃなくてもいいと思ってる。結局どっちであろうと、私は深雪が好き。

 でも、それをはっきりさせたいと思うことが恋なんだとしたら、やっぱり私は深雪が友達だ。幼馴染で、大好きな、友達。


 深雪は可愛いと思う。

 その辺にいるクラスメイトは、深雪のことを、かっこいい女の子だって言ってたけど。可愛いとこも、沢山ある。好きな事を私に共有したがるところや、とても猫好きなところ。寝顔の幸せそうな表情だって、すごく可愛い。



 そんな深雪なんだけど、最近、少し思うことがある。つまりは、今日日ちょっと調子乗ってる。……確実に。

 そもそも友達とは、幼馴染とは、対等な関係である。それなのに深雪が、ずっと此方を揶揄ってきている気がして、聞いてみればその通り。まあ有罪が妥当だよね。自首だったら情状酌量の余地があるけど、出頭はない。アウト中のアウト。


 だから、今、刑を執行しようとしている。



「……凛、やっぱり正気?」

「正気」

「ダァウト!」

「正気だから、早く服脱いで」


 ……名誉の為に先に言わせて貰えば。

ここはベッドの上、なんて事はない。それなので、そういったことは何も問題ない。


「やっぱり、頭おかしいって!」

「だから、早く脱いでって。何?脱がされたいの?」

「私は文化的な最低限度の生活を保障されてるの!只それを主張してるの!人としての尊厳があるの!」

「大丈夫だよ、深雪。お風呂は文化的だよ」

「一緒に入るのがおかしいって言ってるの!」

「?」

「なんで!?」


 ここまで聞けば、大体の人は理解するだろう。この深雪は、飼いたての猫みたいに、お風呂を徹底的に拒否しているのだ。そんなにお風呂が嫌いなのは、幼馴染なのに知らなかった。

 というのは流石に冗談で。説明をするならば、時は少し前に遡る。約束をした。深雪が宿題をしていて、一番うとうとしたタイミングをやりました。終わり。そうやって、お互いの合意の下で、一緒にお風呂に入ることになった。合意はあった。


「深雪は、口約束は証拠がなければ踏み倒すタイプ?」

「ちがうよ!?でも、せめて理由だけ聞かせてよ」

「私を散々揶揄ってきた罰」

「あっ」


 そう、理由ならある。そっちが悪い。



「……そんなに嫌だったの?それならごめん」

「いや別に気にしてないけど」

「じゃあいいじゃん!」

「それはそうとして、私を揶揄った事実に対する償いは必要だと思うの、早く脱いでよ。脱がすよ?」

「あー、……わかったから!」

「それでいいんだよ」


 今一度同意をとり、深雪の裸は確約された未来だ。いや、見たいわけではないと思われるのだけれども、それであっても幼馴染の体を見ることに抵抗はなく、寧ろ自分が確認するべき……。

 脱線。まあ、今までやられた分くらいは揶揄っても罰は当たらないでしょう。


「……凛」

「何?」

「少しは視線を逸らせ」

「大丈夫。23.4度くらいずらしてるから」

「地軸かな?ってどうしても突っ込んでしまう自分が憎い」

「……いいよ、先入っといてあげるから。後から来て」

「逃げるのは?」

「打首獄門」


 私は深雪を思って先に浴室に入ると言っているのに、この期に及んでまだ逃げると言う発想があるらしい。

 なんて、そんなことを考えつつ、さっと服を脱いで、ささっと扉の先に入り、さささっと扉を閉めた。


 深雪を待つ間にシャワーを少し浴びながら、昔の事を思い返していた。

 実は二人きりでお風呂に入るのは、初めてではない、なんて言って思い出を語りたいものだけれども、残念ながら初めてである。けど、修学旅行なんかでは一緒に入ったことはある。窓から見えるししおどしと、お風呂の後のお肉しか印象に残ってないけれども。


「入っていい?」

「いいよー」


 扉が開いた。

 深雪がいた。

 ……いや、それは当たり前だけれど、それはもう一糸すら纏わぬ姿で、すっと視線を後ろに向けた。


「……なんか喋ってよ」

「……先に私の背中流して、深雪」

「え、」


 ?


「なんで私が凛の背中洗うの?」

「二人でお風呂に入るなら、普通では?」

「普通なの?」

「普通だと思う」

「普通かぁ」


————————————————————


「今度逆ね」

「りょーかい」


「ひゃっ」

「どうした」

「……驚いただけ」


「は?前は自分でやるわ。凛も自分で洗ってたでしょ」

「じゃあ、頭は?」

「……頭くらいなら」


「あー、いいねぇ」

「口開くとシャンプー入るよ?」

「気をつけてるから大丈夫」


「ちょっ、耳は頭じゃっ、まっ、」

「……」

「やめっ、なんとか言って、ねぇ!くすぐったいだってば!」


「なんか、ぞわってくるっ、から、やめっ」


————————————————————



「馬鹿」

「……後悔はしてない」



 機嫌を損ねてしまった。

 なんでこんなに怒っているのか。まあ、それ自体は耳やら頸やら、色々やったのが理由でしょうが、深雪の反応が面白いのが悪い。って、これもしかして嗜虐心のようなものなのかもしれない。

 なんて考えつつ、改めて深雪の姿を俯瞰して見る。


 赤く上気した頬、少し荒い息、乾ききらずにしっとりと濡れた髪。緩い寝巻で床に座り込み、下から見つめてくる深雪の姿。それに何も感じない訳でもない。


 でも、それでも、深雪は友達がいい。何でかなんて、よく分からないけれど、そんなものはどうだっていい。深雪が好き。友達として。

 これは境界の話。深雪と友達である為の、境界。私の気持ちの一つに、間違いなく友愛があって、それは如何しても大切にしたい。


 



 手を繋ぐのは友達。それは凄く自然にする行為だから。


 間接キスは友達。それは誰だってすることだから。


 抱きつくのは友達。それはいつか深雪が自然だと言ったから。


 頭を撫でるのは友達。くすぐるのは友達。安易に揶揄って、ある場所とはかけ離れた何処かに辿り着くのは友達。

 深雪が、それは友達だと教えてくれたから。



 あーあ。そう考えてきたら、気が楽になってきた。結局私は友達でいたかった。でも、深雪は友達がそんなものだって、示してくれていた。ねぇ、深雪。に甘えてもいいかな。


「……深雪」

「何」

「今からキスするから」

「……はぇ?」


 屈んだ。目線を合わせた。距離を詰める。

 深雪が焦っている気がする。でもまあ、普段のと比べてとんとんぐらいだよ。




 ……唇を合わせた。


 柔らかい、けど、足りない。ので、舌を入れた。深雪は自分の意思を伝えようと背中を叩いてくる。


 舌同士が絡めると結構気持ちが良くて、深雪の叩く力が抜けてくるのを感じた。耳が、自分の鼓動を捉えている。


 深雪の上顎を舌で軽くなぞると、目の前の体が少し震えた。もう、背中は叩いてこない。頭の中が扇状的な水音で溢れそうになって、そして顔を離した。


「っ、り、りん?」

「深雪」


 此方を見つめてくる目が蕩けてしまいそうで、ああもう可愛いなあなんて思ってしまう。

 ……告げる言葉は決まっている。





「これからも、大切な友達だから」


 そして、私は人生二度目のキスをした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【百合短編】カワイイ幼馴染を揶揄ってたら襲われた話と、気になる幼馴染に揶揄われたので襲った話 神山フブキ @FuBuKi1729

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ